魔族の国編 ⅢⅩⅥ
案内人がガンジーさんに変わって、彼についていくと、工房らしき一室に通された。かなり暑い。外は春なのに、まるで真夏のようだ。
煌々と燃える炉を見て、ロア君のテンションは有頂天。男の子だねぇ。
「俺も手伝ってもいいですかっ? 俺も鍛冶やってるんですけど……」
と、早速仲間に入れてほしそうにガンジーさんに尋ねた。
「嬢ちゃ……いや、坊主か。名前は?」
今一瞬、嬢ちゃんと言いかけたのは聞かなかったことにしてあげよう。
「ロア=キールです!」
普段聞かないようなハキハキとした声で、ロア君は名乗った。
「キールだあ!? 竜骨様がこんなところで冒険者たあ、どういう巡り合わせだ!?」
「ダメっすか?」
「ダメなもんかよ! 鍛冶場でキールを払い除けるなんざ、バカとモグリのすることってなもんだ! 来い!」
呼ばれると、ロア君は尻尾を振る忠犬のように、嬉しそうに走っていった。こっち側でも、キールの名前は職人には相当知られているらしい。まぁ、長生きのドワーフだし、もともと同じ国だし、知っていても不思議じゃなかったか。
「ディティスや、盾を持ってこい!」
バージェスさんに手招きされた。
そうだった。私も行かなきゃいけないんだった。やだなぁ。暑そうだし、あそこ……。
でも行かなきゃ話にならない。私の盾の改造は、バージェスさんがジオロジィまで送ってくれる条件だったからね。
なので、襲い来る熱気に目を顰めながら、私は向かった。目の水分だけ蒸発して、しわくちゃになるんじゃないかと思った……。
そして、バージェスさんに言われた通りに、台座に盾を設置した。
「うむ! もう良いぞ! 作業を手伝わぬ者は出て行ってくれ! 自由時間である!」
と、バージェスさんは声を上げた。私、本当にただ運ぶだけだったんだね。
「どれくらいで終わりそうですか?」
これは聞いておかなければならない。
「どう思うか、ガンジー?」
「お前さんのプランなら、三日ってところだろう」
「で、あるか。――そういうことだ、ディティス! 大船に乗ったつもりで待っているが良い!」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「いやいやそなた、そんな味気ない。もっとあるであろう? 妾を鼓舞するような、な?」
え……そういう応援みたいなこともしないとダメなの? えーと、えーと……。律儀に考えてる私も私だけど……。うーん……。
「せ、世紀の大天才! バージェス様! 私の盾を、最高にカッコよくしてください!」
こんな感じ……かな?
「少々棒読みなのが気になるが、まあ良かろう! オホンッ! ――任せるがよい! 妾の手にかかれば、盾であっても盾にあらず、その手で屍山血河も築けるであろう、最高の武器に仕上げると約束しようぞ!」
「わ、わー! 楽しみにしてまぁ〜す♡」
ロア君が吹き出した。あとで覚えてろよ。
「うむうむ! 最後のはぁとはなかなかに良かったぞ! では、諸君、三日後にまた会おうぞ!」
そう言うと、三人はスンと真顔になって作業に取りかかった。ええ……「よしやるぞー!」とかじゃないの、そこは。私の応援を受けてさぁ。
私の羞恥心は何だったのだろうか? 本当に意味あった? 今の。
そんな納得のいかなさを腹に抱えて、私は、みんなと合流して工房を後にした。
「ディーちゃん、可愛かったよ!」
「ありがとう……」
シャルちゃんの言葉が身に染みる。でも今は、そこら辺はそっとしておいてほしいかな。
外に出て、バスの停留所まで戻る道すがら、これからのことについて話し合った。まぁ、かしこまらずに言ってしまえば、「暇になったけど、これからどうする?」という議題である。しかも三日もである。
「まぁ、当初の探し物はするとして、だよね?」
私が言うと、ユニエラちゃんとアイちゃんが頷いた。
「観光もできそうだよね。三日もあるし」
シャルちゃんの声が弾む。
あ、ひょっとしたら、あの願いが叶うかも?
私はティレルさんに確認する。
「ティレル陛下、そういえば、ここって海まで繋がってるんでしたっけ?」
「そうですよ。港町までのバスもありますから、中心部から二時間くらいで海です。ハディーンに負けないくらい、ジオロジィの魚介類も美味しいですよ!」
やった! ずっと、いつかシャルちゃんと一緒に海に来たいって思ってたんだよね!
「そういえば、昨年は、王都で海の幸は食べましたけれど、海には行けず仕舞いでしたわね」
「そう、それだよ、ユニエラちゃん! しかも今回はシャルちゃんもいるし、新しくシェリーちゃんもいる。これはチャンスだと思わない?」
「思いますわ!」「思うね!」「ええ、高鳴りますわね!」
「ティレル陛下。う、海には、あ、遊べるところは、あ、ありますか?」
ナイス質問、アイちゃん!
「実はですね――」
そこでためるティレルさん。分かってらっしゃる……。
ゴクリ――
「海水浴場があります!」
「「「「「な、なんだってー!」」」」」
勢いでみんなで驚いてはみたけど、かいすいよくじょーとは? でもまぁ、何かよく分からないけれど、遊ぶところではあるらしい。
「あ、すみません。分からないですよね。えーと、海に入って泳いだりして遊べる砂浜のことです。海水浴場」
察してくれたのか、海水浴場を説明してもらえた。そっか、海に入って遊ぶ……え?
「あの、それって、今の季節でも大丈夫なんですか?」
「……あ」
「あ」じゃないんですよ、ティレルさん……。
「すみません……さすがに今はシーズンオフでして、海には入れません。砂浜では遊べますけど……」
「そうですよね。冷たいでしょうしね、水」
「はい……」
でもだ。海を実際に見ることはできるわけだし、行かない理由にはならないよね。あとお魚とか食べたいし。
「海は、見られるんなら行こうよ。ディーちゃんと海、見たい」
「そうですわね、せっかく行けるのですから、海は見ておきましょう!」
「す、砂浜も気になる」
「そうですね、私も山育ちですから、海は見たことがないですし」
「「「「(あ、)あと――」」」」
その後に続く言葉で、私たちの心が一つだったと確認できた。みんな、食欲には勝てないのだ。




