魔族の国編 ⅡⅩⅥ
「で、どうする?」
増えてしまったオーガたちを前に閉口する中、アレイスターさんが口火を切った。
「どうもこうもないだろう。原因は間違いなくあれだ。あれを倒せばいい……たぶんだが……」
噛み合わせの悪そうな顔で、クロウが言った。
「断定しないんだね。いつもこういうときは訳知り顔で言うのに」
「いつもと言うほど、お前は俺のコトを知らんだろう、アンカー。あと、原因は断定しただろう。ただ、解決方法に、向こう側と同時に倒さなくてはならないなどの条件があった場合はお手上げになる。だから、そこは断定はできない」
そんな特殊すぎる倒し方が必要な魔物とかいる? 考えすぎじゃないの?
「さすがにそこまで厳しい条件ではないとは思いたいですが……相手は魔物ですからね……無くは無いといったところでしょうか……」
私が訝しんでいると、シェリーちゃんは苦笑いを浮かべながら言った。
ええ……無くは無いのか……。まぁ、確かに、見たことも無い魔物だしなぁ……。
ていうか、あいつもそうだけど、今までの魔物を全部捕まえて飼育してる闘技場って、かなりヤバい施設じゃん……。飼育施設は地下とかかな? どうなってんだろう……。迷宮化してたりとかしてない?
と、余計なことに思いを馳せていると、アイちゃんが律儀に挙手をしてから発言した。
「きょ、強化が残っているうちに、こ、こっち側だけでも、い、一度は倒しておかない?」
その提案に、みんなが首肯した。
「そうですね。向こう側は、強化もない状態で踏ん張ってるんでしょうし、やれることをやれるうちにやっておきましょう!」
シャルちゃんの言葉で、いよいよやることは確定した。そうと決まれば腕が鳴るぜ!
アレイスターさんとクロウにも強化をかけて、私たちは進撃を開始した。
進路上のオーガたちは蹴散らして、ヤツが呼ぶ増援もお構いなし。一直線の最短コースで駆け抜けた。なにせ時間が無いからね。特に私。
目標に近づくにつれて、立ちはだかるオーガの数が増してきた。数に押されて足を止める機会も増えてきて、思うように進めない。もう、こっちは急ぎたいっていうのに!
「邪魔ぁああッ!!」
オーガのコメカミに盾の縁を抉り込ませる。杭を打つ弾は温存。身体強化済みなら、杭を打たなくても、オーガの頭を潰せるのだ! ……と、さっき気づいた。
着地一番、ヤツの鳴き声が頭上から降り注いだ。またぞろ、オーガの数が増えていることだろう。やれやれ……。
辟易しながら見上げると、意外や意外。ついにヤツは、こちらにはっきりと顔を向けていた。真っ赤な瞳が妖しく光る。
どうやらついに、私たちのことを無視できなくなったようだね!
まるで、近づかせないとでも言うように、特殊個体オーガは吼え、周囲に武装オーガが増えていく。肉の壁でも立てているみたいだ。出せる最大数とか制限は特に無かったようで……。でも――
「あいつ、よっぽど近づいてきて欲しくないみたいだな!」
「であれば、狙い通りと見てよろしいのでしょう」
「うん!」
「あ、あいつを倒せば!」
「それで解決だね!」
沸き立つ私たちを見て、クロウが冷静な言葉を発する。
「だが、敵の壁は厚い。もたもたしていれば、タコ殴りでミンチにされるぞ」
「そうだね。でも、やることは変わらないよ。一々相手しているのが馬鹿らしい数ってだけ。こういうときどうすれば良いかなんて分かりきってる。でしょ?」
私の言葉に、シャルちゃん以外が頷いた。シャルちゃんは初めてだからね。
私はこれからどうするか耳打ちで伝えた。
別に、普通に話してもよかったけれど、こういう些細なイチャつきタイムは心の栄養になるのでね。というわけで、ついでに愛も囁いておく。
「時間がないんだから、ダメっ!」
はい、ごめんなさい。でも、仕事中に怒ってくれるシャルちゃんも好き!
というわけで作戦決行。内容は至ってシンプル。ずばり――
『他の敵は無視する!』である。
それでは、スタート!
一斉に走り出し、並み居るオーガたちを華麗にスルー! は、さすがに難しい。攻撃は躱して、いなして、どうしても無理なら最低限の応戦を。防御は足が止まるので、極力しない方向でッ……と!
真正面から迫るオーガの顎を、ジャンピングアッパーを食らわせて砕く。着地後も足を止めずに前へ前へ。敵が死んでるかも確認はしない。時間の無駄だから。追ってくるなら、もうそれはそれってことで。
他のみんなも、股の間をくぐったり、肩の上を伝っていたりと、移動手段はそれぞれだ。駄賃代わりに腱を斬ったり、首を斬ったりと、なんだかんだスルーしきれていないのも同じでご愛嬌。
そしてシャルちゃんは、飛んで行けば一足先に着けるのに、なぜか私と一緒に走っている。
「シャルちゃん、飛ばないの?」
「私はほら、戦いのことはまだまだよく分かってなくて、一人で行って負けちゃうかもしれないじゃない? それに……その、一人じゃ、寂しいし……」
寂しいかぁ……。寂しいなら仕方ないよね! ふふ、愛いやつめ……。
私は、シャルちゃんの頭を撫でようと手を伸ばしかけて止めた。今はそんなことをしている場合ではないと、また叱られてしまう気がしたというのもあるけれど、それよりも、肉の林を抜けるのが、思いの外早かったからだ。まさかの一番乗りである。
強化されて至った速度というのは、こうも世界を縮めてしまうものなのね……。
「なんで黄昏てるの、ディーちゃん?」
「なんでもないよ。世界が小さいなって思っただけ」
「はいはい」
シャルちゃんの呆れ声で耳を癒していると、追いついたみんなが私たちの横に並んで着地した。こう、シュタタタっと。
おお、なんかかっこいい。
さてと見上げると、特殊個体のオーガがこちらを見下ろして睨んでいる。
散々体力を無駄遣いさせてくれたお礼をさせてもらうよと、私たちもヤツを睨み返した。そんな私たちの視線が気に障ったのか、赤い瞳がギラギラと輝いて、オーガは吼えた。
すると、また武装オーガどもがぽこじゃかと現れた。もはや見慣れすぎて、飽きたまである光景に、いっそ冷笑までしてしまう私です。
「馬鹿の一つ覚えみたいに……いい加減、見飽きたんだよね、その手品!」
「後ろから追ってくるのは任せろ! 行け!」「手柄は譲ってやる!」
走り出すとき、アレイスターさんとクロウが叫ぶ声が聞こえた。じゃあお任せしますと、心の中で呟いて前を見る。クロウは知らん、何様だよお前。
目の前には、武装オーガがいっぱい! 私たちに向かって突撃して来る。
私が身構えると、私を追い抜いて、黒い影が前に出た。アイちゃんだ!
アイちゃんの大鎌が、オーガの持つ盾を斬り裂いて、その断面の木の焦げた匂いが鼻を突いた。アイちゃんはそのまま、オーガの足を斬り飛ばし、すっ転んだオーガのそのお腹の上で、ヤツを指差した。
「い、行って!」
「ありがとう!」
次のオーガへ飛びかかるアイちゃんを横目に、私たちは進む。




