銘柄名『地恵熱』
「皆さま、大変長らくお待たせいたしました、『地目一箇』にご乗車が可能になったため、ご案内させていただきます」
「やっとね」
俺がアメジストハイボールを飲み終えた頃に、駅員さんが丁寧にお辞儀をしてそう案内。
ちなみに駅員さんはもちろんドワーフさんです。
身長は低いけど髭はしっかり剃ってて、服装もキッチリしてる。
「……行かないの?」
「みんな押し掛けてるし、もう少しラウンジでゆっくりしてから乗りますよ」
「そう」
というわけで、皆さんご乗車してるのを見ながら、俺はもう一杯ドリンクを頼む。
今度はノンアルコールで。
「ノンアルコールの飲み物って何があります?」
「ノンアルコールですと……こちらになります」
バーテンダーさんに尋ねれば、メニュー表を差し出してくれる。
口頭で伝えるより楽だし、俺もありがたい。
「……じゃあ、この『旅路』という飲み物を」
「かしこまりました」
ノンアルコールカクテルの所に書いてあった、これからにピッタリな名前の飲み物をチョイス。
そうして出来上がったのは……。
「こちら、『旅路』になります」
……ストローでっか。タピオカドリンク用のストローくらいあるぞ。
んで、見た目はシェイクなんですけども。
色はピンク。何味だろうね。
「いただきます」
……おー。
濃い。濃いメロン味ですわね。
で、しっかりとシェイク。
メロンミルクシェイクですわね、これ。
「氷が解けると味が変化します。様々な味が楽しめるという事で、『旅路』と命名されました」
「じっくり飲んだ方がいいんですね」
なるほどな?
じゃあ、車内に持ち込ませて貰おうか。
みんなほぼほぼ乗車したみたいだし、俺も乗りますか。
――で、そこで俺は気が付いたんです。
これから乗車する列車……その……。
なんと言いますか……。
こう、顔が濡れると力が出ない、国民的アニメの敵キャラ。
ハ行で笑うアイツの操る乗り物あるじゃん?
ドリルが付いてる紫色のモグラみたいなやつ。
ほぼあれ。
一応、車体とかしっかり豪華列車の装飾してるけど、正面から見るとほぼあのメカなんだよな。
あと、『超弩級掘削列車地目一箇』ってデカデカとあるのがな……。
しかもゴシック体。いいのか? なんかこう……それでいいのか?
「チケットを拝見します」
まぁ、気にしたところで乗らないって選択肢は無いんですけどね。
というわけでスマホを見せてチケット確認を済ませまして、いざ、ドワーフのツアー列車に乗車!
*
「ウェルカムウイスキーじゃ」
……いや、初っ端からドワーフの洗礼が凄い。
ウェルカムウイスキーて、あんた。
しかもストレート。
せめてロック。欲を言えばハイボールにしてくれ……。
「他のってあります?」
「…………ウォッカなら」
「ウイスキーで」
なんでもっと度数が高いのが出てくるかなぁ?
じゃあウイスキーでいいか、となるじゃないか!
「ちなみにこのウイスキーには特殊な魔法加工がされていてな」
「はい」
「飲むと熱に対する過剰耐性を手に入れるぞ」
「具体的には……?」
「鉄が溶ける温度に触れても火傷で済む」
「マジで過剰っすね」
飲むと人外化しない?
「ただ、三日で耐性は失われる」
「戻るんですね」
「まぁ、このツアーを楽しんで貰うために必要な処置じゃな」
ここもあれだな。
マーメイドツアーと一緒で、ツアー内の環境に適応させるために、ウェルカムドリンクに魔法効果を付与してるんだな。
……? 待てよ? という事は、下手すると鉄が溶けるほど熱い温度の場所まで移動するって事?
どこに? とは言わないよ。
この列車の形状から、大体は察せられるから。
……地中かぁ。
しかも熱いって事はマグマ付近を通るのか……。
ま、マグマを身近に見られるなんて中々ない体験だろうし、ちょっと楽しみではあるかな。
じゃ、ウェルカムウイスキー、いただきますかね。
「……おー。あれ? かなり美味いぞ?」
「お。ウイスキーの味が分かるんか?」
「多少は飲んでますから」
まぁ、家に置いてあるウイスキーは二千円くらいで買えるものばかりですけど。
ウェルカムウイスキーを口に入れてまず感じるのは、スモーキーな香り。
ただ、むせ返るような強さじゃなく、ほんのり鼻の奥にフワッと香る軽い感じ。
で、それを追っかけてアルコール感が来るんだけど、これがまたまろやかなのよ。
アルコール感が強いと咽たり、咳き込んだりするけど、それが無いね。
チョコレートが口の中で溶けるみたいに、じっくり、ゆっくりと広がるアルコール感が作りての優しさ敵なのを感じる。
続いて味。舌に触れた瞬間にはキャラメルみたいな甘さが一瞬あるけど、その後で、ピリピリとした独特なスパイスのような刺激。
そのまま舌の上に乗せれば、じんわりと苦みが広がって、飲み込んだ後にまたスモーキーな香りが復活。
これ、ロックでじっくりと時間をかけて飲みたい奴だな。
「マジで美味いですね」
「この車内なら飲み放題じゃ、浴びるほど飲むがいい」
「次はロックかハイボールで頂きたいですけれども……」
というわけでウェルカムウイスキーをいただいて、部屋に向かいましょ。
なお、このウェルカムウイスキー、乗車直後の強制エンカウントイベントであり、この時点で自分がどの部屋に泊まるかは案内されていない。
つまり……絶対に避けられないイベントってわけ。酒だけに。




