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魔族の国編 ⅣⅩⅢ

 プールで溺れることを懸念してくれたのか、それとも、初めてのシェリーちゃんがいたからなのか、いずれにせよ、いつもみたく、気絶するまではされなかった。

 多幸感と疲労感が程よいところで切り上げてもらえたので、まだ普通に遊ぶ余地があるけれど、さて……。


 どう遊ぼうかと思案していると、突然、パッと、プール全体が瞬きほどの時間、輝いた。それとほぼ同時に、水中から飛び出す影。

 それは、ユニエラちゃんだった。

 真っ赤で、上下に分かれた、ほぼ下着と変わらない布面積の水着を、見事に着こなしている彼女は、新鮮な空気を大きく吸い込んだ。


「潜って何してたの、ユニエラちゃん? それに、今の光は?」

 尋ねると、ユニエラちゃんはプールの縁に腰掛けて答えた。

「底の方に、水とプールそのものの浄化をする魔法陣があると、いただいたパンフレットに書いてありましたので、使ってみました」

 へぇ~。

 確かに言われてみれば、水が綺麗になった気がしないでもない。でもさ、そういうのって……。


「ホテルの方が仕事でやる作業ではないですか、それ?」

 私の思ったことをシェリーちゃんが言ってくれたので、私は頷きに徹した。

「まぁ、それはそうなのですけれど……嫌じゃありませんか?」

「何が?」

(わたくし)たちが、その……()()()お水に、仕事といえど、他人が入って潜るというのは、その……」

「あー」


 気持ちは分からなくはない。さっきまで私たちが遊んでいたこのプールには、私たちの汗とか……が、混入していたわけだし、そういう水の中に、仕事といえども他人を入れるのは申し訳なさがあるよね。でも、そういうのも承知の上だからこその仕事だとも思うわけで、気にしすぎじゃないかな?


「いわば、(わたくし)たちの愛が溶け込んだ水に他人が入るということなわけです。それはつまり……私たちの愛が穢されているみたいではありませんの!?」


 え、そういう理由!?

 ちょっと予想の斜め上すぎた。

 が、シャルちゃんとシェリーちゃんは――

「確かに!」

「そうですわね!」

 と、全力で頷いていた。

 どうやら、分からないのは私だけだったらしい……。


「そういえば、まだ私たちの水着の感想、聞いてないよ、ディーちゃん?」

「急に話変わるじゃん、シャルちゃん」

「だってだって、せっかく着替えたんだよ?」

「それはだって、誰かさんたちが私で遊び始めたからじゃないですかね、シャルちゃん」

「だって、ディーちゃんがえっち可愛すぎたから……」

「私のせいなの……?」

「罪な女だよね、ディーちゃん」

 うんうんと、しみじみ頷く他二人。

 しかし、シェリーちゃんも馴染むのが早いなぁ……。一つの目標 (私で遊ぶ)で団結したのが大きいのかも知れない。耳の甘噛みとか、三人の中じゃ一番上手くて……って、思い出したら耳がむず痒くなってきた。止めよう。


「それで、水着の感想だっけ?」

 話を戻そう。

「そ! 一人最低一個は褒めること!」

「分かった」


 私たちはプールから上がって、私の前に三人が横一列に並んだ。そして、ユニエラちゃんが一歩前に出る。

「では! まずは(わたくし)が先鋒を務めますわ!」

 別に勝負ではないんだけど……。まぁいいか。


 腰に手を当てて、胸を張って立つユニエラちゃんを見る。いやぁ、自分も有る方ではあるけれど、やっぱり比べるとボリュームが違うなぁ。あれ、普段は鎧に全部納まってるの、嘘でしょ――もとい。視線を胸から外して水着を見る。


 まずはやはりその色。真っ赤である。情熱的なユニエラちゃんらしい色選び。自信の表れ。胸の谷間部分についた薔薇のコサージュがワンポイントで可愛いらしさも忘れない。下の水着にも、腰に薔薇のコサージュ。

 しかし、その……やっぱりこれ……さっきも思ったけど、下着と何が違うの? 布の面積、少なくない?

 露出部分が多いから、よっぽど自分の体形に自信がないと着られないでしょ。いや、分かる。分かるよ。ユニエラちゃんは条件を十二分に満たしている。引き締まって、それでいて、出るところはきっちり出て、薄っすらと割れたお腹とか触りたい――ゲフンゲフン。

 この水着を着るためのプロポーションと言わざるを得ない。

 あ、いけない。感想を言うんだった。黙って見続けている私の様子に、少しユニエラちゃんも不安げな顔をしている。そういう顔も珍しくて可愛い……じゃなくて! 感想を言わなきゃ、うん。


