31.救世主の誕生
悪党をぶっ殺し、封印したぞ!
「さて、じゃああとは、皆の魂を戻さないとですね」
僕の体には勇者さんたちの魂が入っている。
それを元の肉体へと返してあげないとね!
僕は魔神器の蓋を開ける。
「魔神化、解除~」
ずぉ……! とカバンのなから、取りこんでいた魂たちが外へと漏れ出す。
そして魂たちは地上へと戻っていく。
カバンからはスペさん、ルクスリアさん、そして……ミサカさんとヒキニートさんが出てきた。
この人らの肉体はカバンの中に仕舞っていたんだよね。
後の人の肉体は地上に置いてある。
「けーすけくんっ!」
「ミサカさん、良かった、ちゃんと戻ったんですね!」
「うん! けーすけくんはやっぱり凄いよ! 悪いやつぶっ倒しちゃうんだもん!」
ふがふが、とミサカさんが鼻息を荒くして言う。
そして、だきっ! とミサカさんがぼ、僕に抱きついて、ちゅ、ちゅーしてきたっ。
「だいすきっ!」
「うう……ぼ、僕も……僕も、大好き!」
「わぁ! 相思相愛だね!」
「そうですねっ! えへ、えへへへ~」
両思いになっちゃった~。
姉ちゃん、見てる? 僕異世界で、カノジョできました!
「いやしかし、戻れてほんっと良かった……」
とヒキニートさんが魔法で空を飛びながら、安堵の息をつく。
ちなみにヘルメスさんの肉体ではなく、本来の、ヒキニートさんの体だ。
「地上の人たちも、肉体に戻れてますか?」
「うん。みたいだよ」
ヒキニートさんが扉を開いて、地上の様子を見ているようだ。
「てか、啓介くん、地上とんでもないことになってる……」
「どういうことです?」
僕らの前に、小さな扉が開く。
地上の様子が映し出されていた。
『弓の聖人様が、悪王ワルージョを、討伐してくださったぞぉおおおおおおお!』
民衆が大歓声をあげている。
オタクさんが……ワルージョを倒した?
「どうなってるんですこれ?」
「どうやら、民衆は勘違いしたみたい。君じゃなくて、オタク君がワルージョ倒したって」
「なんでまた……?」
「オタク君がね、民衆たちの不安を解消するために言ったんだ。啓介君が、ワルージョを倒したって」
オタクさん、いつだって優しい人だなぁ。
「あれ、けーすけくんが倒したって言ったのに、どうしてオタクくんが倒したことになったの?」
「さぁ……? まあ、上空での戦いって地上の人たち、誰も見てないしね。あとは、オタク君の人柄じゃないかな。ともあれ、いろいろ重なった結果、オタクくんがワルージョを倒したことになったんだと思うよ」
なるほどね~。
「ま、いいや!」
「いいの、けーすけくん?」
「うん! 皆がオタクさんを、悪王を倒した正義の勇者って思いたいんだったら、そうすればいいと思う」
それに、現にオタクさんとその他がいなかったら、ワルージョ倒せてなかったしね。
(※その他=シズカたちのようです)
『いや、だから、拙者ではなく、カバンの勇者ケースケ殿が、ワルージョを倒したのでござるよ!』
オタクさんが民衆に対して、ちゃんと説明しようとしている。
ほんといい人だなこの人。
「ヒキニートさん、オタクさんの耳元で扉開いて」
こくんとうなずく。
新しい扉が開いた。
「オタクさん、誤解はとかなくていいです。そのままにしておいてください」
『啓介殿……しかし……』
「いいんです。僕、別に世界を救った英雄とか、なりたくないので」
そんなののために戦ったわけじゃないからね。
「僕はミサカさんの呪いを解けて、それで満足です。それに、これから二人で、約束を果たす旅に出るつもりなんで!」
『約束……ああ、なるほど。そういうことでござるか』
オタクさんは僕とミサカさんの間で交わした約束について、知っている。
「ほえ? けーすけくん、約束って……あ! まさか……あれ?」
「うん、それ!」
じわ……とミサカさんが目に涙を浮かべる。
「覚えててくれたんだ」
「もちろんですよ! 大好きな人と、初めて出会ったときの記憶ですから」
「けーすけくんっ。もうっ大好き~~~~~♡」
抱きついて、ちゅっちゅ、とミサカさんがキスしてくれる。
えへへ♡
『あいわかりました。では、英雄の【役】は拙者請け負いましょう』
オタクさんが穏やかな調子で言う。
『後のことは拙者に任せて、啓介殿とミサカ殿は、旅立ってくださいませ』
「ごめんね、オタクくん。やっかいごと押しつけちゃって」
ミサカさんが申し訳なさそうに言う。
やっかいごと……?
