魔族の国編 ⅢⅩⅠ
倒れたロア君をアレイスターさんが背負って、ハイエルフのバージェスさんのお家へと向かった。
道中、村の建物などを見てみたけれど、建築様式は見慣れた建物ばかりで、虫人族の自治区、ミシルルベニアのような、コンクリートで建てられたものは無い。どちらかというと、私たちの国の王都の方が近いと感じた。大きな違いと言えば、石畳がほんのり温かいということくらい。
聞くと、冬場は雪がすごいから、道に積もる分はこれで解かしているのだそうだ。言われてからもう一度よく見てみると、道にはわずかに傾斜があり、溝が掘ってあって、雪解け水が側溝に流れるような造りになっていた。これが雪国の知恵というものかと感心した。うちでは積もっても、退かして脇に積んでおくだけだからね。
「ほうほう。そなたらの事情は相分かった! そうか、あの王が……」
バージェスさんの家に着き、案内された工房のような場所で、私たちは旅の目的を話した。なんか、そういう話の流れになったので。
バージェスさんは、思いの外、真剣に聞いてくれたように見えた
「信じてくださるのですか?」
クガルーアさんが目を丸くしながら尋ねる。
「いや、こういう陰謀論というものは、話半分で聞くものだ。半信半疑というものよな。妾には確証が無い故、そういう話もあると受け取っておくのよ。ここまで逃げてきた、そなたらを全否定するつもりはないが、すべてを鵜呑するわけにもいかぬ。申し訳ないがな」
「いえ、荒唐無稽にも取られる話を聞いて下さっただけでもありがたいです」
「うむ、よしなに。――でだ。なぜこの男は突然ぶっ倒れたのだ? 我が母なる祖の名を聞いて倒れるとは、無礼であろう! ……いや、むしろ魔女の名を聞いて咽び泣かぬ方が失礼か? うーむ……であれば、気絶は敬意の標榜とも、とれる……か?」
とれないと思う。普通に失礼。
でも、理由を当人の意思を無視して話していいものか……。確認すら取れないしなぁ。
「ロアは、メルコさんのことが、す、好きだから、そ、その正体を知って、び、ビックリしたんです」
と、アイちゃんがすんなりと理由を暴露してしまった。双子特権というものだろう。家族の口は、他人には止められないのだ。
「好いて……いる? この男が? 我が母様を?」
アイちゃんが頷く。
「歳の差とか、分かっておるのか?」
「い、いいえ……」
「で、あろうな。魔女であることを今しがた知ったばかりであろうし。……最低でも、万は離れているとだけ言っておくぞ」
「ロアは、と、年上のお姉さんが、す、好きだから、だ、大丈夫です。た、たぶん……」
「年上と言っても、程度があろう? え? 人間はそういうのいけるのか? ――いや、いけるか……いけるな。うむ、直近すぎて忘れていたが、妾の夫がそうであったわ。ハッハッハッハッ!」
一人で納得して、バージェスさんは一頻り笑うと、涙を指で拭いながらアイちゃんに伝えた。
「まぁ頑張れと、兄には伝えておけ、娘よ」
「は、はい!」
「ふふん。母様はあれで案外、少女趣味のロマンチストであるからなぁ。今後、どう転がるか楽しみであるなぁ、ふふふ」
それが果たして自分の母的な存在に向けていい笑顔なのだろうかと思える不敵な顔で、バージェスさんは笑った。
「ところで、メルコさんとはどのくらい会ってないんですか? 今、行商人をしてるって、知ってますか?」
私が尋ねると、バージェスさんは少し考えてから答えた。
「母様とは、かれこれ二千年は会っておらぬか? ……というか、行商人!? 研究研究で出不精だったあの母様が!? 魔女であっても、月日は人を変えるものなのだなぁ……と、しみじみしている場合ではなかった! ディティスとやら、はよぅその盾を!」
二千年という数字に驚く暇もなく、私はバージェスさんに盾をせがまれた。
「あ、はい。そうでしたね。えっと……結構……というか、かなり重いんですけど……」
忠告すると、バージェスさんはふふんと鼻を鳴らした。
「そなた、妾を誰と心得ているのだ?」
そう言って、まるで、抱っこでもねだるように両手を差し出して、ある種、扇情的にも見える表情で見つめてきた。その余裕そうな態度と言葉を信じて盾を手渡した。
「――この程度なんとも……なん、と、も……ッ!? そなた、人間であったであろう!? ちょっ、待て……一旦返す。潰れる故……。ふぅ……死ぬかと思った……。人間の女子とは、いつからこのような怪力に?」
いわんこっちゃなかった。あと、全員じゃなくて、主に私だけです。
「いや、そいつがおかしいだけです」
クガルーアさん! 正しいけども! もっとこう、言い方とかあるでしょ!
「そうなのか……。妾、もしかして選択間違えたのでは? いやだが、ハイエルフに二言があってはならぬか。うむ。自己強化すればいける!」
フンスと再び鼻を鳴らすと、バージェスさんは魔法を唱えた。そして私の盾に再チャレンジ。
「いくぞ? ……ほれ見たことか! 持てるではないか! さっすが妾! この程度、雑作もないのだ!」
もしかして、さっきの失敗を無かったことにしていらっしゃる? そう思いつつも、私たちは彼女に拍手を送った。ハイエルフ様のご機嫌を損ねてはいけないと、本能的に感じ取ったのである。
そして、バージェスさんはその後、目をキラキラと輝かせながら、私の盾を観察し、時折メモを取った。母親譲りで研究家気質なのだろう。
もはや私たちのことが眼中に無くなったバージェスさんを前に立ち尽くしていると、フードの人に案内されて居間に通された。
一段高い小上がりになったそこには、靴を脱いで入るのだそうな。ここは、ミシルルベニアでの宿屋を思い出す。
宿屋……思い出す……。うーん……何か忘れているような?
考えながら上がった居間には、私たちの荷物が鎮座していた。
――あ、思い出した!
今、目の前にあるこの荷物。ミシルルベニアの宿屋に預けたままだったものだ!
闘技場から直接、山の麓まで転移していたから、持って来られなかったんだ。……でも、どうしてここに?
みんなで首を傾げていると、フードの人が話してくれた。
「取りに行ってこいと、ここへの転移の魔法陣を持たされまして、ミシルルベニアまで送られました。休憩所で……私が……はは。人使い荒いですよね、ホント……」
乾いた笑いを零す彼女に、私たちは、誠心誠意のお礼を述べたのだった。そういえば、登山道の休憩所で起きたら姿が見えなくなってたけ