 私は澱んだ息を吐いて、新鮮な空気を肺に入れ、顔を上げた。そして、下心の無い、真剣な眼差し (のつもり)で見つめて一個目の感想を述べた。

「めちゃくちゃ可愛いよ、ユニエラちゃん……」

「ぐっふ……!?」


 私の感想を聞くと、ユニエラちゃんは呻き声をあげて倒れた。なんで!? シェリーちゃんとシャルちゃんも、なぜか胸を押さえて苦しそうにしている。


「だ、大丈夫、二人とも!?」

 二人を(おもんぱかっ)て声を上げると、二人とも口々に「大丈夫」と、大丈夫じゃなさそうな息遣いで返事をした。


「直撃だったら危なかったけどね……」

「そうですわね……。ですが、ユニエラちゃんが羨ましくもあります。あんな真っ直ぐ見つめられて……」


 直撃? 私は何も攻撃などしてないのだけれど?

「ユニエラちゃんの水着の感想は……まだ一個目だったんだけど、どうする?」

「先鋒のユニエラちゃんは、もうダメです。ですので、次は(ワタクシ)が!」

 そう話を進めて、シェリーちゃんが前に出た。

「気を付けて、シェリーさん。気を確かに持って!」

「はい! シャルティ先輩! 次鋒、シェリー=ブロッサム、行かせていただきますわ!」


 彼女たちの中では勝負事だったらしい……。勝敗条件は全く分からないけど。でもまぁ、こういうのはノッた者勝ちと言うし、その勝負、ノらせていただきます。つまり、この時点で私の勝利が確実ということでもあるのだ! では――


 次鋒のシェリーちゃんの水着。ユニエラちゃんと同じく、上下のセパレートタイプとは大胆な……。胸は私と同じくらいかな――ゲフンゲフン。

 ユニエラちゃんのとは違って、ひらひらとしたカーテン状の布が上下ともに付いている。そして、ピンクを基調とした花柄。鎧と同じように、ここは髪の色と合わせてきている。まるで、これも勝負服だと訴えているみたいだ。

 特に特徴的なのは、両前腕部を覆う、モコモコとしたアームカバー。白一色の本体に、濃いめのピンクの縛り紐が揺れる。


「それ、暑くない? というか、水とかに浸けて大丈夫なやつなの?」

 私が指差して尋ねる。

「少し暑いですけれど、これを付けていないと危ないですので……あ、これ防水なので、ずっとモコモコなんですって、凄いですわよね!」

「危ない? ――あ」


 思い出した。シェリーちゃんの前腕には、一部の虫人族の特徴である、トゲトゲが生えているのだ。それ単体でも結構な硬さがあって、ガントレットとかは、トゲの形に合わせた特注品を作り、攻撃にも利用する。シェリーちゃんの場合は、得物である片刃の短剣を逆手に持ったとき、短剣の峰側にもトゲ状の突起があって、ガントレットのと噛み合うようになっている。それで噛むように相手を捕縛したり、敵のサイズや当たりどころによっては、それだけで倒せてしまう。

 まぁ、斬った方が早いから、あまり使わない手だそうだけど。


 と、そんな凶器を内包するモコモコなわけだ。ちゃんと可愛さを求めて忘れないあたり、女子している。とても良い。


 私が述べる感想に考えを巡らせていると、少しモジモジとして、何か言いたそうにしているシェリーちゃんが目に入った。

「なに?」

「えっと……見ますか? トゲ?」

「え、いいの?」

 そういえば、いつも何がしかで腕を隠していて、直接見たのは、奴隷商の馬車から助けたときだけだった気がする。逆に言えば、それくらい、積極的に他人に見せるような部分じゃないということだ。それを見せてくれると、シェリーちゃんは言ったのだ。必然的に見えてしまうお風呂でもなく、特に見せる必要もないこの場で、自分から!


 私が聞き返すと、顔を真っ赤にして、幼気(いたいけ)な顔で小さく頷いた。

「じゃ、じゃあ……お、お願いします」

 私も釣られて顔が赤くなっているに違いない。なんで腕を見せてもらうだけなのに、私はこんなに恥ずかしく感じているのだろうか。

 シェリーちゃんがトコトコと近付いてくる。

「す、座ってください……」

 すぐ後ろにあった椅子に腰掛けると、ちょうどシェリーちゃんの胸ぐらいの高さに目線が置かれた。シェリーちゃんは腕を上げて、私の視界に入れる。


 シュルシュルと、ピンクの紐が解かれる。

 アームカバーと腕の隙間にシェリーちゃんの綺麗な指がスッと入る。


 ――ゴクリと、私は謎に唾を飲み込んだ。


 シェリーちゃんの指は、アームカバーを広げて、それをずり下げる。

 カバーに隠された腕がゆっくりと顕になっていく。

 少し汗ばんだ肌。肌色とは違って、ほんのり桃色のトゲの根本。そこから伸びる、人間には異質で、硬質な、桃色の細く鋭い突起物。そして、顔を真っ赤にしながら、まるで恥部でも晒しているかのような表情のシェリーちゃん。

