表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
288/301

魔族の国編 ⅢⅩⅤ

「大きい通りに出て、バスに乗ります」

「ここにも、バスがあるのですわね」

 ユニエラちゃんが関心を示した。

「ええ。環状運転をするための区画整理や道路整備など、いろいろとコストもかかり、手間でもありましたが、導入して正解でした。今ではすっかり、街の欠かせない足となっています。――皆様、乗り方は?」

 私たちは知っていると口々に答えた。

「母上の分は私が出しますね」

「娘に奢ってもらうほど貧困しておるぬわ、たわけ!」


 そんなやり取りをしていると、二階建ての、二階部分に屋根の無い、真っ赤な塗装のバズがやってきた。

「に、二階建て!? え、なにこれ!?」

 ミシルルベニアで見たものとは明らかに違うそれを見て、驚愕する私たち。

 これに……乗るの!? と、期待している自分がいる。ワクワク!

 

「あー、すみません! これは観光用で、完全予約制のバスです。これには乗れません」


 あ、そうなんだ……。と、ちょっと残念に思いながら、数人を乗せて発進した、赤いバスを見送った。

 程なくすると、私たちにも見覚えのあるバスがやってきて、今度こそ乗り込んだ。


 一時間ほど揺られて、バスを降りた。

 道中、かなりの人の乗り降りがあったけれど、不思議なことに、誰もティレルさんに気づいていないようだった。


「ひょっとして、人気(にんき)、無いんですか?」

「ディーちゃん!?」「ディティス様!?」「ディティスちゃん!?」「「ディティス!?」」

 降りて開口一番にそんなことを言ったら、総ツッコミを受けてしまった私です。バージェスさんはケラケラと笑っていた。

 ティレルさんは苦笑いを浮かべながら答えた。

「まぁ、私のことを知ってる市民から見たら、あんな場所に国王が碌な護衛も付けずに居るわけ無いと思うでしょうし、それに、国王と国民の距離感ってこんなものですよ。みんながみんな、国王の顔を知っているわけではない。街に降りたら、国王たりとて、自ら名乗らなければ、そこらにいる町娘と変わらないわけです。自分の顔を売ってなんぼと思ってる王もいるかもですが、私は別に、そこまで顔を知らしめたいとかは思っていないので。まぁ、これを人気が無い言い訳と言われたら、ぐうの音も出ませんが、あはは」

 自嘲するティレルさんを見て、私は一層申し訳なく感じた。

「み、みなさん、わ、分かっていてあえて――そう、()()()! 話しかけなかったのかもしれませんわよ!? プライベートの外出まで国王でいたくないでしょうという、国民の皆様からの心遣いですわ!」

 と、ユニエラちゃんからの必死のフォローが入り、私は深々と頭を下げた。ごめんなさい……。


「ありがとうございます。でも、本当に気にしていませんので、謝ることはありませんよ。国王の顔を知らなくても、皆さんが平和に笑って過ごせるのなら、私はそれでいいのです。そのために国の舵取りをしているのですから。そしていつか、本国と和解して、また一つの国に戻ることができたらと、祈念して止みません。――さて、行きましょう。工廠はこちらです」


 ティレルさんが心の広い王様で助かった。めっちゃ優しいし、いっそ、この国の子になりたいまである。

 ま、そんな冗談はさておいて、私たちはティレルさんの案内で工廠へと歩みを進める。まだ建物の何も見えていないところから、すでに、空に上がった煙だけはハッキリと見えている。



 鉄柵の前に立つ、ガタイのいい騎士の姿が見えてくると、向こうからもこちらが見えたのか、手に持つ戦斧(ハルバード)が揺れてキラリと光った。

 お構いなくとティレルさんが言いながらずんずん進むのについていく。そして、警戒態勢の騎士の前にたどり着いた。二人とも大きい。たぶん魔族だ。

 騎士たちはティレルさんを見て、慌てて武器を引っ込め、気をつけの姿勢になった。


「お疲れさまです」

 ティレルさんが言うと、短く、「はっ!」と返事をして敬礼をする。ピシッとしていらっしゃる。

「恐れ入ります、陛下! 一週間ほどお休みなさるというお話でしたが、本日はどのようなご用件でしょうか? それと、お連れのみなさまについても、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 身分の確認はきっちりする。当たり前でえらい。どこぞの関所の騎士とは雲泥の差だ。まぁ、彼らのお陰で私たちは今ここにいるわけなんだけどね。


