13.弓の聖人、カバンの悪魔の暴走を止める
《槍の勇者シズカ視点》
……おれは、邪悪なる悪魔に捕まり、拷問を受けていた。
「狼王魔閃光」
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「狼王魔閃光」
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「狼王魔閃光」
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
おれの体は空中で張り付けにされている。
そして鞄の勇者……いや。
カバンの邪神に、何度も、何度も、何度も何度も、レーザー攻撃を受けていた!
死んでも、蘇生させられ。
そしてまた……レーザー攻撃を受ける!
神の右腕で強化された、レーザー攻撃はとんでもない痛みをおれに与えてくる!
「ゆ゛る゛し゛て゛……も゛ぉ゛……ゆ゛る゛し゛て゛ぇ゛」
おれは、魂の状態で、大泣きしていた……。
魂が悪魔の左腕に拘束されている状態。
魂が天に昇るのを妨げられてる。
だから、肉体さえ修復すれば、何度もおれを殺すことができる……。
それに気づいてからは、あいつ……もう何度も、おれを殺してきた。
何回謝っても許してくれない。
もう……殺してくれ!
もぉお! 楽にしてくれよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
「わかった、良いよ」
悪魔の左腕が解除される。
おれの魂が、肉体へと戻る。
「はあ……はあ……ゆ、許してくれるの……?」
「狼王の暴食」
瞬間、鞄の悪魔の、カバンが巨大化する。
黒い、まがまがしい獣が、目の前に現れたのだ。
黒い獣の前で、おれは震えることしかできなかった……。
「な、なぁにこれぇ……」
「魔王の力を具現化した、新しい奥義だよ」
黒い獣がおれを見下ろす。
それだけで……からだから魂が飛び出しそうになった。
「狼王の暴食は、生物・非生物関係なく、万物を食する」
「ば、ば、万物……?」
「そう。人間の肉体も……そして、魂さえも」
「……!?」
た、魂さえも……!?
そ、それって……。
「この黒い獣に食われた人は、完全にこの世から消えるってことだよ。魂さえも消滅する。生き返ることは、たとえルクスリアさんの力を以ってしても無理」
あ、あ……。
え?
じゃ、じゃあ……。
あの黒い獣に食われたら……もう、完全におしまいってこと……?
死んで転生も、蘇生術を使える人に、生き返らせてもらうこともできないってこと……。
完全なる、無に、ひ、き、ぎゃぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!
「いやだぁあああああああああああ! 助けてぇええええええええええ!」
おれは情けなく泣きながら、逃げ出そうとする。
だが、こ、腰が抜けて逃げ出せない!
「君はここでお仕舞いです。さようなら。永遠に」
「やだぁあああああああああああああああ!」
黒い獣が咆哮し、おれに飛びかかってくる。
巨大な、凶悪なる獣が襲いかかってきた。
「死ね」
そのときだった。
「待つでござるよ、ケースケ殿ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
びたっ!
黒い獣が、空中で止まる。
おれの目の前には……。
「「オタク(さん)!」」
弓の勇者オタクが、黒い獣の前に立ち塞がっていた!
な、なんてやつだ……。
オタクは、あんな恐ろしいバケモノを前にして、みじんもおびえる様子はない!
しかも……おれを、かばってくれてる……?
「どいてよ、オタクさん! そいつ殺せない!」
邪悪なる少年の怒りに呼応するかのように、黒い獣が吠える!
大気と大地を震わす、恐ろし咆哮!
「あ……あば……あがが……」
おれは失神しそうになる。小便を漏らしてしまった。
だが……オタクは一歩も引かなかった。
両腕を広げて、まっすぐにあのカバンの悪魔を見ていた。
「どきませぬ!」
「どうしてですか!!!!!!!!!!!」
「ケースケ殿が、誤った道に進もうとしてるからでござる……!」
「誤った道……? どういうこと……?」
怒り狂っていた黒い獣が、動くのを辞める。
「ケースケ殿。友のために、怒ってくれたこと……まずはうれしく思うでござる。その気持ちは、とても大事な気持ちだと思いますぞ」
「うん……」
「でも、拷問はやり過ぎでござるよ。それはただ、憎しみの感情を、そのままシズカ殿にぶつけてるだけ。それは……暴力と変わらないでござるよ?」
「う……うぅ……で、でも! でもぉお!」
! 黒い獣が……どんどん小さくなっていく!
すごい……オタクの言葉が、悪魔を説得してるんだ!
「オタクさんは、大事な友達なんだ! そいつは! 大事な友達を傷つけた、悪いやつなんだ! 殺すべきだ! 死んで当然だ!」
「……確かに、悪いやつは罰を受けるべきでござるな」
「でしょぉ!?」
「でも……啓介殿。スペルヴィア殿から聞きましたよ? シズカ殿は……ワルージョに操られていたと」
そ、そうだ!
お、おれは……おれの意思で、悪いことをしてたんじゃ無い!
「本当に悪いのは、人を操り、人をあやめた……ワルージョではござりませぬか?」
「うう……で、でもぉ……」
黒い獣が、今は子犬くらいのサイズになっている。
悪魔の怒りも、収まっているように思えた。
ま、マジで……す、すごい……なんだ、この人?
