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異世界トラベルツアー  作者: 瀧音静


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?「わしのお気に入り」

 ……ふぅ。

 自室に戻ってベッドに寝転がり、ゴロゴロと。

 スマホをポチポチしながらダラダラとすれば、ようやくお腹が落ち着いてきた。

 ――いやね? 自分でも勿体ないなとは思うよ?

 時間の過ごし方。

 でもさ、船の中で適当に時間を過ごそうと思うと、飲み物やら軽食やらお菓子やらスイーツやら、誘惑が多すぎるのよ。

 そして、その誘惑のどれらにも勝てない。

 俺は弱い生き物のなんだ……。


『乗船中のお客様にお知らせいたします。現在、深海港へと到着しましたので、ワイナリー見学に参加のお客様や観光のお客様は降り過ごしの無いよう、ご注意くださいませ』


 ……降り過ごしってなんだよ。

 乗り過ごすの間違いでは?

 この辺翻訳がちょっと甘いな。


「じゃ、行きますかね」


 昨日の内にワイナリー見学への参加は申し込んでるからね。

 部屋にある電話一本で申し込み完了よ。

 ちなみに料金は無料。

 ただ、ワイナリーで飲み食いする場合には別途課金が必要との事。

 なお、課金しなくても試飲はさせて貰えるらしい。

 というわけで、まだまだお腹は空いてないので、ワインの試飲だけで済ませる所存。

 気に入った銘柄があったら買って帰ろうかしら?



「こちらが、我々の育てている海ブドウになります」


 船から降り、文字通り暗闇の中にともる不気味な光。

 案内係のチョウチンアンコウ――の形をしたランプを持ったマーメイドのスタッフさんについていくと、お出迎えしたのは……何と言うか。

 深き者どもというか、サハギンというか……。

 マーメイドが下半身魚の魚人とするなら、深海でワイナリーを営む方々は上半身が魚の魚人というか……。

 ――夢に出そう。

 で、そんな夢に出そうな方々の育てる海ブドウとして紹介されたのは……スズラン?

 なんか、現代日本でよく似た植物知ってますよ?

 断じてブドウではないけど。


「深海の水圧により圧縮され、そこから搾れる果汁もまた、ギュッと凝縮されたもの」

「その果汁を使った、アイスワインならぬアビスワインとデザートワインが、このワイナリーの誇るワインになります」


 ……なるほど?

 アイスワインってあれだよね?

 ブドウが凍った時に収穫して、凍ったまま絞って作るワイン。

 そうやって作る都合上、どうしても果汁は少量しか取れず。

 結果としてコストがかかるから、基本的に高いって言う……。


「皆様にはチーズと、アビスワイン、デザートワインをそれぞれ試飲して頂こうかと思っております」


 お、両方飲めるの?

 やったぜ。

 そうして目の前に運ばれてくるスライスされたチーズと、ごく少量のワイン。

 子供用風邪シロップ一回分と言えば、どれくらい少ないかは想像出来る?

 まぁ、無料だし。

 ここで期待し過ぎるのもダメか。

 じゃあ、まずはチーズから。

 ――お?


「かった……」


 固いんですけど。

 このスライスチーズ。

 九州で食べられてる堅パンよりも固いんですけど。

 具体的に言うと前歯で噛んだら前歯が持っていかれるかと思うくらいに固いんですけど?


「チーズは、噛み切ろうとせず、歯で削る様に食べていただくと……」

「深海の水圧で圧縮されたチーズですので……」

「なるほど」


 背後から声を掛けられて一瞬ギョッとしたけど、何とか耐えた。

 で、言われてみれば確かにだな。

 今は魔法的効果で防がれてるけど、本来は深海なんだもんな。

 そりゃあ水圧とかの影響はあるのか。

 というわけで、言われた通り前歯で削る様にチーズを食べてみる。

 ――おお、めっちゃ濃いチェダーチーズ感がする。

 チーズの香りとコク、ほのかな酸味、あと、削った後のチーズは舌の上に乗った瞬間に雪みたいに溶ける。

 チーズだけでも美味いな。


「……どっちがどっちだ?」


 で、そこにワインを合わせたいんだけど……どっちがアビスワインでどっちがデザートワイン?

 まぁ、どっちでもいいか。

 右のにしよう。


「……」


 ふと、思う所があり日本酒のようにチロリと舐める程度にワインを飲んでみる。

 瞬間、爆発的に広がるワインの香りと濃厚で凝縮された果汁の甘さ。

 やっぱり……子供用シロップの量だったのは、無料だからとかじゃなく、圧縮されているからなのか。

 どれくらいの圧縮比なのかは分からないけど、今の感じ的に割と入れて貰えてるな。

 少なくともワイングラス一杯分くらいはあるはず。


「ワインてより、シロップの方が合ってるんじゃないの?」


 もちろんアルコールは感じるけど。

 それはそれとして、普通にブドウのシロップみたいな甘さがある。

 これがアビスワインかなぁ……?


「こっちは?」


 その真相を確かめるべく、俺はもう片方のワインを口に運んだ。

 お、あっめ。

 あ、でも、こっちの方が酸味も感じられて甘い一辺倒だけではないな。

 いやまぁ、最初に飲んだ方も甘さの中にブドウの風味だとか、バニラ香とかは感じられたけども。

 左の方が俺は好みかも。

 でも、仕事終わって疲れて帰ってきた時に、このとにかく甘いワイン飲むのは最高だろうな……。

 文字通り、疲労と一緒に体まで溶けそう……。

 両方一番小さいサイズを買うか。

 値段はまぁ……買ってみてからのお楽しみという事で。


「すみません、両方のワインを一番小さいサイズで購入したいのですが」

「ありがとうございます。お支払いの方法は……?」

「カードで」

「かしこまりました」


 という事で無事購入。

 もしバチクソに高かったらゴメン。

 その時は母さんに土下座して立て替えて貰おう。


「こちらが一番小さいサイズになります」


 で、お出しされたものは……。

 弁当とかに入ってる醤油入れる魚の容器のやつ!!

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