エピローグ
《管理者視点》
ゲータ・ニィガの遙か上空。
私は爪をヤスリで研いでいる。
「シュブニグラス様」
ばさっ、と私の隣に黒い翼を生やした男が立つ。
こいつは、悪魔。私の使い魔だ。
「ワルージョがロストしてしまったようですが、よろしいのですか?」
「ええ。あれは所詮駒でしかないわ」
ふっ、と私は爪に向かって息を吹きかける。
長い間使っていた駒だけども、別段思い入れなんてない。
だから死んで……いや、永久封印されたとしても、特に。
「ま、良い働きをしてくれたわ。おかげで、この世界に魔神が一人、顕現したしね」
にやりと私は笑う。
「魔神。世界を滅ぼすほど強大な、神の力を持った人間が地上に誕生した。しかも、すぐそばには、私の管理下に置いてる転生者もいる」
しかも都合のいいことに、魔神はその女を好いてるのだ。
魔神をコントロールすることなんて、造作もないだろう。
「ふふ……! あははは! 笑いが止まらないわ! まさかあの魔神が、管理下の転生者を好いてるだなんてね! とってもラッキーよぉ!」
おーほっほっほ!
「他の【管理者の方々】に、ご報告はしないのですか?」
「当たり前でしょ? あいつらに、魔神を横取りされてたまるもんですか」
他の管理者どもには、魔神を完全なコントロール下においてからで全然遅くない。
「いいえ、もう遅いようですよ」
「は? ちょっとそれどういうことよ……?」
すっ、と使い魔が私の後ろを指さす。
「え?」
そこには黒い獣が居た。
あ、あの鞄の魔神の、聖武具だ……!?
「な!? なん……」
ばぐんっ!
ぎゃああああああああああ! 痛い痛い痛いぃいいいいいいいい!
『悪いな。廃棄神……いや、管理者よ』
この声は魔王スペルヴィア!
『我には魔力感知というスキルがある。ケースケが魔神へ覚醒した結果、感知能力もまた強化されてたのじゃ』
ま、まさか……!
スペルヴィアは、気づいていやがったのか!?
『ケースケとワルージョの戦闘中に、の。我は貴様が油断するのを待っておったのじゃ。まんまと引っかかりおってな。あほ丸出しじゃな』
ああああああああああああ!
いやだ! いやだぁあああああああ! 死にたくないぃいいい!
今のカバンの魔神は、神の力を持っている。
神は、神にしか殺せない!
廃棄神たる私を殺せるのは、同じく神の力を持つ……カバンの魔神だけ!
「た、助けなさい! 悪魔ぁ!」
「それはできませんねえ」
悪魔が、冷たくそう言った。
できない!?
どういうこと!?
「だってスパイですので、わたくしは」
「スパイだとぉおおおおおおお!?」
「はい。他の、管理者の……ね。あなたをずっと見張っていたのですよ」
ちくしょおぉ!
そうだったのか! まるで気づかなかったぞぉお!
『ほう……他にも管理者がいたのか。悪魔よ、案内せよ』
「当然、そんなことはできません」
『ほう、なら殺すかな』
「どうぞご自由に。ああ、そうそう。ミサカ・アイとヘルメス・セバを管理していたのはそこの女です。廃棄神が死ねば、二人はもう自由です」
『ほぅ……他の管理者に、ミサカたちは操作できない、ということか』
「左様でございます」
あああああ死ぬ……私が死んでしまう……
いやだ……いやだぁ……死にたくない……
「どう、してぇ……おまえは、勇者を助けるようなマネをぉ」
『なに、簡単じゃ。ミサカは、我の友達じゃからな。友達は助ける、当たり前だと、我はオタクに教わったのじゃ』
オタク……!
あの、取るに足らない、召喚勇者のことか……。
ああ、なんてことだ……。
あの男を、もっと早く潰しておけばよかった……。
飯田オタク……。
あいつがいなければ、ケースケは外に出ようとしなかった。
ミサカ・アイとも会わなかった。
ミサカ・アイとスペルヴィアが、和解することもなかった。
スペルヴィアが、ミサカのために、後顧の憂いを絶つようなムーブも、しなかった……。
飯田、オタク……くそ……くそぉお……
あいつが、いな……け……れ……ば……
~~~~~~
《啓介視点》
僕とミサカさんは二人で海岸にいた。
砂浜にレジャーシートを広げて、二人で並んで座っている。
「おにぎり……おいしいねー!」
「うん、そうですね~」
ミサカさんは美味しそうに、僕の作った、巨大ボール型おにぎりを頬張っている。
彼女のとの約束だったのだ。
二人で、青空の下でおにぎりを食べようって。
「はー! 美味い美味い! けーすけくんのおにぎり、ちょーさいこー!」
「えへへ♡ いっぱいありますよ」
あれから、僕らはゲータ・ニィガを出て、ネログーマってところまできていた。
ゲータ・ニィガから結構離れてるので、僕らを知るものは誰も居ない。
僕らは二人でまったりとした時間を過ごしていた。
「あ、けーすけくんお弁当つけてるぞっ♡」
「お弁当? どこに?」
「ちゅっ♡」
ミサカさんが僕のほっぺにキスしてきた!
