魔族の国編 ⅣⅩⅣ
目が覚めると、着替えさせられて、キングサイズベッドに横たえられていた。天蓋の天井が目に入る。視線を巡らせると、部屋の外では、既に夜の帳が下りていて、気を失うまで遊んでいたプールが月光に照らされ、その水面が風でゆらゆら揺れているのが見えた。ここから見えるんだね。
部屋の中は、ランプの明かりで、暖かい光が満ちている。
私が体を起こしたことに気が付いたシャルちゃんが駆け寄ってきて、夜なのに「おはよう」と挨拶してきた。寝起きだし、間違ってはいない気もして、私もそのまま「おはよう」を返した。
シャルちゃんは、バスローブに着替えていた。
……バスローブに着替えている!?
全身モコモコバスローブが可愛すぎて二度見してしまった。いや、しなければむしろ無礼では?
「シャルちゃん、なんでバスローブ?」
「え? 備え付けのがこれしかなかった……から? ディーちゃんも着てるよ?」
「え? ――ホントだ、着てる!?」
腕を覆う布の感触から、何かの長袖に着替えさせられていることには気づいていたけど、何を着てるかまでは確認してなかった。というか――
「下着、着てないんだけど?」
「お風呂入ったら着ていいよ。ユニエラさんとシェリーさんも今入ってるから、ディーちゃんも行ってきなよ。私はもう入ったから。……もう、三人もベッドまで運んで着替えさせるの、大変だったんだからね! こんなことに強化魔法を使うことになるとは思わなかったよ」
「それは、大変なご迷惑をおかけしました……」
私がベッドの上で腰を折ってから頭を上げると、シャルちゃんがそばに腰掛けてきた。
「ふふ、二人きりだね、久しぶりに」
そう言うと、唇同士が触れる程度のキスをしてきた。
突然のことで、驚いてしまって、私には余韻も何もなかった。ので――
「もういっかい、お願いします……」
「いいよ……」
また、唇を重ねる。ちょっと長め。
「もう、いっかい……」
「どうしたの、ディーちゃん? 今日は甘えんぼさんだね?」
「そ、そういう気ぶ――ん……」
今度は、シャルちゃんの舌が、私の唇を掻き分けて入ってきた。
私は無抵抗にそれ受け入れて、自分の舌で迎える。
呼吸が乱れていく。
鼻だけでは吸い足りない空気を、お互いの口からも吸い合う。
粘り気のある水の音が、荒い二つの呼吸音と混ざって聞こえる。
体が熱い……。
お互いを求め合い、貪るように舌を絡ませ、唾液と空気を交換する内に、興奮とともに体温が上がっていくのを感じる。
このまま溶け合って、一つになってしまいそうな感覚。
嗚呼――きっとそれは、とても幸せで気持ちがいいのだろう。そう思う。
シャルちゃんの手が、私のバスローブの中に入って、優しく体を撫で上っていく。
手が肩を這うと、バスローブがストンと落ちた。
――本当に……このまま……最後まで……二人で……。
「はぁ……はぁ……シャルちゃん……」
「ディーちゃん……」
シャルちゃんが私をゆっくりとベッドに寝かせて、見下ろす。
そして、また顔が近づいてくる。シャルちゃんの髪がサラリと流れると、いつもとは違う華やかな香りが鼻腔をくすぐった。ホテルの洗髪剤かな?
「ディーちゃん……」
「ん――///」
シャルちゃんの手が、早鐘を打つ私の胸に触れると、わずかに体が跳ねた。
お互いの息がかかる距離、私たちは見つめ合って、お互いの真っ赤に上気した顔を見て、もう止まらないと悟った――
――が。
「ストオオオオオオップ!! お、お二人だけで盛り上がるのは結構ですけれど、もう少し、その……と、時と場所を選んでいただけませんか? 私、嫉妬の炎で焼け死にそうですもの!」
「「――!!?」」
バスローブを纏ったユニエラちゃんと、シェリーちゃんがベッドの脇に並んで立っていた。
二人の世界に入っていて気づかなかった。いつからいたんだろう?
