魔族の国編 ⅢⅩⅣ
「ここは?」
クガルーアさんが呟くと、思いの外、声が反響した。それにティレルさんが答える。
「ここは、ジオロジィ内にいくつかある、ポータルの転移先です。上に人や物が乗った状態では、次の人たちが転移してこられないので、こういう場所が点在しています」
「じゃあ、早く下りた方が良いな」
祭壇のように高くなっているそこから、私たちは下りた。
「母上、何故ここに? 好きなところに転移できるでしょう?」
「妾もそこまで迂闊ではない。人前にいきなり転移すれば、驚かれるであろう? お前の私室とて、侍従の出入りもあるだろうし、そこへ武装した大所帯で乗り込むわけにはいかん。それに、妾にも、ここへ母として来るのなら準備が要る」
言い終わると、バージェスさんは魔法を唱えた。すると、バージェスさんの髪の色が淡い緑色に、瞳も、金色から宝石のような緑色になった。その姿は、伝えに聞くエルフそのものだった。
「ティレル。お主にはこっちの方が馴染みがあろう?」
「そうですね。……懐かしいです……母上」
少し泣きそうな顔をするティレルさん。きっと、二人の間には、あの姿だからこそ思い出せる思い出が、たくさんあるのだろう。
が、そんな郷愁もお構いなく、バージェスさんは話を進める。
「では、早速だが、工廠に行くぞ! ディティスよ、ついて参れ!」
言いながら歩き出す。みんなもそれに合わせてついていく。――というか、
「私!?」
「そなたの盾の改造なのであるから、そなたがおらぬことには話にならぬであろう! それとティレル。工廠に話を通してくれねばな!」
「母上のこと、まだ知ってる人はいると思いますが……」
「若いのに門前払いは、充分にあり得るであろう?」
「まぁ、それもそうですか……。他に、ついて来たい方は?」
ティレルさんが尋ねると、ロア君が即挙手をした。続いてアイちゃん、シャルちゃん、ユニエラちゃん、シェリーちゃん。と、いつものメンツ。
クガルーアさんたちは……。
「歴史書の閲覧がしたいのですが、大図書館は誰でも入れるのでしょうか?」
「はい。王城部分はその上層部に増築したものですから、図書館には出入り自由です」
「大図書館が王城になっているのですね……」
「あ、言ってませんでしたね!? すみません……」
「いえ」
「出て見回すと、一番目立つ大きなお城があるので、それを目指していただければと」
「ありがとうございます。通貨は……」
「王国と変わりません、手持ちの物をお使いください」
「分かりました」
そこで外に繋がる大扉まで来た。
大扉の下の方にある、人間サイズの出入り口を、ティレルさんは開けた。すると――
一気に、賑やかな喧騒が私たちを包んだ。
外に出る。
ミシルルベニアよりも人の密度が高く、活気のある声が其処此処に響いている。
異国感は薄く、私たちのよく知る街の延長線にしか思えない。それもそうだろう。もともとは同じ国の街で、同じ国の国民だったのだから。八十年経っても、人々の元の気質が変わるわけではない。
一番違うところといえば、やっぱり、人間だけでなく、魔族もいたるところに居るというところだ。
多種多様の魔族が、人間たちと一緒に歩き、話し、食事をして、そして笑っていた。
ミシルルベニアでもそういう光景は見てはいたけれど、あそこの魔族は主に虫人族だったから、ここまでの多種族が一堂に介しているのは初めて見た。いや、闘技場の観客はひょっとしたらそうだったかもしれない。でも、そこら辺は覚えていないのでしょうがない。戦うのに必死だったからね。いちいち観客の種族とか見てらんないのだ。
と、閑話休題。
クガルーアさんたちは周囲を見回すと、「あれか」と指をさして早々に出発した。よく目立つ白亜の塔が、日光を浴びて爛々と輝いていた。確かにアレは分かりやすい。屋上の方に平たい部分があるのは何だろう?
「あれは、言うなれば、ヘリポートだな」
ヘリポート? 聞いたことがない言葉がバージェスさんから発せられたので、鸚鵡返しで聞き直した。というか、ナチュラルに私の思考を読んできたね、バージェスさん。
「あー、もう使っとらん言葉だったか……。えーと……止まり木? みたいなものだ。あそこにドラゴンを着地させるのだ。図書館の周囲には、ドラゴンが着陸できる広い場所がない故な」
なるほど。年に一回のドッグタグの受け渡しはあそこで行ってるのか。しかし――
「目立ちますね」
「うむ! 一大行事である! まぁ、実際やっていることは、商売以外のナニモノでもないがな」
「ディティスさん、母上、行きますよー?」
呼ぶ声の方に顔を向けると、少し話している間に、ティレルさんたちが思ったよりも先に行っていた。足、速くない?
「皆、移動する時間が惜しくて、せかせかしておる故な、自然、街全体の歩行速度が上がっておるのよ。ゆっくりすればよいものを、人生は長いのであるからな!」
それ、ハイエルフの貴女が言っても、人間には響かないと思いますよ?
「言われてみればそうであるな?」
「何も言ってないんですけど!?」
「二人ともー!」
「「はーい!」」
ティレルさんに急かされて、私たちはこの街の時間に合わせるように歩みを速めた。




