魔族の国編 ⅡⅩⅢ
『サイクロプス殲滅ぅぅう!! まさかまさか! 最後方に配置されていたサイクロプスを真っ先に撃破! そのお手並みも、また鮮やか! 野生のものに遭遇することなど稀で、この闘技場で初遭遇という冒険者も多く、その巨体とは全く無縁な攻撃方法に虚を突かれて亡くなってしまうということも多い、初見殺しな魔物なのですが……なんとこれを無傷! ディティス=アンカー選手とシャルティ=バウ選手、まさかの無傷で撃破! いやぁ、良いものが見られましたね! メアリー女史』
『今、ディティスちゃんの方は、強化魔法切れてるんだよね? いや、副作用による身体機能低下の錯覚を抱えながら、それを感じさせない身のこなし。お見事としか言いようがない。サイクロプスの攻撃方法も知っていたみたいだったし、いやはや、あれで冒険者になって一年らしいんだよ。末恐ろしいねぇ〜。これからの活躍も楽しみだよ!』
『はい、ありがとうございました! シャルティ=バウ選手に至っては、なんとなんと、冒険者登録は自治区に入ってからで、まともな戦闘はこれが初という情報を得ています! 余談ですが、ディティス選手とは同郷で幼馴染みで、恋人同士だとか……』
え、なんで知ってんの!?
『お前、どこからそういう情報仕入れてきてんの? プライバシーに関わることはほどほどにしときなよ。ストーカー被害で訴えられる前に止めときな』
「善処しまーす!」
あ、止めないなコイツ。と、今会場にいる全員が思ったに違いない。
『えっと、シャルティちゃんは……そうだね。要領がいいし、覚えが早い。それに頭が回る。あと何より――恋人だけあって、ディティスちゃんと息が合ってる。決定的なのはこれだろうね。経験の差を阿吽の呼吸のコンビネーションで補ってなお、余りある。って感じかな。元も子もないことを言ってしまえば、天才。センスの塊』
「だってさ、シャルちゃん」
「は、恥ずかしいなぁ……。ほ、ほら、他のみんなを手伝いに行くよ、ディーちゃん!」
「はいはーい」
投げた盾を回収し、二人で来た道を引き返す。サイクロプスの光線で、ところどころ黒焦げてたり、ガラス状に溶け固まったり、抉れてたりしている地面で、躓かないように、気を付けて走った。
トロールと戦っていたアイちゃんたちは、後ろから流れてきたオーガとも交戦状態に入って、乱戦になっていた。
肝心のトロールは、八体いた内の、四体が倒されていて、オーガは……そもそも元の数が多かったから分からん! 上位種っぽい二体が健在なのは分かるけど……って、いや、あんまり数減ってないぞ!? どういうことなのかなクガルーアさん!?
そう思いながら、ひとまず、シェリーちゃんの後方から様子を窺っていたオーガの両膝裏を、シャルちゃんと二人で破壊した。
膝を折られて、カックンと、突然膝を着くオーガのその音に気が付いたシェリーちゃんがすっ飛んできて、刃渡りが絶対足りないはずの短剣を器用に扱い、その首をストンと落とした。
「シェリーちゃん! 余計なお世話だったかな?」
「いいえ、そんなことございませんですわ。お二人とも、ご助力、感謝いたします!」
シェリーちゃんは、スカートを摘んで、優雅に礼をした。その優雅さは本来、こんな戦いの場に似つかわしくないはずなのに、シェリーちゃんの佇まいは、なぜか妙にしっくりきていた。
――っと、見惚れてる場合じゃない。それより、今は状況が分からないから確認しないと。
「これ、どうなってるの? オーガ、あんまり倒せてないみたいだけど……」
「私も詳しくは分かりません。トロールを二体倒したあたりで、オーガが後方から攻撃してきまして、そのまま乱戦にという感じですわ。あまり数が減らせていないのは、オーガたちが武装をしている上に、連携をしてきているからです。ほら、来ますわよ、ディティスちゃん、シャルティ先輩!」
シェリーちゃんが見据える方を向くと、オーガが三体、こちらへ向かってきていた。先頭の個体は大きな盾に剣を携え、後方のオーガは装備が見えにくいけれど、刃物を持っているらしいことは辛うじて見えた。
まるで、冒険者のパーティー戦闘の陣形のようだと感想を漏らしながら、私も構えて、シェリーちゃんの前に出た。
「守りは任せて!」
「はい!」
陣形を整えた私たちは、まずは、私と盾持ちとで接敵した。
盾と盾のぶつかり合い。力は若干あちらが強いか、少しずつ後ろに下げられている。
盾持ちが剣を振るうのを、もう片手の盾で防ぎ、声を上げる。
「シェリーちゃん!」
呼ぶに合わせて、薄桃色の可憐な花が、私の背中の影から躍り出る。
肩に盾――私のそれらを、階段でも駆け上がるように軽やかに足場にし、私が防いだオーガの剣を橋のように渡り、腕を駆け、一気に肩まで登りつめた。その様はまるで、木の幹に絡む、蔓薔薇のようだった。
オーガは一歩たじろいで、シェリーちゃんを振り払うなり、掴むなりしようと動くが、もう遅い。
「――□□◆◆■。では――ごめんください!」
光の刃で刃渡りを延ばした短剣を突き立てながら、シェリーちゃんはオーガの肩から飛び降りた。
右肩口から股下まで、ざっくりと斬られた盾持ちオーガは、膝を着き、血を吐いた。そこへ、足元に着地したシェリーちゃんが跳び上がる。
前屈みになって、差し出された格好のフリーな首へ、返しの双剣一閃――。
オーガの首が大地を舐めた。
シェリーちゃんはそのまま、オーガの死体を蹴って、跳躍アンド加速。後続のオーガへ向かう。
私たちも追わなきゃと、シャルちゃんにアイコンタクトを送って頷きあった。
後続の一号オーガは両手に小斧。二号オーガはトゲトゲの付いた金棒を持っていた。
小斧オーガは、人間から見たら明らかに大斧なそれを軽々と振り回し、すでにシェリーちゃんと戦闘状態。金棒オーガの加勢は阻止しなくちゃと、私は判断した。
機動力には機動力。技と速度の一号オーガはシェリーちゃんとシャルちゃんにお任せして、私は力の二号オーガとタイマン張らせてもらいます。
副作用の錯覚はもう無い。万全にお相手仕る!