 なぜだか分からないけれど、本当になぜか分からないのだけれど、無茶苦茶、えっちだ……。


「待って……そこまででいいよ、大丈夫……。しまって、シェリーちゃん。ありがとうございました……!」

 半分も顕になる前に、私はシェリーちゃんの手首を掴んで制止した。

 これ以上は、何か、開いてはいけない扉を開いてしまう気がしたからだ。そしてそれはきっと、今じゃない。

 制止したままの格好で、私はシェリーちゃんに水着の感想を述べることにした。この状態の長居はヤバい。早く次に行かなければ。いや、もう頭の中が今までの光景(表情)でいっぱいなんだけど、たぶん大丈夫。きっと……恐らく……。

 また一度大きく深呼吸をして、シェリーちゃんの目を見て感想を述べる。


「シェリーちゃん……すごく、えっちだったよ……」


 あ、ダメだ、引っ張られてるわ。それと語彙力死んでる。いや、語彙力は元から無いんだった。あとこれ、水着の感想じゃないね。

 そういう焦りを隠せているかどうかは、まぁ、まず無理だと自覚しつつも、それでも精一杯、平静を装ったふりを続けてシェリーちゃんの顔を見上げる。

 シェリーちゃんは、よく熟れたトマトのように顔を赤くして、一際(ひときわ)長い二本の前髪――恐らく触覚をピンと立たせていた。そして――

「きゅー……」

 と、鳴き声を上げて膝から崩れ落ちたのだった。

 とりあえず勝ち……で、いいのかな?


 抱き留めたシェリーちゃんをそっと寝かせて、シャルちゃんにお伺いを立てる。


「ディーちゃん、シェリーさんの水着の感想を言ってないよね」

 やっぱり気づかれていたか……。

 大人しく肯定する。

「素直でよろしいです。でも反則は反則。なので負けです。いい?」

「はい……」

 存外、きっちり勝敗をつけるんだなぁと内心思ったけれど、口にはすまい。野暮だからね。


「というわけで、最終決戦です! 大将である私の水着の感想を言うこと! あ、シェリーさんには、あとでちゃんと水着の感想も言うように!」

「うん、分かってるよ、シャルちゃん」


 一勝一敗で迎えた最終戦。ルール不明のデスマッチ? が、始まる!


 シャルちゃんの水着……。もうそれだけで私にとっては即死級な威力なわけだけど、その辺の死に方は、さっき遊ばれているときに既にしているので、耐性がついている。だから今度はじっくりと観察できるのだ!

 シルエットとしては、私が着ているものと似ている。ただ、布面積は私よりは多い。露出は背中側も少ないし、本当に、頭と腕と足だけ出てるみたいな、そんな水着だった。

 色は純白で、髪の色と合わせてきている。というか、肌も白いから、一瞬、裸に見えなくも……くっ……その死に方は一度したはずだぞ私! 耐えろ!

 生地はピタリと肌に貼り付き、シャルちゃんの体のラインをくっきりとなぞっている。

 丘一つない平野のごとく流れる上半身から、くびれに当たる箇所を過ぎると突如として現れる丘陵。標高こそそれほど高くはないものの、それは、寸胴幼児体型と見なされるはずだった彼女を、一目で大人の女性だと認識させ()るほどに魅力的な膨らみ()をしている。

 身長に比しても長い足が、よく映える。御御足(おみあし)と呼ぶのが相応しい。


 さて、どう言葉を並べて感想を述べたものか……。


「ねぇ、ディーちゃん。さっき気づいたんだけどね……」

 なんだろう? なにかシャルちゃんが言いたげだ。

「なになに?」

 頭の中で言葉を並べながら、会話をする。


 ――まず色がいいよね。髪とお揃いで、瞳とメガネのフレームの赤が映える。


 よしよし。ちゃんと水着の感想を組み立てられているぞ、私!


「見て。ここなんだけど。――ほら なんか、穴が空いてるんだよ。なんでだろうね?」

「――ミ゙!?」


 下腹部あたりの布に指をかけたシャルちゃんがそれを捲り上げると、隠されていたお腹が覗いた。私はその光景を目に焼き付けると、人のものとは思えない悲鳴を短く上げて意識を失ったのだった――。


 ちなみに、あとで聞いた話によると、その穴は水抜き穴と呼ぶらしい。そして、私を死に至らしめた凶器的なその水着はスクール水着というらしい……。

 完敗ですよ、スクール水着――いや、シャルちゃん。

シェリーちゃんの下り、ちょっと(へき)が強すぎないかと我ながら思います。

でも、人型の人外が普段隠している人外部分を羞恥心を押し殺しながら顔真っ赤にして晒すって、えっちじゃん?

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