10.弓の勇者vsなぞの魔族
《暗黒竜ジャガーノート視点》
オレは暗黒竜ジャガーノート。
憤怒の魔王イラ様の眷属だったのが、気づけば【カバンの悪魔】にぱしりにされていた……。
あの、ケースケってやつ、絶対に勇者じゃない。
悪魔だ。やばいくらいに強い上に、ちょっと人として大事な部分がいくつも抜けている気がする……。
さて。
オレと弓の聖人様、もとい、勇者様は一緒に行動を開始した。
あの悪魔と分かれて、ほっとするオレ。
カバンの悪魔とちがって、弓の勇者様は本当にいいやつだ。
恐怖で震えるオレに精神安定剤くれたし、優しく話しかけてくれたし。
ヒキニート、カバンの悪魔と、勇者はやべえ連中ばっかりだと思ってたんだけど、この人だけは違うんだよなぁ。
(※↑ジャガーノートは、ヘルメス・洗馬の名前が、ヒキニートだと思ってる。啓介が連呼していたせいで)
弓の勇者様を背中にのせ、オレはゲータ・ニィガ国内に残っている、難民たちの救助へと向かう。
「星の矢!」
人を襲う魔物を、勇者様が鮮やかに退治する!
「おけがはありませんでしたかな?」
「「「勇者様ぁ……!」」」
傷ついた国民に回復薬を無償で提供する、勇者様。
うん、やっぱり勇者ってこうじゃないとな。
ヒキニートとカバンの悪魔はやっぱり例外だったんだ。
あんなん勇者ちゃうわ。
弓の勇者様は怪我した国民を治療した後……。
「さ、皆の者、安全な場所へ移動するでござるよ」
そう言って、弓の勇者様は懐から、何かを取り出す。
それは、鍵だった。
「なんの鍵っすか?」
「セーバー殿からもらった鍵でござる。これを……こうして」
勇者様は何もない場所へ向かって、鍵を突き出し、回す。
がちゃんっ!
すると……。
「目の前に扉が現れたっす!」
「これぞ、【扉の勇者】であるセーバー殿の聖武具、【大賢者の扉】でござるよ!」
セーバー殿ってやつが誰かわからないな。
勇者様が召喚した扉の向こうには……。
「あれ、弓の勇者様だ!」「どうして?」「何もない空間に扉が現れたと思ったら、勇者様が出現した!?」
扉の向こうにいたのは、さっきカバンの悪魔が、結果的に助けたことになった、国民どもだった。
「この大賢者の扉は、ドラえ●んで言うところの【どこでもドア】でござる。マーキングした場所へと空間をつなぎ合わせ、移動することができるでござる!」
どこでもドアってのがなんだかわからないが……。
ようは、転移魔法のことだろう。
特定の場所へと転移させる魔法を、勇者様が使ったのだ。
すげえ!
(※大賢者の扉はヘルメス・洗馬の聖武具です)
「さ、皆の者、扉をくぐって向こうにいくでござる。そっちはケースケ殿が作ってくださった、結界のおかげで、とても安全でござるよ~!」
魔物に襲われていた国民を救い、怪我を治し、そして転移魔法で安全な場所へと国民を逃がす……。
まさに、勇者の鑑といえるお人だ。
「ありがとうございます、勇者様……なんとお礼を言って良いことやら……」
助けられた国民が申し訳なさそうにする。
助けた謝礼を要求されるとでも思ってるのだろう。でも、村を襲われた彼らにそんな大金があるとは思えない。が……。
「なに! 人助けは勇者の責務! 拙者は拙者のやるべきことをやってるだけでござるから。お礼なんて不要でござるよー!」
……ああ、勇者様。あんたいいやつすぎるぜ!
ヒキニートとカバンの悪魔も見習ってくれ。切実に。あいつら絶対勇者じゃない。
「ありがとうございます……勇者様……」「このご恩は忘れません!」
ぞろぞろ……と国民たちが避難していく。
と、そのときだった。
「! ジャガー殿!」
突如、勇者様が弓を引いて、こちらに魔法矢を放ってきた。
「ぐああああああああああああ!」
オレは勇者様の魔法矢をもろに受けて、後ろに吹っ飛ぶ。
いってええ……何すんだ……! と言い終わる前に……。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
……さっきオレが立っていた場所に、何かが勢いよく、落ちてきたのだ。
それは地面に巨大クレーターを作る。
……やばかった。
勇者様が助けてくれなかったら、その何かに押しつぶされて、死んでいたところだ……。
「勇者様!」
「ジャガー殿は下がって……! 魔族でござる!」
「!? 魔族……!」
クレーターの中心には……奇妙な男が立っていた。
身長は2メートルほど。フォルムは人間に近い。
だが、腕は6本、生えていた。
通常の2本に加えて、背中から上下に2対の腕が生えている。
異形なる見た目。そして、内包するすさまじい魔力量。
……魔族だ!
弓の勇者様はすぐさま戦闘態勢に入る。
「竜の矢ぉ!」
勇者様渾身の一撃を放つ。
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
だが、魔族は右の真ん中の腕で、軽くレーザーを払った。
パシッッ……!
