表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/116

11.キレる、けーすけ


《啓介視点》


 僕は王都へ向かって飛んでいた。

 まっすぐ一直線にすごい速度で飛んでる。


「あ! 見てスペさん! 王都が見えてきたよ!」

『おお、ほんとじゃ。昔と変わらぬのぅ』


 あ、そっか。スペさん長く地下に封印されてたんだっけ。


「カチコミ終わったら、王都美味しい物探索でもしようね、オタクさんと一緒に!」

『それは楽しそうじゃのぅ! ……って、む!? ケースケ、後ろから敵じゃ! かなり速いぞ!』


 僕が後ろを向いたときには、黒い何かがすぐ近くにいた。

 そいつが拳を振り上げるのが、見えた。


 僕の目は大勇者ミサカさんからもらった、神眼。

 この目は相手の動きを完璧に捉えることができるのだ。


 黒い、変な人がいた。

 腕が六本生えている。


 そのうちの1本で、僕に殴りかかろうとしていた。

 僕の体が自動的に、防御姿勢を取る。


 大勇者の力を取り込んだ僕の体には、大勇者の記憶が宿っている。

 オートで、最適な剣士としての動きをすることができる。


 そんなみさかさんが、敵の攻撃をガードすることしかできなかった。

 勇魔の短剣をカバンから取り出し、とっさに攻撃を防ぐ。


 ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 黒い人の拳を受けて、僕の体が吹っ飛んでいった。

 

 地面に激突する寸前……。

 

『ケースケ!』


 スペさんがフェンリル姿となって、僕の首根っこをつかみ、着地する。

 ズササアアアアアアアアアアアアアア!


 スペさんが受けとめたおかげで、僕は怪我をせずにすんだ。


「あっ、ありがとう……」

『うむ……。じゃが……あいつは……』


 すとん、と黒い人が降りてくる。

 まがまがしい気配を放っているのがわかった。


『魔族! それに……黒い聖武具! まさか……反転魔族か!?』


 確かに黒い人は、黒い槍を握っていた。 

 黒い聖武具を使う魔族、反転魔族だ! あの剣の人と同じ!


 やった、経験値だ……! っていつもなら大喜びする僕だけども。

 しかし……僕の目は、今……反転魔族の抱えてる【その人】に向いていた。


「あ、ああ……! そ、そんな……」


 魔族が抱えていたのは……。


「オタクさん!!!!!!!!!!!!!!!」


 僕の友達、オタクさんがいたのだ。

 魔族はオタクさんを、まるで米俵のように雑に担いでる。


「オタクさんを離せ……!」


 どさ、と魔族がオタクさんを乱暴に、地面に落とす。

 ……おまえの首も落としてやろうか! そう叫ぼうとして……僕は気づいた。


「…………」


 仰向けに倒れている、オタクさんの胸に……。

 大きな、穴が開いてるのだ。


「あ……え……?」


 オタクさんの胸の穴からはドクドクと血が流れ出ている。

 信じられないくらいの量の、血液だ。


 大きな血だまり。

 そして、胸にあいた大きな穴。……その二つの事実が、僕に、教えてくれる。


 ……オタクさんが、死んだ……?


「…………」


 オタクさん……。

 僕のこと、最初から気にしてくれてた、オタクさん。


 ワルージョに追放された後も、15年間、僕のことを探し続けてくれた……オタクさん。


 再会して、一緒にご飯食べた……オタクさん。

 一緒に……旅した……オタクさん。


 そんな……大好きな、大親友が……。

 死んでる……?


