140.
重厚な扉を蹴り開けると、そこは広大な玉座の間だった。
松明の炎が不気味に揺らめき、焦げた獣の脂のような饐えた匂いが鼻を突く。部屋の最奥、一段高くなった玉座で、マントを羽織った巨大な影が立ち上がった。
「くっくっく。よくぞここまで来たな、人間どもよ」
魔族王が尊大に言い放つ。
彼は圧倒的な絶望を与えるかのように、その両手を大きく広げた。
「この過剰戦力を前にしても、私が恐れおののくと思ったか? 愚かな。私はすでに、七大魔王の一角である『暴食』を取り込んでいるのだ! 貴様らなど、もはや私の敵ではないわ!」
自信満々に笑い声を響かせる魔族王。
だが、そのあまりにも堂々とした態度に、虚空からヒキニートさんがひどく冷めた声でツッコミを入れた。
「あー、一応言っておくけど。その七大魔王の一人であるスペちゃん、こっちの味方として後ろにいるからね」
「えっ?」
「ついでに言うと、同じく魔王級のルクスもいるし。ケースケくん自身が魔王に匹敵するデタラメなステータスだし。おまけにこっちは大勇者のミサカ・アイまで揃ってるんだけど」
ヒキニートさんが無慈悲な事実を淡々と突きつける。
スペやミサカ・アイたちが、ぼくの後ろでパタパタと手を振っていた。
「どう考えても勝ち目ないし、無駄な戦いはお互いのために避けたほうがいいんじゃないかな」
圧倒的な戦力差を突きつけられ、部屋の中はしんと静まり返った。
普通ならここで戦意喪失して降伏するところだ。だが、魔族王は再び両肩を揺らして不気味に笑い始めた。
「くっくっくっく」
「まだ余裕ぶるつもりかよ」
ぼくは心底呆れ返り、やれやれと首を横に振る。
しかし、魔族王の様子がどこかおかしい。彼の顔は異様に赤く紅潮し、荒い息を吐きながら身体をブルブルと震わせていた。
「燃える。たぎるぞ! 圧倒的強者に理不尽に蹂躙されるかもしれないというこの絶望感! ああ、私のドMの血が激しく騒ぐ! 絶対的な逆境にこそ最高に燃え上がる、それがこの私なのだあああっ!」
「ただのド変態だった!」
あまりの予想外なカミングアウトに、ぼくはたまらず大きくのけぞり、そのまま膝から崩れ落ちた。
シリアスな最終決戦の空気は、魔族王の歪んだ性癖によって完全に木っ端微塵に粉砕されたのだった。