 慌てる様子もなく、落ち着き払って、もちろんと、ティレルさんは私たちについて説明する。

「彼女たちは、休みの間、私が私的に雇った冒険者です。それと――」

 ティレルさんはバージェスさんに目配せすると、バージェスさんは、「うむ!」と一歩前に出て――

「私の母です」と、紹介された。


 騎士たちはまた慌てて、胸の前に手を持ってきて、バージェスさんに挨拶をする。

「これは、陛下の御母上でございましたか! 大変なご無礼を!」

「よい! ふむ、見ない顔だな。であれば知らぬのも無理は無かろう。辺鄙なところに隠居しておったのでな、八十年ぶりくらいに戻ってきたわけだ!」

「左様でございましたか! ――それで、陛下、何故こちらに?」

「はい。八十年ぶりに母に会いに行ったのですが、護衛の、この子……」

 背中をとんと叩かれた。私か。

 一歩前に出る。

「――この子の盾が大層気に入ったようで、その……改造したいと言い出しまして……」

「改造ですか? この盾を……」

 騎士は言いつつ、私の盾と、私を注意深く舐めるように見回した。

「お嬢ちゃん、人間か? この大きさ、かなりの重量があるように見えるが……見せかけ……?」

 訝しむ騎士に、私は提案してみる。

「人間ですよ。持ってみますか? 魔族の騎士さんなら楽々かもしれませんが」

 言って、盾を一枚外して、騎士に差し出した。

 騎士は、ハルバードを相方に持たせて、私の盾を受け取ると、思った通り、楽々そうに持ち上げた。

「うむ。確かに、我らには両手では余裕があるが……」

 言いながら、片手で持ち直すと、今度はぎこちなく持ち上げた。

「片手では――少々重いな。強化を使えば余裕も生まれそうだが、ただ運ぶだけのために強化を使うのは割に合わないか。これを二枚も……お嬢ちゃん、本当に人間か?」

 と、また同じ質問をしてきた。どうもすみませんね、人間離れした筋力をしてて……。

「実の両親は人間でしたよ。ひいお爺さんとかもっと前かが鬼族だったとかなんとか、聞いたような気もしますけど」

「隔世遺伝か、先祖返りってやつか、はぁ〜、初めて見たな。たしかに、鬼族ならこれくらいは余裕か。――おい、お前も持ってみろよ」

 関心しながら後ろの相方に提案すると、相方の騎士が二本のハルバードを手渡し、交換した。

「――どれ? おお!? 重いなあ! 同じくらいのサイズの普通の盾でももっと軽いぞ? どんな材料使ってんだ、これ!? しかも二枚もって……作ったやつはバカじゃないのか!?」

 私は、その感想を聞いて懐かしさを覚え、頬が(ほころ)んだ。

 初めてこの盾と出会ったときに、私も同じ感想を抱いたからだ。


 私は騎士から盾を返してもらって装備し直した。

 騎士たちはハルバードを持ち直して、ティレルさんに向き直って敬礼した。

「この膂力であれば、陛下の護衛にも十二分でございましょう! 御前での無礼をお許しください!」

「いえ、確認は大事ですもの、忠実な職務遂行に、こちらが感謝したいくらいです。その実直な姿勢が国を堅固に守るのです。ありがとうございます」

「「もったいなき御言葉! 痛み入ります!」」

「――それで、入っても?」

「はい、どうぞ! このゲートをお通りください。擬態や透明化、変身などが強制的に解除になりますが、規則ですので、陛下でもお願いいたします」

「え……?」

 どうしよう。という声が、ティレルさんから上がった。バージェスさんは今、髪や目の色を変えている。これが解除されるとなったら、突如としてハイエルフが降臨する一大事になってしまう。

 いや、お母さんがハイエルフだったことがバレるのは、むしろすごいことじゃないのかなと、思わなくはないけれど、本人が望んでいないのであれば、困り事以外のナニモノでもない。

 みんなで不安になってバージェスさんを見るが、バージェスさんは、そんな空気、どこ吹く風なご様子であった。

「うむ、(わらわ)をなんと心得るか! 何も問題など無い! よく見ておれ!」

 言うと、真っ先にゲートへと向かった。

 狭く空けられた鉄柵を通り、ゲートくぐる。私たちはその様子を戦々恐々と見守った。


 ――が、


 ゲートはうんともすんとも言わず、バージェスさんを素通りさせた。どういうコト!?

 その後、私たちは内心で首を傾げながら、ゲートをくぐった。

「では、陛下、ごゆっくり!」

「は、はい……」

 ティレルさんも、心ここにあらずと言った様子で、頭にハテナを浮かべながらゲートをくぐったのだった。


「あのような魔法程度で暴かれるほど、ヤワな魔法強度ではないのだ、我が擬態魔法は! 全く、あの程度で動揺しおって、(わらわ)が何年生きていると思うておるのだ、娘よ?」

「そうでしたね、そうですよね……。魔女やハイエルフ(母上)たちは、未だ我々の常識の埒外にいるんでしたね……。ああして目の当たりにするまで忘れていました……」

「ハーッハッハッハッハッハ! 愛らしい奴らめ、妾を心配してオドオドしている姿は、なかなかに母性をくすぐられたぞ?」

 さっきのゲートでの一件を、バージェスさんに笑い飛ばされていると、ドタドタという足音が前から近付いてきた。


 足音の正体は、真っ白なヒゲを蓄えた、老齢のドワーフだった。

 ドワーフはバージェスさんを目に留めると、近づいてきてその腕を掴んで揺さぶりながら叫んだ。

「その偉そうな話し方と笑い声! お前、バージェスか!? バージェスだよな!? いや、バージェスしかありえねえ!」

「そなた……もしや、だいぶ老けているが、ガンジーか!? ハハ! 久しいではないか! なんだ? ヒゲもそんなに白くなりおって、今日明日にも死ぬのではないか?」

「てやんでえ! バカ言ってんじゃあねえ! あと二百年は生きらあ! そんなことより、八十年ぶりか?」

「そうだな。ここが落成するのを見てから隠居した故な」

「それで、八十年ぶりにノコノコ戻ってきて、何の用だってんだ?」

「うむ! よくぞ聞いてくれた!」

 バージェスさんの目がキラキラ輝いて何をするのかを早口で捲し立てる。私たちには、もはや何を言っているのか、魔族語と同レベルで理解不能だけれど、ガンジーさんは、小さく溜息を吐いて、ニカリと白い歯を覗かせて笑った。

「面白そうじゃねえか! 一枚噛ませろ、バージェス!」

 理解できたんだ、凄い……。と、私たちはただただ舌を巻いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