目を閉じれば思い出す
「すっげ……」
目の前に広がる絶景に絶句。
今俺の目の前には、夕日が差し込む海の中で、緑やピンク、青色と様々な色を見せるサンゴ礁。
それらが集まって出来た、文字通り迷路のような海底。
そして、そこを住処にしている色とりどりの魚たちが集まっている光景。
なお、魚たちの色合いは沖縄の海の魚たちに近い模様。
まぁ、見る分には綺麗だよ、うん。
「出口にスタッフが待機しておりますが、ギブアップの場合は浮上して貰えれば大丈夫です」
で、海底迷路探検の説明をしてくれてるんだけど、この海底迷路、天井が無いのよ。
だから、もう無理! ってなったら上に泳ぐだけで脱出可能。
これなら時間ギリギリまで進まずに景色だけを楽しむ、なんてやり方も可能。
何より、焦らなくていいよね。
何かあれば浮上するだけで脱出出来るって。
――迷路とか、脱出ゲーム好きそうな人に聞かれたら、お前は何もわかってねぇな、とか言われそうだけども。
「では、皆様をそれぞれスタート地点にご案内いたします」
どうやら全員が同じ場所からスタートするわけじゃないらしい。
というわけで、スタッフの一人に連れられて俺のスタート地点へ。
「こちらがお客様のスタート地点になります」
案内されたのは、何というか。
いかにも迷路の入口です! みたいにあるサンゴ礁の切れ目。
右がピンクで左が緑色のサンゴ礁ね。
「先ほどの説明通り、ギブアップやトイレ、その他、体調不良等あれば浮上してください。スタッフが迎えに上がります」
「分かりました」
そうか、トイレか。
考えてなかったな。
まぁ、しませんけど。
よくさぁ、海とかプールの中でならバレない、みたいな話あるけど、このツアーに限っていえばアウトだろうね。
風呂やシャワーの水とさえ区別されるんだぜ?
絶対にオシッコだけ別で分かれるじゃん。
「また、今日はもう船自体は今の場所から動きませんので、気の済むまで探検を続けていただいて構いませんが、日の出より前には一度船にお戻りいただき、飲み物をお飲みいただく必要がございます」
「水中で活動するためですよね?」
「その通りです。飲み忘れると水圧でぺちゃんこになってしまいますので」
……怖い事言わないでもろて。
まぁ、そんな長い事探検する予定は無いから大丈夫かな。
少なくとも、日が暮れたら戻るつもりではいる。
お腹もすくだろうし。
「では、お気をつけて」
という事で、いざ! 海底迷路探検!!
*
まぁぶっちゃけ迷路なんて、スタートから右か左の壁に手を付けて伝って行けばゴール出来るんですけどね。
なお、途中からやるとゴール出来なくなる可能性があるもよう。
ただ、そんな楽しみ方しても面白くないし、別にゴール出来なくても浮上すればいい話。
だったら、好きなように動くに限るよね。
「景色もいいしねぇ」
ピンク色のサンゴ礁を伝って行くと、カラフルなイソギンチャクの群れに遭遇。
毒があるって聞いた事があるし、直接は触れないけど、何故だか蛍光色に輝く触手がうねっていたり、その中からカラフルな柄の魚が顔を出したり。
水族館の水槽の中に入ってるみたいだ。
あるいは、めっちゃ金掛けてるアクアリウムの中。
「……ん?」
と、迷路の先に何やら白いものがふわりふわり。
マリンスノー? が見られるのは深海の筈だし、形状的にもまだ俺がいる場所は全然大陸棚の範疇。
であるとすればなんだ?
ちょっと寄ってみよう。
「……ホタルイカ?」
大きさ的にもホタルイカっぽいものがふわふわと。
群れに遭遇しましたわ。
こういうのも神秘的でいいねぇ。
「ん、ピンクゾーンが終わりか」
で、ホタルイカの方に寄っていたら、左の壁の色がピンクから紫へ。
「うわぁ……」
思わず声が出ちゃったよ。
眼下に広がるは紫のサンゴ礁。
そして、サンゴ礁を写し、ふよふよと漂う大量のクラゲ。
……とりあえず刺されないように距離を取って、と。
「水族館で見るのとはまた違った魅力が……」
上から差し込むオレンジの夕日。
その夕日に照らされ、主張するサンゴの紫。
その両方を取り込み、ただそこを漂うクラゲたち。
写真とか取ったら綺麗だったんだろうなぁ。
生憎持ち合わせてないのよ。
スマホすら、水中で落としたら大変だって事で部屋の金庫の中に入れてあるし。
網膜に焼き付けるしかねぇ。
「……ん?」
と、何やら俺の上に夕日を遮る影が。
何だろう?
「……亀?」
ウミガメの登場でした。
ちなみに喋らない。
……多分。
「子亀もいるじゃん」
俺の顔に影を落とした亀よりも何周りも小さい子亀が、親の後を追いかけようと必死にヒレをばたつかせてる。
しかも三匹。
可愛いねぇ。
自然の厳しさを学びつつも、大きくなってくれると良いなぁ。
*
……はっ!?
気が付いたらクラゲ眺めてて結構時間経ったな?
ヤバい、無限に見てられる。
なんでクラゲって見てるとこんなに心が落ち着くのだろう。
「次行こう……」
後ろ髪を引かれる思いはあれど、このままここに留まって、先にあるかもしれない絶景を逃すのは勿体ない。
という事で、クラゲたちに一方的な別れを告げ、先へ。
そこは……、
「いや、行き止まりかよ!」
選択を間違えた俺に、容赦のない回れ右を強要する壁が待っていましたとさ。