あわわ!
「お、お弁当って米粒のことですかっ」
「うん♡ おいしくいただきました~♡」
くすくす、とミサカさんが笑っている。
「顔真っ赤~。可愛い♡」
「むぅ……あ、ミサカさんもお弁とついてますよ!」
ちゅっ、と僕はお返しとばかりにキスをする。
「不意打ちチューです!」
「やったな~♡ ちゅ~♡」
僕らはちゅっちゅ、とキスし合う。
と、そこへ……。
『仲が良いな、勇者たちよ』
「スペさん!」
スペさんがカバンと合体した状態で、空から降りてきた。
ぽんっ、とカバンと分離して、僕の膝の上に乗っかる。
「どこ行ってたの?」
スペさんは僕らをここに置いたあと、どこかへと飛んでってしまったのだ。
『ん。まあ、ゴミ掃除じゃ』
「ゴミ掃除?」
『うむ。綺麗に掃除してきたぞ。まあ、離れたところに、まだゴミはあるようじゃがな』
「ふーん……。ま、お疲れ。はいおにぎり」
『おほー! ケースケのごはん久しぶり~♡』
僕の作ったおにぎりを、スペさんがむしゃむしゃと食べていく。
「ねー、けーすけくん、これからどーしよっか」
「そうですねえ」
僕としては、一応、旅の目的を終えてるのだ。
ミサカさんの呪いを解いて、彼女とおにぎりを食べるっていう、大きな目的は達成してる。
このまま終わっても良いかなーって、思っていたけど……。
「経験値、もうちょっと稼ごうかなって」
『またぁあああああああああああああああ!?』
わ、カバンの中からヒキニートさんの声が聞こえてきた。
そういや、ヒキニートさん、僕の■庭の中に住んでいるだった。
『え、もういいじゃん! 十分、経験値とったでしょ!? これ以上強くなってどうするのさ! 黒幕もたおしたのに!』
黒幕?
ああ、ワルージョのこと?
「うん。でもほら、まだ僕……皆を生き返らせてないですし」
『皆……?』
「うん。他の、廃棄勇者さんたちのこと」
ワルージョの持っていた聖武具の中には、廃棄勇者、つまりこちらの世界へ転生してきた勇者たちの魂が入っていた。
彼らは肉体を失ってしまってる状態だ。
「彼らを生き返らせてあげたいなって」
『いや……魂だけの死者を復活させるのって……それもう神じゃん……』
いちおう神らしいけどね、僕。
でも今の僕にはできない。
「僕がこうしてミサカさんの呪いを解いて、愛する人と幸せになれたのは、他の勇者さんたちの聖武具のおかげです。だから、その恩を、返したいなって」
「けーすけくん! えらい! かっこいいー!」
えへへ♡
ミサカさんも褒めてくれるっ。うれしっ。
『なるほど……じゃあ、これからも旅を続けるんだね』
「もちろん。そんで、経験値をいーっぱい刈って、この世界に来て帰れないでいる勇者たちの魂に、肉体を与えて、蘇生するんだ。そんで、最後はみんなで、元の世界に帰るの!」
それが、僕の新しい目標!
「いいね! わたしももちろん、手を貸すよ!」
「やった! じゃあ二人で、経験値いっぱい稼ぎましょう!」
「OK! ラブラブいちゃいちゃしながら、のんびり異世界旅、だね!」
僕らが笑うと、ヒキニートさんがため息交じりに言う。
『ああ……ぼくひとりで、このバケモノカップル、制御しきれるかなぁ……暴走が止められず、世界が壊れちゃうのが先かも……はぁああああ……』
まあ、そんな感じで。
僕らの旅は、これからも、続いていくのだった。
新しいパートナーを、携えて。
これからも、ずっと。
【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
「第3部面白かった!」
「続きの執筆もよろしく!」
「ケースケたちの物語を、活躍をもっと見たい!」
と思っていただけましたら、
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ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
また第4部で会えることを、楽しみにしております!