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異世界トラベルツアー  作者: 瀧音静


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119/142

叙勲済み

 ……改めましておはようございます。

 時刻は昼前、ですが、窓の外の景色は暗いです。

 船は海溝へと侵入しているらしく、徐々に陽の光も届かなくなる頃合い。

 何ならもうひと眠りかましてもいいのだが……。


「流石に起きるか」


 上体を起こし、冷蔵庫を開け、今日の分の水中生活用義務ドリンクを。

 ゴッキュゴッキュと喉を鳴らして飲み干して、


「スイカ味のジュースは珍しい気が……」


 爽やかな酸味と甘さと瑞々しさを感じるドリンクで美味しゅうございました。

 さてさて、


「ブランチ用のラウンジとかあるんだ、行ってみるか」


 パンフレットを見つつ、深海ワイナリー見学の時間まで何をするか考えてたけど、とりあえず飯。

 というわけで、ブランチ用なるラウンジへ。


「……偏り過ぎじゃない?」


 で、そのブランチ用のラウンジで提供されている料理というのが……。


「カレー、シチュー、ハヤシライス、ボルシチ、クラムチャウダー……」


 これでもかってくらいジャンルが偏ってた。

 ……あと、その中にボルシチは入らなくない? というのが感想なんだけど……。

 まぁいいや。

 そんな事より……。


「ご飯にクラムチャウダーをかけてたりする方が気になる……」


 よく巻き起こるシチューでご飯は食べられるのか論争。

 それをあざ笑うかのように、利用者はクラムチャウダーのお鍋にご飯よそって向かってるんだよね。

 ――というか、ブランチ用のラウンジにこんなに人来るんだ。


「……まぁ、無難にカレーかな」


 俺は流石にシチューとご飯の組み合わせは無し派なので、選択したのはカレー。

 トッピングにチーズ……はいいや。

 寝起きだし。

 らっきょうを少し貰って行こう。


「いただきます」


 というわけでカレーをいただいたわけですけど、


「普通」


 普段から食べてる美味しいカレーですわよ。

 あれだな、こくまよカレーのルウで作った味がする。

 にしても、


「マジでクラムチャウダー人気だな」


 一向に列が途切れる事無いし、スタッフさんが定期的に補充してるもんな。

 そうまで美味しいものなのか?

 ちょっと気になってきたな。

 少し取って来てみるか。


「……流石にご飯は無いな」


 という事で、小皿にクラムチャウダーとパンを取ってきました。

 パンはトーストされているらしく、綺麗な焼き目が見られますわよ。


「いただきます……」


 それじゃあ、めっちゃ人気っぽいクラムチャウダー……いただきます!!


「……ふっつー」


 期待外れ……って程ではない。

 普通に美味しいクラムチャウダー。

 ただ、それ以上でも以下でもない。

 あ、でもしっかり貝類の旨味が出てて、美味しいは美味しい。


「……ん?」


 あれ? 気が付いたら無くなってる。

 もう少し味わいたかったな、もっかい取りに行こ。


「……まさかとは思うけど、みんなこれを繰り返してる?」


 もしかしてだけど。

 気が付いたら完食しちゃってて、お代わりをしてる……とか?

 爆発的な美味さは無いのに、なんかダラダラと食べちゃうというか……。

 あれだな、三口目で美味しいと思う料理、みたいな。

 定食屋が目指す味付けだっけ、漫画で読んだ気がする。


「貝類だけじゃなくて魚介の旨味も出てるし、野菜の味もしっかり感じる……」

 

 というわけでしっかり味わってクラムチャウダーを食べてみてます。

 食べれば食べるほど、あ、これ家じゃあ作れねぇわ、って頭が理解していく。

 市販のルゥを使っては、絶対に出ない味を、このクラムチャウダーから感じるわ。


「……とは言え、そう何度も並ぶかと言われると……」


 並ばないよなぁ……。

 だから、今並んでるので最後にしよう。

 そうしよう。



 ……うぷ。

 気が付いたらクラムチャウダーを六杯もお代わりしてた。

 あれヤバいよ。

 なんかよくない成分入ってるよ。

 しかも即効性じゃなく、じわじわ効いてくるタイプ。

 じゃないとこんなに食べないって。


「む? どうした? 苦しそうだが?」

「ノクティオさん……」


 ブランチ用のラウンジを出て、一旦自室へ戻る途中。

 ノクティオさんとばったり出会う。

 自室に戻る理由? ちょっと食べ過ぎてお腹苦しいから横になりたくて……。


「ははぁ……さてはクラムチャウダーだな?」

「分かるんです?」

「あそこのクラムチャウダーは別格だからな。ついつい食べ過ぎてしまう」

「ついつい、なんて生易しいものではなかったですけどね」


 目の前にあるのを食べ過ぎる、なら百歩譲って分かる。

 でも、無くなったからとりあえずお代わりに並んで食べる、はついついの範囲を逸脱し過ぎなのよ。


「なんか怪しいもの入ってたりしません?」

「無いと思うぞ」

「中毒性とか、常習性とか……」

「仮にも調理学校の学長考案のレシピに変なものが入ってるとは思えんが……」


 ……ふーん?


「凄い人なんです?」

「凄いも凄い、とりあえず有名なレストランで頼めるメニューの3割はその人考案のレシピだよ」

「……ピンと来ねぇ」


 まずもって、有名なレストランに行った事が無いもんで。

 どれくらいメニューがあって、その中のどれくらいかが分からないのよ。


「そうだな……この世界の住人ならば、五歳以上であれば彼考案のレシピの何かしらを食べているレベルか」

「ほとんどの料理作ってません?」


 対象年齢五歳以上でそれは、もはやカレーのレシピを創り出しました、レベルの偉業では?

 

「……そういえば、その料理長は最近行方が分からないと聞いた事があるな」

「ほーん」

「新作レシピのお披露目会に二年程遅刻しているとか……」

「遅刻に分類していいんですかね? それ」


 もう忘れてるかすっぽかしてるかじゃないかな?

 二年の遅刻は。

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― 新着の感想 ―
二年の遅刻はエルフ基準がすぎる… 取り敢えず食材は持ち込みじゃないと悲しいことになるな
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