悪魔を更生させようとしてるのか……!?
「啓介殿は勇者でござろう? 拙者と同じ」
いや、それは違う(断言)。
啓介は悪魔だ。
「勇者とは、弱い者の代わりに、悪を倒す……正義の存在だと、拙者は思っておりました」
「う……うう……」
「啓介殿の今の行いは、悪いやつに利用されていた、可哀想な人を、ただ……傷つけていた。暴力を振るっていた。それは……勇者の所業とはとても言えません」
「…………」
「それに……」
オタクは黒い獣に近づく。
そして、しゃがみこんで、抱きしめる。
悪魔のそばまで行って、黒い獣を渡す。
「この聖武具の中には、スペルヴィア殿そして……啓介殿の大好きな、大勇者ミサカ殿が入ってるのでしょう?」
「…………うん。ルクスリアさんも」
確かあのカバンには他に、ヘルメス・洗馬も入ってるんじゃなかったか……?
「友達が見てる前で、無実の人を殺めるのは……良くないと思いませぬか?」
「…………」
「この武器には、啓介殿の大事な人たちが貸してくれた力が、入ってるのでしょう? それを使って人を痛めつけるのは……そなたを信じて力を託した、その人たちの思いを、裏切ることになると思うでござる。言いたいことはわかりますな?」
「…………うん。スペさん、ミサカさん……ごめんね……」
ぽんっ、と黒い獣から、白い子犬が分離する。
子犬は悪魔の肩に乗ると、涙を舌でぬぐった。
悪魔は子犬をぎゅっと抱きしめる。
オタクは笑って、悪魔の頭をなでた。
……や、やべえ。
なんだあの人……すごすぎる!
あ、あんな暴走状態だった、やばい悪魔を、鎮めた……!
なんて人だ……!
「シズカ殿」
「なんでございましょう、弓の聖人様!……!」
「ゆ、弓の聖人……?」
困惑する聖人様!
だが……おれはもう弓の勇者オタク様を、とてもリスペクトしている!
おれの命の恩人だし!
しかもこの悪魔を、暴力ではなく言葉で諭した!
これはもう……聖人と言うほか無い!
「えと……申し訳ございませんでした。拙者のせいで、酷い目に……」
ああ!
なんてことだ!
聖人様はこの期に及んで、自分のせいだとおっしゃっている!
どう考えてもそこの悪魔が悪いのに!
「大丈夫です! 生きてますので!」
「できれば、啓介殿を許してほしいでござるよ」
絶対許さない(真顔)。
だが……聖人様が許してほしいっていうなら……。
「わかりました。おれは許します」
「ありがとうございます。ほら、啓介殿もごめんなさいしましょうぞ」
悪魔がおれを見る。
ひぃいいい! み、見ないでぇえええええええ! じょばー!
『こやつ失禁しておるな』
「なんでだろう?」
なんでだろう、じゃねえよ! おまえがやったこと忘れたのかよ! 頭いかれてるのかよ!
「啓介殿。ほら」
「あ、はい。ごめんなさい。やり過ぎました」
……正直あれ、【やり過ぎ】ってレベルじゃなかった。
マジで絶対許したくない……が。
オタク様が、命の恩人が、許してほしいって言ってきたのだ。
……しょうがない。
「き、気にしないで……いいよ」
おれはなるべく悪魔の方を見ないでそう言った。
見るだけで、あの黒いバケモノを思い出し、発狂しそうだ……。こわ……。
「オタクさん、これでいい?」
「うむ! よく謝りましたな! 偉いですぞ!」
よしよし、とオタク様が悪魔の頭をなでてる。
聖人様が悪魔を飼い慣らしてる限り、安心だ……。
まあ、何はともあれ……おれはワルージョの呪縛から解放された。
すると……腹の底から、怒りの感情がわき上がってきた。
「ワルージョめぇええええええええ!」
あの女……!
あいつのせいで……!
おれは……死にかけたんだぞ!
そこの悪魔に! 殺されかけたんだぞ!
「絶対許さない……! 絶対にだ……!」
するとオタク様がこう提案する。
「シズカ殿。もしよろしければ、拙者たちとパーティを組みませぬか? ともに、ワルージョを倒しましょうぞ!」
! 渡りに船だ……!
「もちろんです、弓の聖人様! ぜひ、配下に加えてください!」
「は、配下って……。拙者たち、同じ勇者ではござりませぬか。配下では無く、仲間として、肩を並べて……悪を討ちましょうぞ!」
ならそこの悪魔を一緒に倒しましょう!
……っていいたかったが、普通に怖いからやめとく。
「はい!」
こうして、おれは弓の聖人様とパーティを組むことになった。
……正直、カバンの悪魔と同じ空間にいたくはない。
が、まあ、そばにこの人がいれば……悪魔も暴走しないだろう。
それに、強いのは確かだからな。頭のネジは外れまくっているが。
「これで勇者が三人そろいましたね! 頑張って悪を倒しましょう!」
本物の悪が笑顔で、そう言った。
何の冗談かと思ったが……命が惜しいので、黙っておくことにしたのだった。
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