魔族の国編 ⅢⅩⅡ
アイちゃんの膝を枕にして、ロア君を寝かせること、三十分。ようやくお目覚めのようだ。
ロア君はおもむろに体を起こすと、私たちをぼうっと見回した。そして、大きく伸びをした。よく眠れたようで。
「おはよぅ……」
声ちっさ!?
「おはようロア君。ここがどこか覚えてる?」
「いや……知らん……どこだ、ここ?」
「バージェスさんの家だよ。ロア君、急に倒れちゃったから」
「そうだぞ。俺が運んだんだからな! 感謝しろよ!」
言って、アレイスターさんがロア君の背中を叩いた。
「あ……そうすか……ありがとうございます」
リアクションまで、なんか薄いなぁ……。寝ぼけてるのかな?
「あーそうだ。変な夢見てさ」
「ロア君の変な夢の話なんて誰も求めてないんだけど」
「まぁ、そう言うなって、ディティス。あのな――」
「あ、喋るんだ……」
「メルコさんが、魔女だったって聞かされる夢でな! いやぁ、びっくりしたぜ。ミステリアスなところがある人とはいえ、さすがに魔女ってさ〜。荒唐無稽すぎるだろう?」
話を聞いてしまった私たちは、居た堪れない空気になって、みんなで可哀想な子を見る目をしてしまった……。
「ロア。げ、現実逃避、や、止めよう?」
「な、なんだよ、アイ……」
「メルコさんは、ま、魔女だよ。ゆ、夢じゃない。そ、それを聞いて、ロアは、た、倒れたんだから……」
「あのさ、受け止める時間って必要じゃん? 妹よ……」
「バージェスさんは、ま、まぁ頑張れって、い、言ってたよ」
「俺がメルコさんに抱いてる気持ち言ったの!? 全員の前で!?」
「言わなきゃロア君、下手したら殺されるかもな雰囲気だったし……」
「え……俺、そんな危ない状況だったの……? じゃあしょうがねぇか」
受け入れるの早いな、ロア君。
「だが、相手がまさか魔女とはな。高嶺の花どころじゃないだろう? 王族と結婚するより難易度高くないか?」
「クガルーア。恋愛の挑戦はタダですから」
「当たって砕けろだな、まぁせいぜい頑張れ」
「クガルーアさん、面白がってないっすか?」
「そんなの無論だろ」
「この王子、性格悪ぃ! いいっすよ、やってやりますからね、俺! 絶対!」
「おー! 頑張れ頑張れ!」
やんややんや。
静かにお茶を啜っていただけの空気が、一気に華やいだ。なんだかんだ、ポジティブにムードを作っていくロア君の妙技と言えるのかもしれない。
ま、メルコさんと本当に恋人になれるかどうかは兎も角な話だけれど。夢を見るのは自由だからね。
「良い仲間ですね……」と、フードの人が私に囁き、私は「はい」と笑った。
そこへ、私の盾の観察を終えたらしいバージェスさんが上がってきた。
「なんぞ、賑やかであるな。ふふ、久しく談笑の声なぞ聞いていなかった故、心地良い」
「終わりましたか? バージェスさん」
「うむ。重畳である! もうアイデア出しも終わって、大方の改造の方針も決めた! 天才故な! というわけで、さっそく移動するぞ!」
移動?
「ここで改造するんじゃ……?」
「いや、そなたの盾は、その大部分が魔鋼製であったからな。こんな一軒家程度の設備では敵わぬ。しっかりとしところで加工する」
しっかりとしたところ……。この集落にそれっぽい建物は見えなかったけれど、でもエルダードワーフも住むところとも聞いているし、そっちにも協力を仰ぐって感じかな?
しかし、私の予想とは外れて、バージェスさんはフードの人に話しかけた。
「お前のところの工廠、使わせてもらうぞ」
フードの人は大きな溜息を吐いた。
「そうなるんだろうなとは思ってました……。どうせ、拒否権なんて無いんでしょう?」
「無論である!」
それを聞いてまた溜息。
そういえば、このフードの人、ずいぶんとバージェスさんと気の置けない仲って感じだけど、誰なんだろう? ずっとフード被ってるのも気になるし、尋ねても大丈夫なんだろうか?
「あの、ずっと気になっていたのですけれど、貴女は、何者なのでしょうか? そろそろ顔を見せていただいても? 無理にとは言いませんけれど……」
ユニエラちゃんが尋ねてくれた。こういうとき、物怖じしないからかなり頼りになる。
「お主、まだ挨拶もしておらぬのか?」
「ええっと……その……」
「ああ――じれったい! 早ぅその被り物を取って挨拶せよ! そも、室内で着帽など、失礼であろうッ!」
バージェスさんは、フードを掴んでローブごと引っ剥がし、無理やりその姿を顕にした。
金色の長い髪、特徴的な長い耳。ディープブルーの瞳の中に、縦に一筋の赤。普通のエルフとは違うけれど、かといって、ハイエルフとも違う見た目の女性。
半泣きの顔で、小さく可愛らしい悲鳴を上げた彼女の肩を抱き寄せ、バージェスさんは紹介した。
「我が娘、ティレル=ハスカイドー=ケイオス=アルドゥイノである!」
「「「む、娘えええええ!!?」」」
高中低のハーモニーが響いた。
ていうかそれより、アルドゥイノって……。
一同の視線がクガルーアさんに注がれた。
「バージェス殿……。この子――いえ、この方はその……どういう?」
尋ねると、バージェスさんはティレルさんの背中を小突いた。自分で言えということらしい。それを受けてティレルさんは、深呼吸をしてから私たちに向き直り、臙脂色の短めのスカートを摘みながら礼をし、口を開く。
「申し遅れたことをまずはお詫びします。本国、アルドゥイノ王国の王子殿下。私は、西部アルドゥイノ、暫定女王、ティレル=ハスカイドー=ケイオス=アルドゥイノと申します」
わずかな沈黙の後、また声が揃った。
「「「女王!!?」」」