 うそ……。

 嘘だ……。


「うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ」

『け、ケースケ! おちつ……』

「うそだぁあああああああああああああああ!」


~~~~~~


《反転魔族シズカ視点》



 おれの元々の名前は、槍の勇者シズカ……だった。

 しかし今は魔族として生まれ変わり、ワルージョ女王様のもとで、下僕として働いてる。


 おれはこの下僕ライフをたいそう気に入ってる。

 すべては、愛しい人、ワルージョ様のために。


 あの御方の邪魔となるものを、消す。

 それが、魔族として生まれ変わったおれの仕事だ。


 さて。

 今回のミッションは勇者の抹殺。

 弓、裏切った杖、そして鞄の勇者を殺せというもの。


 勇者。おれと同郷の、日本人だ。


 本来だったら、同じ故郷を持つ人間を殺すことに、ためらいを覚えるだろう。

 けど、おれは何も感じない。


 大好きな人以外、どうでもいい。

 同郷とか知るか。おれは命令されたとおり、こいつらを殺す。


 こいつらの命なんて全く気にならない。

 ワルージョ女王様が喜んでくれるのならな。


 おれはまず弓の勇者を殺し、次に鞄の勇者を殺すことにした。

 幸いにして、鞄と杖は一緒に行動していた。


 おれは鞄の勇者たちのもとへとやってきた。

 死体となった弓の勇者を見て、鞄の勇者は慟哭する。


 ……瞬間。

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!


 鞄の勇者からともでもない量の魔力が吹き荒れる。


 鞄の勇者の背後に、死神がたっているようなイメージを覚える。

 全身に悪寒が走る。


 あいつに、殺される……そんな予感を……いや、確信を覚えていた。

 それくらい、鞄の勇者から吹き荒れる魔力は、すさまじいものだった。


 反転魔族となったおれを凌駕する魔力に、ただただ、おれは圧倒される。

 だが、すぐさま魔力は収まった。


 異常だ。

 さっきまで吹き荒れていた魔力の嵐が、一瞬で消えて去ったのだ。


 い、いったい……あの膨大な量の魔力はどこへ……?

 

「ルクスリアさん、出てきて」


 ばっ! とおれは背後を見やる。

 そこには……鞄の勇者がいた!?


 ど、どういうことだ……?

 さっきまで前にいたはずなのに……。


 一瞬で移動したというのか!?


「オタクさんの、治療と、蘇生をお願い」


 !?

 鞄の勇者の腕の中には、すでに事切れてる、弓の勇者の死体があった、だと!?


 どうなってる!?

 いつの間に!?


 おれはさっきまで、あの死体を抱えていたというのに!?


 鞄の勇者の鞄から、女が出てくる。

 ワルージョ様の言っていた、色欲の魔王ルクスリアだろう。


「けーちゃん……オタクちゃんは、もう……」


 ルクスリアが首を横に振る。 

 そうだ、魔王といえど、できないことはできない。


 弓の勇者は完全に殺した。

 蘇生は絶対に不可能だ。たとえ、魔王の力を以ってしても……。


「黙れ」


 ……そのとき、おれは、鞄の勇者の顔を見て、おびえてしまった。

 やつの目は、奈落の底のような、暗い色をしていたんだ。


「やれ」

「け……けど……」

「いいから、やれ」

「う、うん……」


 ルクスリアが弓の勇者に治癒術を施す。

 女が投げキッスをすると……。


「かはっ!」

「なにぃい!?」


 ど、どうなってるのだ!?

 死者が……復活しただと!?


 あ、あり得ない……。

 あいつは完全に殺した! 心臓を完璧に潰した!


 おれの必殺技、【葬送の槍】による攻撃を受けたあいては、蘇生不可能となるはずなのに……!


「オタクさん、少しの間……眠ってて」

「けー……すけ、どの……」


 鞄の勇者は弓の勇者を、自分の鞄の中にしまった。

 残されたのは、鞄の勇者とスペルヴィア、ルクスリア。


 1人の勇者、そして2人の魔王……。


「おい」


 死。


 おれの脳裏に、その言葉がよぎる。

 ぶわ……! と全身から冷や汗が出て、体が震え出す。


「おまえがやったんだ? おまえが……ぼくの、大事なオタクさんを……殺したんだな……?」


 やつがゆっくりと、こちらに近づいてくる。

 ……気づけば、おれは逃げ出していた。


 がつんっ!


「逃げられないよ。絶対結界を張ったから」


 くそ! 結界か!

 槍で攻撃して、穴を開けようとする!


 が、駄目!

 槍が結界にはじかれる! な、なんだこの強力な結界は!?


 おれの必殺技、【絶対貫通槍ゲイボルグ】を受けても、びくともしないなんて!


「無駄だよ。その結界は君じゃ壊せない」


 ……気づけば、鞄の勇者はすぐ近くまでやってきていた。

 やつの鞄は開けっぱなしになっている。


