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魔族の国編 ⅡⅩⅡ

 七戦目。

 ズシンズシンと、地響きを上げながら、門の奥からその巨躯が姿を(あらわ)した。


「…………ッ」


 その光景に、私たちは息を呑み、見上げた。


 出てきたのは、サイクロプスが三体、トロールが八体、オーガが多分、二十体くらい。巨人系魔物の揃い踏み。

 集団で奴らが歩くだけで、会場中の人間の身体がバウンドする。


 相手を観察すると、サイクロプスとトロールは兎も角、オーガには二体ほど、頭一個分大きい個体がいる。上位種かもしれない。警戒しないと。


 あと、やっぱり、強化魔法というカードを切る場面を、間違った感が強い……。

 いや――さっきの赤帽子も、リーダー格は、実力者三人で当たって拮抗していたから、強化魔法を使う判断は間違ってはいなかったはずだ。

 つまりこれは、いよいよ、チャレンジとして闘技場(コロシアム)側が牙を剥いてきたと見るべきかもしれない。


 両頬を自分で叩く。じんわりとした痛みと熱さが、しっかりしろと不安を押し流し、自分自身を鼓舞していく。


 うだうだ言っても挑戦は続く。戦いは続く。実戦だって、敵は待ってくれないんだ。

 そうだよ。身体が重いだの、錯覚で力が出せないだの、生っちょろいことを言っていられない。バッドコンディションとの付き合い方だって、私たちはもう(わきま)えている。

 この状況でもきっちり戦える。だから私たちは今ここにいる。みんなだってそう。くぐって来た修羅場の数も質も、この一年じゃ、私たちは一番多いし上質だった。出来ないわけがない!


 人間組のみんなも、こんなところで、これっぽちのことで弱気になっていられないと、私と同じように、自分自身を励ましている。

 敵がいるなら倒す。それが私たち冒険者であると――


『さあ、七戦目! このチャレンジ――実を言いますと、この七戦目を超えられずに全滅する冒険者もかなりおります。ですが、ここを超えられたパーティーのチャレンジ成功率は、なななんと! 実に八割! つまり、この七戦目こそが、このチャレンジにおける登竜門!』

『それを言うなら分水嶺な』

『…………はい。まあとにかく! ここを越えられるかに、このチャレンジの成否がかかっていると言っても過言ではない! ということです!』


 実況が(うそぶ)くと、それを聞いたロア君が笑った。

「なんだよそれ。そんなこと聞いちまったらよ――」

 倣うように、私たちも自然、口角が上がる。みんな同じ気持ちだ。

「意地でも超えなきゃなんねぇじゃねーか!」

 口々に同じような意味の言葉を叫んだ。


「よし、全部相手したことがある敵で、数が多いだけだ! 落ち着いて行け! いや……サイクロプスはあるか? 俺とシウスは無いが……」

 クガルーアさんの問いに、私含め、魔物の巣(ネスト)組が手を挙げる。

「頼もしいな! ――行くぞ野郎ども!」


 クガルーアさんの指示を待つでもなく、自然と役割分担がなされて動いていく。

 サイクロプスの目からの光線を防げる私と、その援護にシャルちゃん。

 トロールに有効打を与えられるアイちゃん、シェリーちゃん、アレイスターさん。その援護にクロウ。

 そして一番数の多いオーガのところに残りの戦力を集中。


 体は動く。ちゃんと、思い通りに。

 そうだよ。重くなったと感じるのは錯覚で、私たちは何も弱くなんてなっていない。誰一人として。

 時間を経るごとに、本来の感覚を取り戻していくのを感じる。これは、強化魔法の後遺症というか、副作用のようなものだと思うことにした。

 切れた直後が一番重く感じていたから、きっとそうなのだろう。


 私とシャルちゃん、アイちゃん、シェリーちゃん、アレイスターさんが、魔物の群れに突っ込む。オーガは無視し、その足の林を抜けていく。

 後方からはシーリーズさんとリヴィちゃんが放った矢が飛んできて、オーガたちの注意をそちらに向けてくれている。


 オーガの林を抜けると、私とシャルちゃんは、サイクロプスを引きつけるために、アイちゃんたちとは別行動。

 私たちを追おうとしたトロールに駆け寄り、最初の一撃を見舞ったアイちゃんを横目で見て、親指を立てながら、その脇を抜けていく。


 サイクロプスは、たった三体。されどの三体だ。

 私が過去、相手したことがあるのは一体。その三倍の数を今回は同時に相手にする。光線も三方向から来ることは誰でも予想できるけど、それでも、光線を恐れずに、真正面から真っ向勝負できるのは私ぐらいなものというのも、また事実なわけで。

 光線が、他のみんなのところに向かないように、踏ん張ってやろうじゃない!


