魔族の国編 ⅡⅩⅢ アイ編
最初に、ディティスたちを目で追いかけていたトロールを倒した。
隙だらけだったから、なんてことはなかった。
それから、みんながそれぞれにトロールと戦い始めて、私が二体目、他のみんなも一体ずつ倒せたころ、背を向けたサイクロプスたちが、ディティスたちに一斉に光線を放っているのが目に入った。
ちょうどそのくらいだ。
オーガたちが武装して、三体一組で私たちに襲いかかってきたのは。
私たちは、あっという間に分断されて、それぞれで、パーティーを組んだオーガとも戦うことになった。
「な、なんで、こ、こんな……」
盾に剣。槍に斧。いったいどこから出したのか。群れを通り抜けるときにはそんな影も形もなかったのに……。
しかも、いっぱしに連携までして、とても即席のチームとは思えない。確実に、こんなちんけな人間一人を始末するために、こいつらは動いていると分かった。
けど、私もそんなに簡単にやられてやるほど経験は浅くないし、修羅場もくぐってきていない。
人のパーティーとの戦いだって経験している。
人と同じような戦い方をするというのなら、崩し方だって同じはずだ。ただ、スケールが人の三倍くらいは大きいけれど、やってやれないわけじゃない……はず?
私の大鎌を、盾で防ぐ先頭。それに合わせて斧を振る次鋒。バックで下がると槍を突き入れてくる最後方。それに対処しても、距離を詰めてくる先頭の盾と剣……。
――いやいやいやいや、やりにくいなあ!
スケールが大きいだけってわけでもない。戦い方をしっかり心得ている。なんなのこいつら。
盾、大きい……。ディティスのよりもはるかに大きいけれど、出来は簡素な木の板を組み合わせた盾なのに、やっぱり、こうまで大きいと防御力は充分すぎる。私の鎌の一振り程度では下手に食い込んで抜けなくなって、かえってピンチになりかねない。
なら、盾は後回し。最後に一対一での方がやりやすそう。だから、防御の薄い、斧か槍。どちらかというのなら――
「や、槍だね……」
目の前で横薙ぎされた剣を跳躍して躱す。
着地――すぐに走る。大きく弧を描くように、奴らの周りをぐるりと回る。陣形を何とか崩して、槍を正面に引っ張り出したい――。
けれど、盾持ちが常に私を正面に捉えるように動き続ける。後ろの二体もその後ろにぴたりとつける。
これじゃダメか。
私の知ってるオーガよりもかなり頭がいい。
じゃあ、これなら――
方針転換。盾持ちに突撃する。
こういうとき、ディティスだったら真っ先に防御の要を潰す。防がれるって、厄介な行動そのものだから、面倒なのは先に倒すに限る。
自分が盾持ちだからか、相手にとって嫌な行動してると自覚的な彼女らしい判断であり、経験則。
それに、私も倣おう。
私には盾を正面から打ち砕くような武器も力も無いけれど、少なくとも、ディティスより機動力はあるつもりだ。
足を使え、足を!
ディティスには無いけれど、私にあるものを目いっぱい使う!
頭上から剣。
ディティスなら正面から受け止めるだろう。でも私にはそれはできない。盾じゃないし、どうかしてる筋力も無いから。
でも、技は同じように持っている。
申し訳程度に付けられた、短剣を流用した穂先を支点に、鎌を剣に滑らせる。火花が上がって、キーンと高い音が鼓膜を突く。
大地を抉る剣。爆発するような音。その脇を土埃に紛れて抜け、盾の更に内へ――
が――
引き戸の扉でも閉めるように、盾が横から迫ってくる。勘がいい。
――でもなんの!
鎌を盾の縁にひっかけて、今度は刃の腹を支点に、盾裏にある刃先を第二の支点に、大地を蹴り上げて体を運ぶ。
よし、盾の内側に潜り込めた上に、回ったついでに刃も盾から抜けた。やればできる、私!
と、潜り込めたことに満足してられない。
下がろうとするオーガの足を追いかける。後退は遅い。追いつける!
追いついた足に鎌を一振り。足首の腱を刈り取る。次いで、遠心力を利用して流れで膝裏を。紅い螺旋が虚空に描かれる。
斬るのと同時に傷口が焼き固められて、血は出ない代わりに肉の焼ける臭いが鼻腔を突く。いつまで経っても慣れない臭いだ。マスクの代わりにと、いつもは首の布を引っ張り上げてるのに、今は忘れていたと、その臭いで気づいた。けど今は、それを直している時間は無い。
もう片方の足に走り、同様にする。頭上から苦悶の声。もう、立っているのもかなり難しいだろう。
ミシミシ、ブチブチと膝と足首の傷から音がして、血が滲み出てくる。自重で傷が開く、広がる。
そろそろかな。
ガンと、剣が地面に突き立てられて。盾が倒れた。
膝を着き、前かがみで剣を支えに体重を支えているオーガ。倒れ伏すのは耐えたらしいが、それではもう戦闘はできないだろう。
これで盾は潰せた。
当初の作戦に立ち返って、次は槍を倒そう。
――と、その前に。
トロールさんがお出ましです。二体……。
後ろからは、武装し、連携攻撃をしてくるオーガ。正面からは二体のトロール。
ちょっと、これは、攻勢に出るのは厳しいかも……。
大鎌を手遊びにくるりと回して、満月を描き、一度、息を吐いた。
けど、もう少し、頑張りますか……。
――きっと、誰かが来てくれる。
そんな確信だけはあった私は、大鎌を構え直した。
ちょっとアイの視点書きたくなったので書きました。
実は、ここか次でアイを死なせようか悩んだのですが、私の作品でそういうのは、いいかな……。と思ってやめました。
アイはもう既に、一回は死にそうな目に遭ってるし。
仲間の死がほぼ無いので、本作には緊張感が無いとか言われないかと思ってしまうんですけど、別にそれでもいいかと。
仲間を死なせるのって精神的消費カロリーがクソ高くて、書いちゃったらしばらく動けなくなりそうだったので。
やっぱり、死ぬより生きてる方がいいに決まってますし。