はじかれたレーザーはいずこへとすっとんでいく……。
「嘘……でしょ……?」
オレは呆然とするほかなかった。
あんな威力、スピードのレーザーを、魔族は片手で、まるで羽虫でも払うかのように、弾き飛ばしたのである。
弓の勇者様の行動は早かった。
まず鍵を抜いて、大賢者の扉を消した。さっきの連中に危害が及ばないようにという配慮だろう。
「ジャガー殿は逃げるのでござるよ!」
大賢者の扉は小さくて、オレはくぐることができない。
オレがこの場から離脱するためには、飛んで逃げるしかないのだ。
「で、でも……じゃあ勇者様が……」
「大丈夫でござる! ここは拙者に任せて先に行ってほしいでござる。なぁに、後からケースケ殿と合流するでござる!」
……だめだ。
あの魔族は、やばい。やばい。まともに戦って勝てる相手じゃない!
弓の勇者様が、死んでしまう……!
あんなに優しい人が死ぬのはだめだ……!
オレは翼を広げて高速飛翔!
地面すれすれを飛び、魔族に強烈な体当たりを喰らわせる!
このままやつを吹っ飛ばし、そのすきに勇者様と離脱を……!
ぱしっ!
「なっ!?」
な、なんてことだ!
魔族が、オレの……ドラゴンの強烈な飛翔攻撃を、片手で受けとめやがった……!
なんて膂力!
「うおお! 星の矢ぉ……!」
弓の勇者様が無数に分裂する魔法矢を放つ!
だが魔族はあいてる腕ですべてを打ち払っていく。
……やつは6本の腕が生えている。
だというのに! 残り四本の腕は全く使っていない!
武器すらも手に持っていないのだ!
それで、勇者様と暗黒竜を、相手してる!
片腕しか使わずに!
「ふぅううう……!」
弓の勇者様がアイテムボックスから、薬瓶を取り出す。
それを一気飲みする。
ドンッ……!
「魔力量が跳ね上がったっす! これはいったい……?」
「生命魔力薬でござる!」
「生命魔力薬……?」
「魔力量を一時的に、増幅させる薬でござる!」
そんな便利なアイテムが……!
いや……待てよ。そんなものが存在するのか……?
「うぉおおおおおおおおおおおおお!」
勇者様はさっきとは見違えるほど素早く動き、無数の星の矢を放つ。
矢はすべて正確に、敵の人体の急所へと着弾する。
やつはオレを手放すと、2本の腕で、勇者様の魔法矢を払っていく。
押してる……! いける……!
「もらった……!」
気づけば、弓の勇者様は魔族の背後に回っていた!
さっきまで魔族の正面にいたはずなのに!?
「案山子の矢! 幻影を作り、相手の目をごまかす魔法矢でござるよ!」
おお! そんな技まで!
弓の勇者様は魔族を突き飛ばし、馬乗りになる。
そして魔法矢を構えて、急所である頭を狙う!
「竜の矢!」
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「やったっすか!?」
……だが、土埃が風に吹かれて消えると……。
「なっ!? ゆ、勇者様ぁあああああああああああああ!?」
勇者様の腹に……。
黒い【槍】が、突き刺さっていたのだ!
「そ、そんな……どうして……!? 弓の勇者様の竜の矢で、魔族は死んだはずじゃ……!?」
いや、違う!
魔族の隣に、クレーターが出来ている。
ま、まさか……!
「勇者様、外したんすか!? うそだ、こんな近距離で、魔法矢を外すわけがない! どうして……弓矢を外したんすかぁ!?」
口から血を吐きながら……弓の勇者様は言う。
「出来ない……拙者には……殺せない、でござる……」
「殺せない!? どうして……」
「だって……この、魔族は……、否、このお方は……【槍の勇……】……」
かくん、と弓の勇者様が、気を失ってしまった。
そ、そんな……勇者様が、あんなに強く優しい勇者様がやられちゃうなんて!
「…………」
槍持の魔族が、こちらをにらんできた。
……死、というイメージが脳裏をよぎる。
「う、う、うあぁあああああああああああああああああ!」
オレは悲鳴を上げるしか無かった。
だが……。
魔族は槍から勇者を引き抜いて、米俵のように担いで……オレの前を素通りしていった。
「…………」
助かった……のか……?
いや、違う。オレなんて……弱すぎて、殺す価値もないって思われたんだ……!
「ま、待てよぉおおおおおおおおお! 勇者様を……返せよぉおおおおおおお!」
だが、オレがいくら吠えても、魔族は振り返らない。
弓の勇者様を抱えた状態で……。
逆の腕で、槍を持ち上げる。
そして……。
ブンッ……!
「槍を投げた……いったい何を……」
だんっ! と槍の魔族は、投擲した槍に向かってジャンプ。
そのまま槍に乗って、どこかへと飛び去ってしまった。
「あ……うぅ……わぁああああああああああああああああああ!」
悔しかった。
なにも……できなかった!
敵を倒すことも!
俺に優しくしてくれた勇者様のため、一矢報いることさえも!
「オレは……オレは……弱い……! なんて弱いんだ……! ううぅう! ごめん……勇者様……ごめんねぇえええ……!」
オレは悔しくて、ただ……泣くことしか出来なかったのだった。
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