 私たちを捉えたサイクロプスたちが、その目に光を集め、照射してきた。

 短く、連続的な、早速の熱烈歓迎を、シャルちゃんは上空に逃れて回避。私は盾で弾く。弾いたいくつかの光線が、地面を焼き、私たちの後方にいたトロールの背中を焼いたのか、汚い呻き声が聞こえた。あと――

「うぉおっ!? こっちまで飛んできたぞ! 気を付けろ!!」

 アレイスターさんの叱責が小さく聞こえてきた。ごめんなさい。以後気をつけます。

 とは言ったものの、弾く方向に気を行けるも何も、今はそんな余裕はないんだよねぇ……。


 こういう攻撃のされ方は初めてだ。大出力一点照射だけじゃなかったのか……。

 弾きながらどうしようか考え(あぐ)ねていると、シャルちゃんが、ぐるりと、三体の頭の周りを回った。

 身体自己強化で上がっている速度で光線を躱しながら、あんな煽り飛行を……。かっこいいまで身に着けたシャルちゃんは、無敵の私の恋人ではなかろうか?

 っと、サイクロプスたちの視線がシャルちゃんに集まってる今がチャンス! 移動移動!


 光線の横殴りの雨を回避しながら、氷の(つぶて)を出したシャルちゃんが、それらをサイクロプスに投射した。

 目に向けて放たれた氷は、すべてが迎撃された。

 上空に目が向いているその隙に、私はサイクロプスの後方へと移動した。

 さっきの通り、光線をこの盾で防いでも、消えるわけじゃない。防いだ光線は、弾かれて不規則に飛んでいくから、後ろや周りにいる人たちが場合によっては危険にさらされる。その事を考えて、後ろに壁しかない場所に移動したわけです。

 空中で、サイクロプスの目を引き付けてくれているシャルちゃんに向かって手を挙げる。シャルちゃんはそれを見てこちらへ飛んでくる。それをちゃんと追って振り向くサイクロプスたち。


「そうだよ……それでいい。お前たちの相手は私たちだよ!」

 これで、トロールやオーガを相手しているみんなの迷惑にはならない。


 石ころを拾い上げて投げつける。盾が邪魔で投げにくいから、全力投球とはいかないけれど、挑発には充分。私たちだけを見ていろとダメ押しだ。

 石の当たったサイクロプスが、乱杭歯を剥き出しにして吼えた。まぁ、なんて短気でいらっしゃることでしょう。

 吼えたサイクロプスの目に、光が集まる。さっきまでと違い、溜めの時間が長い。本気の光線を撃ってくる気だ! そして、それに呼応するように、残り二体の目にも。

「三つ子なのコイツら!? シャルちゃん! 背中に抱きついてて!」

 盾を構えながらシャルちゃんを呼ぶ。弾いた光線がシャルちゃんに当たらないとも限らないから、背中で密着していた方がむしろ安全だろうと考えたからだ。

 シャルちゃんは文字通り、直ぐに飛んできて、私のお腹に手が回った。背中にひやりと、シャルちゃんの鎧の冷たさを感じる。と、その瞬間――


 眩い光が視界を覆った。

 三度の連続して訪れる衝撃に、体が押されていく。ジリジリと後退させられていくその感覚が、地面を踏みしめている足から伝わる。堪らず盾の引き金を握って杭を地に穿つと、その感覚は無くなった。そういえば、この杭を本来の使い方で使うのって、いつぶりだっけ? と、少し思いを馳せた。


 盾の影からでも、光線から発するその熱は感じる。やっぱり熱い。髪とか焦げてないか不安になる熱さだ。だけどそれも、次第に弱まっていく。

 背中から、シャルちゃんが聞き取り不能な言語で、何かを呟くのが聞こえる。魔法の詠唱だ。

 視界を覆っていた光が消える。光線の照射が終わったその瞬間、守りを解いて叫ぶ。

「シャルちゃん!」

 何をしようとしているのかは分からないけれど、私の助けになることに違いないという確信と信頼がある。だからお願い!