一号オーガと切り結ぶシェリーちゃん目掛けて突撃してくる、二号オーガの前で、私は仁王立ちする。仁王が何かは知らない。まぁ、それはそれで置いておいて。
邪魔な私を蹴散らそうと、オーガが金棒を薙ぐ。
私はそれを受け止めて、正面から睨みつけた。
「その程度?」
どうやら挑発を挑発としてちゃんと受け取ってくれたらしい。奴は吼えた。
ムキになったオーガが、私をミンチにしようと、金棒を左右に振り回す。
それを、地面に杭を打ち、二枚貝になって耐え忍ぶ私。ガンガンガンガンと耳が痛い。
そして、それも通用しないと悟って、潰れろとでも叫ぶように吼えながら、大きく金棒を振り上げた。――ここだ!
真上からの金棒を受け止めると、足が少し地面に沈む感覚。構わず、金棒を弾き返し、体勢を崩したオーガの膝を破壊する。
膝が曲がってはいけない方向に曲がって尻餅をついたオーガの体を駆け、まずはジャンピングアッパーで顎を粉砕。すると仰向けに倒れるので、追いかけて頭蓋を叩き割る。
膝を折ってからの一連の流れはもはや身体に染み付いた、私の、いつものオーガの倒し方。伊達に一年冒険者はやっていないのです。
振り返ると、シェリーちゃんたちもオーガに止めを刺して、ちょうどこちらに合流するところだった。
「あんな感じに、最低でも三体一組で襲ってきていましたので、分断されてしまった私は、骨が折れていた次第ですわ。やはり、こちらも連係できると、攻略難度がぐんと下がりますわね!」
シェリーちゃんの言葉に頷く。
「そうだね。トロールもまだ残ってるし、連携して襲ってくるオーガたちも厄介だし、分断されたみんなと、早く合流しないとね」
そこで、シェリーちゃんの方からジリリと音がした。
「え、なんの音?」
「十分のアラームです。強化魔法がまた皆さんにかけられるようになりました」
へぇ〜。そういう用意もしてあったんだ。
「あ、じゃあそれで、今からみんなを強化すれば――」
「いいえ、それは出来ませんわ」
私の提案は、言い切る前に否定された。シェリーちゃんは続ける。
「強化魔法は、かける相手の全員の位置を目視で把握していないとなりません。ここで使っても、かけられるのは、現状、ディティスちゃんだけになります」
あー、そういう制約もあるのか。なるほど。じゃあ、なおのこと合流を急がないとね。
「ディーちゃん、あれ!」
シャルちゃんが私を呼びながら、短過ぎるスカートの先を摘んで引っ張った。うん、できれば手を引いて欲しかったかな、シャルちゃん。
シャルちゃんの反対の手の指は、一点を指していた。その先を見ると……。
「あ、あれって……」
虚空に描かれる真昼の紅い月が目に入った。それは、間違いなく、アイちゃんの大鎌が振るわれるときの軌跡だった。あそこにアイちゃんがいる――戦っているという証拠だ。
「よし。じゃあまずは、アイちゃんと合流しよう!」
私が言うと、二人は頷いた。
アイちゃんがいれば、トロールの相手も楽になるし、真っ先に合流しておきたいくらいだったからありがたい。
待ってて、すぐに行くからね、アイちゃん!
そうして私たちは、地上に昇る紅い月を目指して走り出した。
敵が巨人系ばかりだから、ずっと魔物の膝を破壊し続けてる……。
魔物たち「俺たちも昔はいっぱしの巨人系魔物だったのだが……膝に、盾や杭を受けてしまってな……」