 そこから……何かが出ているのだ。

 そう、何か、だ。目で見ることができない。でも、確実に何かがある!


「ねえ」


 びくぅう! とおれの体がこわばる。


「君……誰に命令されたの? 主の……名前と、居場所……教えて?」


 勇者がおれに問うてくる。

 主の名前と居場所だと……?


「こ、断る……!」

「そう……」


 鞄の勇者が、自分の鞄に手を触れる。


高慢なる勇魔の鞄(プライド・バッグ)


 瞬間、勇者の鞄が巨大化。

 黒い獣となって、結界ごとおれを飲み込む。


狼王魔閃光ファイナル・フラッシュ


 瞬間……。

 かっ……!


 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!


「うぎぇああああああああああああああああああああああああああ!」


 黒い獣は、おれを飲み込んだ後、ビームを放ってきた!

 高出力ビームがおれの体を焼く!


 結界が張ってあるはずなのに!

 ビームは結界をすり抜けてきたのだ!


 かぱ……と黒い獣が口を開ける。


「いてええ……いてええ…………」


 おれは情けなく泣いてしまった。

 それくらい、すさまじい威力のビームなのだ。


「ねえ? 主の、名前と居場所は?」

「い、言わない……」

「そう」


 またしても、黒い獣がおれを飲み込む。そして。


 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「うげあぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 またもビームを放ってきた。

 その直撃を受けておれは痛みでのたうち回る!


「主の……名前と居場所は?」


 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 おれが答える前にビーム撃ってきやがった!

 痛い痛い痛いいいいいいいいいいいいいい!


 し、死んじゃう……!

 体の再生が間に合わない! これ以上やられたら、まずい!


「ねえ、主の、名前と居場所は?」

「あ、わ、わか」


 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 その後、鞄の勇者は何度も何度も、おれにビームで攻撃してくる。

 もちろん、おれは抵抗しようとした!


 でも、全く力がわいて出てこないのだ!


「無駄だよ。高慢の魔手(ドレイン・タッチ)の効果で、君は弱体化してるんだ。そこから自力での脱出は出来ないよ?」


 高慢の魔手(ドレイン・タッチ)で弱体化させ、絶対結界で逃げられないようにし、狼王魔閃光ファイナル・フラッシュでおれを拷問する……。


 これだけの攻撃を受けても、おれが死ぬ気配は……ない。

 気絶しそうなほどの痛みを受けても、おれは……死ぬことも気を失うことも出来ないのだ。


「無駄だよ。高慢の聖剣(フサツノツルギ)を僕今手に持ってるんだ」


 黒い獣の口の中に、おれはいるので、あいつの姿が見えない。


高慢の聖剣(フサツノツルギ)の効果でね、これを持っていればどんな攻撃をしても、相手は死なないの。剣で攻撃しなくてもね」


 ……何度も、何度も、何度も。

 あいつは狼王魔閃光ファイナル・フラッシュで、おれを攻撃してきた。


 そして、主の名前を聞き出そうとしてくる!


「別にいいよ、答えたくなかったら答えなくても。でもね……」


 鞄の勇者が、静かに言う。


「僕は絶対に、君を逃がさないから。君が泣いて許しを請うても、絶対に出さない。君に命令し、オタクさんを殺させたやつの名前を教えてくれるまで……絶対に」


 ……おれは、小便を漏らしてしまったのだった。


【★大切なお知らせ】


好評につき、連載版をスタートしました!


『【連載版】スキル【無】の俺が世界最強〜スキルの無い人間は不要と奈落に捨てられたが、実は【無】が無限に進化するSSS級スキルだと判明。俺をバカにした奴らが青ざめた顔で土下座してるけど、許すつもりはない』


広告下↓にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!


リンクから飛べない場合は、以下のアドレスをコピーしてください。


https://ncode.syosetu.com/n2689ja/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 開田のじぃじとタメ張るくらいヤバいな!w
[一言] まあ、そら啓介ブチギレるわなと。 飯田氏の蘇生は無理なのかと思ったが、可能だったか可能になったかどっちかね? 反転魔族、ワルージョへの忠心は元からなのか洗脳によるものか? まあ、とっとと屈す…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