「――■■◇□(ブラインド)!!」

 私の背中から飛び立ったシャルちゃんは、両手をサイクロプスたちに向けて何某(なにがし)かを叫んだ。すると、黒い(もや)のようなものが、一瞬、サイクロプスたちの顔に張り付いて消えた。

 ともすれば、サイクロプスたちがオロオロとよろめきだした。その姿はまるで、目が見えていないようだった。


「ディーちゃん! 目を見えなくしたよ! 二十秒!」

「ありがとうシャルちゃん!」

 本当に視覚を奪ってた!? いい仕事が過ぎるよ、この子!


 あの状態でも、光線が撃てるかは分からないけれど、もし撃てたら、無差別な方向に撃たれて面倒この上ないことになりそうなので、サクッと片付けないと。せっかく貰ったチャンスなんだから! 時間も無いし!


「シャルちゃんは左をお願い!」


 指示を飛ばしながら、返事も待たずに走り出す。シャルちゃんならこれだけで充分。そして私は右から。

 まずは、その、酔っ払いみたいな千鳥足を止める!

「ぉおおりゃああああ!」

 膝に盾で殴り込み、引き金を握る。そして直ぐに飛び退く。

「ここら辺かな?」

 破壊された膝を着いて、サイクロプスが倒れてくる。両手を着いて四つん這いの姿勢になり、ちょうどいい高さに頭が来た。私はドンピシャで、その頭のすぐ目の前に位置取れた。

「せーの!」

 アッパーからの杭打ち。

 顔面に深くめり込んだ盾と、後頭部から出る杭。その一撃――いや、二段攻撃で、サイクロプスその一は、一瞬ピクリと痙攣して沈んだ。

 ほぼ同じくらいの時間で、シャルちゃんがサイクロプスの首を、光の刃を纏った脚甲で蹴り刎ねた。瞬間、会場から歓声が上がる。それは、サイクロプスを仕留めたことに対する歓声ではなかった。観客たちのその視線は、一点に向けられていた。シャルちゃんのスカートの中が丸見えだったのだ。このスケベどもめ!

 下はスパッツ型の鎖帷子だと分かっているけれど、他の人に見られているのが、なんだか無性に腹が立った。


 ――っと、あと五秒くらいしかない?

 今はそんな嫉妬心や独占欲に駆られている場合ではなかった。

「シャルちゃん!」

 名前を呼ぶ。お互い、それで何を言いたいのかはなんとなく伝わる。

 大急ぎで残りのサイクロプスへ向かう。

 けれど――

 サイクロプスの動きが変わった。

 オロオロうろうろしていた様子が消え、大きな目玉がぎょろりと左右に動いた。間に合わなかった!

 視覚が戻ったサイクロプスは、先に目に留まったシャルちゃんを見やり、その瞳に光を帯びた。距離にして三メートルほど。回避は間に合うか微妙な距離。

 急制動をかけるシャルちゃん。

 私は、盾を投げた。


 放たれた光線が、僅かな時間、光の柱のように、空に向かって伸びた。

 それは、シャルちゃんが回避するには充分な猶予――


 落下する盾と入れ違いで突っ込み、光線を掻い潜ったシャルちゃんがサイクロプスの懐に飛び込み、何かを短く唱え、放った。

 紫電がサイクロプスの体を疾走(はし)り、その瞳から光が消える。

 意識を失い、崩れ落ちるその巨体に、地上()空中(シャルちゃん)からダメ押しとばかりに、盾と、光の刃が振るわれる。そして――


 ――ゴトリ。


 三体目(最後)のサイクロプスの首が転がった。

書いててちょっと、マブラヴオルタシリーズの光線級吶喊レーザーヤークトみたいだなと思いました。

サイクロプスは、絶対外さないとかいう狂った命中精度の敵じゃないので、あっちとじゃ雲泥の攻略難度ですけども。


あ、あと、今回から、シャルちゃん含め、魔族の魔法名には、読者にだけ何使ったか分かるルビを振ることにしてみました。

詠唱は、その……その子視点になったら書きます……。かっこいい詠唱とか、思いつかんのや……。



ところで、私の書く戦闘シーンが好きな人ってどれくらいいるんですかね……?

まだ七戦目なんですよこれ。長くないですか? 大丈夫ですか? 楽しめていますか?

アナタハ……ソコニ……イマスカ?


楽しめていたら幸いです。では、また次回。

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