「ヒント、世界を救った英雄。ワルージョ死亡により空席の王座。さて、どうなると思う……?」
とヒキニートさん。
うーん……?
うーーーーーーーーん…………。
「わからないですね」
「ああ、そう……。ま、オタクくんはこれから、ものすっごく大変な、とてもめんどくさいことになる」
「大変だ……!」
「たいへんだって……。オタク君が代わりにやってくれなかったら、君がやることになったんだよ?」
「なんだってー!」
何をするかわからないけど、とりあえず、オタクさんに迷惑かけちゃうみたい!
「ご、ごめんねオタクさん」
『わははは! いいのでござるよ。気にしないでくだされ。拙者のことはいいので、啓介殿は、愛する人と自由に、旅を続けてくだされ』
「……オタクさん」
オタクさんは、どうやら大変なことを、僕の代わりに、買って出てくれたらしい。
「ごめんね」
『謝罪なんていらないでござるよ。拙者たち、友達でござろう?』
「…………うんっ! わかった! ありがとう!」
『いえいえ。拙者しばらくゲータ・ニィガに残ります。何か困ったことがあれば、いつでも言ってくだされ! 世界を救った、【カバンの救世主】殿!』
ぱたん、と扉が閉まる。
カバンの救世主……かぁ。
「いや、オタク君。救世主は君だよ。間違いなくね」
ヒキニートさんが扉を仕舞う。僕もそう思う。オタクさんがいたから、頑張れたしね。
「んで、君らはこれからどうするの?」
ヒキニートさんが尋ねてくる。
「とりあえず、約束を果たしに」
「約束約束ってなんなの?」
「秘密です! ミサカさんと僕との……えへへ♡」
ふぅ、とヒキニートさんがため息をつく。
「あ、そ。じゃ、ぼくはまた引きこもるよ」
ヒキニートさんが僕の鞄の蓋を開ける。
「え、ここに?」
「うん。だって君ら野放しにしたら、ヤバいし」
「えー……」
なんだよヤバいって。
てゆーか、ほんと邪魔だなぁ……。
ミサカさんと二人でラブラブしたいのに。
「オタク君が居ない今、ぼくがしっかりしないといけないのさ」
「うー……」
まあまあ、とミサカさんが僕の肩をつかむ。
「いいじゃん。せばっちゃん、引きこもったらほとんど出てこないし」
「ミサカさん……せばっちゃんって、誰?」
ずっこけるヒキニートさん。
「ぼく! ぼーく! ヘルメス・洗馬!」
「ああ、名前あったんですね」
「自己紹介してるから!」
まあどうでもいいや。
『では、参ろうかの』
ぼんっ、とスペさんがフェンリル姿になる。
『ほれ、乗るが良い。ケースケ。それに……ミサカよ』
「スペルヴィアちゃん……」
スペさんはプライドが高いので、僕以外を決して、その背中に乗せようとしなかった。
でも……。
『ミサカ。おまえは、我の友……イラの命を救ってくれた。過去のことは、もう水に流そう』
「スペルヴィアちゃん……ううん、スペちゃん! ありがとう!」
もふっ、とミサカさんがスペさんのもふもふボディに抱きつく。
良かった。二人が仲直りできて。
僕もまた、スペさんに抱きつく。
「じゃ、行こう! 約束を果たしに!」
「うん、わたし、景色が良いとこがいいなー!」
『了解じゃ! しゅっぱーつ!』
スペさんが空を駆ける。
地上ではオタクさんをたたえる声が、空の上まで聞こえてきたのだった。
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