トラウマだもの
とん。ぐりぐりぐりぐり。
「あ゛ー……」
ピーチクさんから施されるマッサージ、ハーピー族の鉤爪で押されてぐりぐりされるやつ。
刺さらないように注意はしてくれてるらしいけど、刺さったらごめんなさい、とは言われた。
ごめんで済めば警察はいらない気もする。
「とにかく背中全体の筋肉痛軽減を意識してマッサージしてるでち」
「助かります」
肩から肩甲骨、広背筋、腰、と、とりあえず人体の背面側を念入りにマッサージしてもらっております。
結構気持ちいいんだけど、やっぱり人の指と違って固さがあるね。
だからこその良さもあるけど、俺としては柔らかさは欲しい要素かなって。
「ピーチクさんはこの仕事長いんですか?」
「中堅って所でちね。一人でお仕事出来るから、こうしてパーチクとスイートルームの担当になってまちゅ」
「なるほど」
「ベテランは歴の浅い子たちを率いてラウンジや各種業務の指導をしてまちゅ」
「普通の仕事と変わらないですね」
「でちね」
こう言っちゃあれだけど、ハーピー族って、あまり身長が高くないのもあって幼く感じちゃうんだよな。
……とは言え、婚活をしてたりだとかを聞くに、ピーチクさん、結構年齢は重ねてそう。
下手すると年上なのかな。
「とりあえずは終わりまちたが、背中以外にも気になる場所はありまちゅか?」
「眼精疲労とかってどうにかなります? あと肩凝り」
「お安い御用でち」
というわけで筋肉痛軽減のマッサージは終わったようだが、まだ俺の揉まれターンは終了してないぜ。
現代社会人とは切っても切り離せない眼精疲労と肩凝りのご相談。
なお、二つ返事で受け入れられた模様。
「先ほど同様、動くと危ないでち。じっとしておくでちよ」
うつ伏せ状態から状態を起こして座らされ、ピーチクさんに背中を向けている状況。
トン、と頭頂部に何か固いものが……。
これ、もしかして、鉤爪?
「痛かったり、強かったり、早かったりしたら言うでちよ」
そうして始まる音ゲー。
もとい、ハーピー族の鉤爪によるタッピング施術。
爪の先端が刺さる事は無いものの、やはり固いものではあるために衝撃はある。
ただ、その衝撃は強すぎず、心地よい感じ。
意外と気持ちいいかも……。
「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた」
なんか物騒な掛け声でタッピングされていることを除けば、であるが。
大丈夫?
百回目に突然やめて、
「お前はもう、死んでいる」
とか宣言してこない?
せめてやるなら有情破顔拳にして欲しい。
胡坐かいてビーム打ったら相手は死ぬ。
「終了でち」
時間にしておよそ三分くらい。
言われて肩を動かしてみると……。
「すげ、軽くなった」
「叩打式按摩資格一級持ちを侮るなかれでち」
資格あるんだ、異世界にも。
いやぁ、マジで軽くなったな。
「……ちょっと失礼しますでち」
タッピングを終えたピーチクさんはそう言うと、俺に背を向けて。
「はい。……はい、了解でち」
とどこかと連絡。
そして、
「お待たせちまちた。ただいまより出発しますでち」
と宣言。
という事はお客さん全員が飛行訓練を終えたんだね。
「離陸に際し、多少揺れる恐れがございまちゅ。座ったり、何かに掴まって転倒などしないようにお願いしまちゅ」
言われた通り……というか、現状がベッドに腰を掛けている状態だから、そのままでいいかなって。
あ、洋服はちゃんと着たよ?
「離陸が完了しまちたら、甲板にて出発パーティがございまちゅ。ぜひご参加くださいでち」
そう言い残し、部屋から出ていくピーチクさん。
これからいよいよハーピーツアーの開催か。
楽しみだな。
「っと、結構揺れるな」
ふわり、という浮遊感と、結構大きめの横揺れ。
これ、地震が怖い人は声出すんじゃないかな。
それくらい揺れたぞ。
「どれくらい上空に行くか次第だけど、飛行艇だしなぁ……」
かなり高度が上がるんだろうなぁ……。
おら、ワクワクすっぞ。
「……安定したか?」
とりあえず揺れは収まったものの、安全の為にしばらく待機。
よし、揺れは無し、と。
「……たっけ」
で、部屋から出る前に窓から景色を確認。
雲の上に居ますわね、既に。
結構高いなぁ。
気温とか、空気の薄さとか大丈夫なのかな?
「まぁ、これまでから考えると、ウェルカムドリンクで大丈夫になってるとは思うけれども」
これで外に出た瞬間に寒さで凍傷とかなったら笑うけどね。
いや、笑えませんけれども。
「ん?」
「あ、ども」
とかなんとかしてたら相部屋の人も登場。
「あなたも出発パーティに?」
「そ。パーティで色々振舞われるしな」
「へー」
「あ、そうだ。君、牡蠣好き?」
「牡蠣? まぁ、好きですけど……」
うん?
異世界……牡蠣……。
なーんか引っ掛かるぞ?
「じゃあ、奢るよ。パーティに出るんだよ。生牡蠣が」
「味がバナナのやつです?」
「……」
「……」
「知ってたか」
「さらっと何おススメしようとしてるんですか」
知ってるというか、体験済みと言うか……。
と言うか、この人とんでもないこと考えるな。
勧めるな、あんな食べ物を。
「ちなみにバナナ味以外の牡蠣もあるぞ」
「リンゴとか蜜柑とか?」
「いや、普通に俺らの知る牡蠣。そっちを奢るよ」
「別料金かかるんですね」
という事で、相部屋の人と一緒に出発パーティへ。
なお、ずっと警戒していた模様。




