翼は溶けない
ふぅ……満腹満腹。
「満足?」
「そりゃあもう!!」
美味しい魚介類を久しぶりに食べた気がするな。
もう大満足ですわ。
「じゃあ、本番は夕方から夜にかけてだからゆっくり寝ときなよ」
「……ん?」
このまま甲板に出て、ちょっと大空を食後の散歩がてら飛び回ろうと思ってたんだけど……。
寝てた方がいい感じ?
「沈む夕日をどこよりも高い場所から見下ろしたり、文字通り満天の星空の下で月明かりを頼りに飛び回るのがこのツアーの醍醐味だよ?」
「あー……」
このツアーならではの体験って感じで、確かに醍醐味になるな、と。
いやまぁ、空を飛ぶってのが唯一無二過ぎるならでは体験過ぎて、その延長線上ではあるけど。
「だから、夕方や夜まではイベントないでしょ?」
「……確かに。さっきの大空レクリエーションと出発のパーティしかない……」
パンフレットで確認してみたけど、昼過ぎからのイベントはぽっかりと空白。
それも、夕方や夜の体験の為って事か・
「というわけで、夕方や夜に向けて体力温存しときな。今からお酒飲めば、まぁ夕方には多少抜けるでしょ」
「さっきの食事でお酒飲まなかったからなぁ……」
確かに飲みたさある。
……ところでなんですけど、
「ハーピーのお酒って強いです?」
「いや? 言った通りお酒入ると空を飛ぶのに規制がかかるからさ。度数低め、軽く飲めるものが好まれてるよ」
「なるほど……」
「ドワーフからしたら全部ジュースと見られるみたいで、定期的に度数の高い酒を出せって要望が出てるらしい」
「ドワーフらしい」
ウェルカムウイスキーとかやりやがる種族だからね。
ハーピーツアーで提供されるお酒の度数とかを知らないけど、チューハイとかだとジュースに思えるんだろうな。
「で、ドワーフ族限定でウォッカやスピリタスの持ち込みを許可したらしいよ」
「自分で度数を上げろ、と」
「そうそう。最初はそれで客足増えたんだけど、結局飲んだら飛べないからね。飲む意味ないし、飲めないならいいってドワーフのツアー参加は減っちゃってるかな」
「基準が酒なんすね……」
もうちょっとさぁ、郷に入っては郷に従えじゃないけど、ツアーの内容を楽しめばいいのに。
ドワーフツアーですら、景色やら体験やらで楽しめる箇所あったぞ?
……酒は前面に押し出されていたが。
「というわけで、別にすぐに寝なくてもいいし、必須でも無いけど、初めてでしょ? ハーピーツアー」
「まぁ、そうですね」
「だったら俺を信じて体力温存しときな? 先駆者の意見は聞いとくものだよ」
「そうします……お酒飲んでからですけど」
「飲み過ぎるなよー」
という事でホウスさんに見送られ、ラウンジへ。
一応、バーはあるんだよな。
ホウスさんはノンアルコール飲んでたけども。
「寝る前に軽く飲めるような飲みやすいカクテルお願い出来ます?」
「かしこまりました」
ちなみにバーテンダーさんは人間。
ちょっとだけだけど、ハーピーがカクテル作ってる様子は見たかったな。
まぁ、寿司を握るのといい、バーテンダーといい、自分たちに出来ない事は他の種族に任せてるみたいだけど。
「『うろこ雲』というカクテルです」
出てきたのは、カクテルグラスに入った白いカクテル。
液体じゃなく、クリームというか泡というか……。
カフェラテとかで、滅茶苦茶クリーミーな泡が乗ってる時あるじゃん?
あんな感じ。
あの泡がカクテルグラスに注がれてる。
「いただきます」
というわけで、その泡を一口。
ん~……バニラの香りとチョコレートの風味、ビター系の苦みの奥に、ほんのりと生クリームのような甘さ……。
普通に美味いわ。
液体じゃなく濃厚な泡だから、口当たりは軽く。
泡が口の中で弾けると、香りがそこから爆発的に漏れ出すのよ。
それでいて感じるアルコール感は薄い。
まぁ、そこまでアルコールが使われてないんだろうけども。
飲みやすいし、軽いし、美味しいし、今にピッタリなカクテルですわよ。
「美味いですね」
「ありがとうございます」
「別のをもう一杯お願い出来ます?」
一杯だけ飲むか、とか思ってたけど、今の『うろこ雲』を飲んで、興味が湧いちゃった。
他にも飲みたい。
「では、『上昇気流』を。少々お待ちください」
という事で二杯目を作ってくれるバーテンダーさん。
ただ、卵を割ったり、氷を砕いたりと割と作業工程が多いことしてる。
「お待たせしました」
そうして出来た『上昇気流』というカクテルは、二層に分かれたカクテル。
グラスの下の方はピンク色で、上の方は黄色。
黄色の方には細かく砕かれた氷が浮いていて、ピンクの方は炭酸が見て取れる。
「いただきます」
というわけでグラスを傾けると……。
「?」
「そういうカクテルなんですよ」
まず理解として、グラスの上の方から口に入るものだと思うじゃん?
違うのよ、この『上昇気流』、最初に口に入るのがピンク色の炭酸部分なのよ。
で、そのピンクの炭酸はワインのロゼ、しかも微発泡のやつ。
ローズ系の香りとさっぱりした酸味、香りにはシトラスとかの柑橘も感じますわね。
そうしてロゼワイン部分を飲んだら、ようやく砕いた氷が入った黄色い部分が口に入る。
その味わいは、
「プリン?」
プリンみたいな味わい。
そう言えば、卵を使ってるはずなのに黄身も白身も見当たらないな……。
「氷に細工がありまして、溶き卵を瞬間的に氷にしてあるんですよ」
「なるほど……」
氷が卵なのか。
で、液体部分と一緒に飲むと口の中でプリン味になるようなカクテル。
なるほど。
――なんでロゼワインを下に敷いたんだろう?
「何故かロゼワインを敷くと、プリンの味が強くなるようなんですよ。使ってる魔物の卵の特性らしいです」
「ほへー」
流石異世界、常識とか全部すっ飛ばしてくるね。
「……もう一杯、何か貰えます?」
ちょっと飲むの楽しくなってきた。
もう一杯、もう一杯だけ。