ユニエラちゃんは頬を膨らませて、瞳には涙を溜めている。
シェリーちゃんは、両手で真っ赤になった顔を覆ってはいるものの、指の隙間から熱い視線でこちらをしっかりと捉えていた。
「お、お二人のお邪魔をするのは違うとは分かってはいましたけれど、ですがせめて、私たちが不在になってからにしていただけませんか? ……混ざりたくなってしまいますので」
隣で頷くシェリーちゃん。というか、理由はそいう感じなんだ。
それはそれとして、悪いことをした自覚はあるので、まずは謝罪しよう。
「ごめん、ユニエラちゃん、シェリーちゃん……」
ベッドに正座して、衣服の乱れを直し、シャルちゃんと一緒に頭を下げた。
「いえ、いいのですわ、ディティス様。一番お付き合いの長いお二人ですもの。二人きりで過ごしたいときもあるでしょう。それは理解できます。ですから、二人きりになりたいのでしたら、こういうコソコソとではなく、そうはっきり仰って下さいな」
「いいんですか、ユニエラさん?」
「当然ですわ、シャルティ様。もともと、一日おきに独り占めというお話でしたのに、結局、ずっとみんな一緒に過ごしておりましたでしょう? ちゃんと独り占めできる時間をこれからは設けていきましょう。差し当たっては、今夜から。如何です?」
このユニエラちゃんの提案に、シャルちゃんは意外にも、首を横に振った。
「あら、どうしてですの、シャルティ様?」
「えっとね、まず、独り占めできる日を作るっていうのは賛成です。でも、今日からっていうのは反対かな」
また何故と問うユニエラちゃん。
「私たち、部屋をここしか取ってないでしょ? 私が今夜、ディーちゃんを独り占めにしたら、二人はどこに泊まるの?」
「あー」
ユニエラちゃんなら、自腹でなんとかしそうな気もするけど……。
「――って、考えてるね、ディーちゃん」
「はい……」
分かり易すぎる私の顔よ……。
「私のワガママみたいな理由で、ユニエラさんに自腹を切らせるのはイヤなの。別に独り占めするのがシェリーさんでも、同じようにイヤだし、ユニエラさんが独り占めするために私たちの宿泊費を出すっていうのもイヤなの。ユニエラさんが私たち全員で使う物のためにお金を使うのも、ユニエラさん個人のためにお金を使うのも良いけど、自分以外の特定の誰かのためにお金を使うのは、してほしくないの。これはシェリーさんも、ディーちゃんも一緒」
ん?
「その理屈ですと、私がディティス様を独り占めするために、お二人の宿泊代を出すというのは、私のためなので、問題ないはずなのでは?」
それな。
「そこは難しいんだけど、私判定だとダメなの……」
私判定……。確かに難しい。でも、なんとなく分かった気がする。
「シャルちゃんは、えっと……つまり……私たちの中で貸し借りを作りたくないってこと……なのかな?」
「そう、それ! ディーちゃんナイス! キスしてあげる!」
勢いに任せたキスをホッペにされた。うへへ。
「そういうことでしたら、承知いたしましたわ。お互いに恋愛において、貸し借りは無しということですわね」
「うん。シェリーさんも大丈夫?」
シェリーちゃんも頷いた。まだ手で顔を覆っているけど……。恥ずかしい格好はもうしてないよ?
「ちょっと気に入っちゃったんです、このポーズ」
私の考えを読んだシェリーちゃんがそう言った。さいですか。
とまぁ、そんな感じで話がまとまった頃には、体の火照りも引いて、若干の肌寒さを感じてきていた。お風呂に入ろう、そうしよう。
「じゃあ、みんなで入ろっか。その後はルームサービスでご飯食べて、またお風呂入って――」
「ディティスちゃんで遊ぶんですね!」
シェリーちゃん、物騒なこと言わないでよ。もう昼間に充分、みんな私で遊んだでしょ……。
そう思って周りを見たけど、誰一人として突っ込む素振りはなかった。
私はその瞬間、彼女たちはもう止まらないのだと悟った――。




