魔族の国編 ⅡⅩⅠ
さて、ここまででオーガやオークまで出てきて、次はサイクロプスでも来るのかな?
なんて身構えていたけれど、出てきたのは意外な魔物たちだった。
会場も、その意外さにざわめいている。
出てきたのはゴブリン、ゴブリンライダー、ホブゴブリン。みんな一様に武装をしていて、三戦目よりも装備は良い。そして共通の装備なのか、ホブと、ローブを纏ったゴブリン以外のゴブリンたちが、赤いベレー帽を被っているのが目に付いた。
数も、ホブの方が多く、それまでの魔物の群れ方とは違っていた。
「皆様、警戒を! 強化をかけますわ!」
シェリーちゃんが声を張り上げ、次いで詠唱を始めた。
私たちは、ゴブリンたちから目を離さずに頷く。
一団で、ホブの体躯で隠れ気味だから見辛いけれど、群れの最後方に控える、ローブを纏ったゴブリンが気になる。たった一匹だけ、他のゴブリンとは毛色が違うそいつは、先端が不自然に弯曲した木の棒を持っている。
すごく、嫌な感じ。あと、ちょっと見覚えがある。
真っ先に叩かなきゃいけない気がする。
首を左右に振って、あの魔物の巣攻略メンバーを見ると、同じことを考えていたのだろう、視線が交わり、そして頷き合った。
「シーリーズさん! 一番奥! 仕留めて!」
「任されよ!」
「な!? おい!?」
リーダーで参謀のクガルーアさんの指示を待たず、私が声を張り上げたものだから、クガルーアさんは鳩が豆鉄砲を食らったみたいな声を上げて驚いた。
気持ちは分かるけど、ごめんなさい。クガルーアさんは知らないから……。終わったら説明するんで!
シーリーズさんが弓に矢を番えると、赤帽子の一匹が声を上げた。何を言っているかは分からないけれど、手に持った剣をシーリーズさんに向けている。攻撃指示であることは見当がついた。
案の定、その声を聞いたホブたちが、一斉に動き出し、シーリーズさんへと向かう個体と、ローブとシーリーズさんの間に割り込むような動きをする個体とに別れた。小賢しくも、射線を封じられた!
直後、ローブのゴブリンが木の棒を掲げ、何かを唱え始めた。
あーもう! 嫌な予感が当たったよ!
間違いない。あいつ、魔法が使えるやつだ!
なんとしても、一番最初に仕留めないと、面倒なことになる気がする!
「なんかよく分からんが、あの杖を持った奴だな? 俺も嫌な感じなのは分かるぞ。だからアイツを第一目標に指定する! ロア、アイ、左右に展開して、ホブを片っ端から殺せ。ディティス、リヴィはシーリーズに付いて援護。シウス、ユニエラは俺に付け。赤帽子のリーダーっぽいのを引き付ける。シャルティさんとシェリーさんは臨機応変に。クローはアレイスターを援護だ。アレイスターは、シーリーズと同じで、最優先目標の撃破を狙え! おっしゃ! 仕事だぞ、野郎ども!」
クガルーアさんの声に、応! と頷いて動き始める。そして、タイミングよく、シェリーちゃんの強化魔法も発動した。
初めての、身体能力向上魔法の効き目は……。
――うわあっ!?
盾が紙のように軽くなったと言えば伝わるかな? 何も持ってないのとほぼ同じくらいに軽い。
動きが軽快になりすぎて、自分の力に振り回されるような感覚があって、少し怖いまであるよ。
みんなも、自分の今の状況に驚いているようで、一瞬動きがぎこちなくなった。
それをフォローするように動いてくれた、シウスさんとシャルちゃん。マジ感謝。
シャルちゃんは自己強化済み。シウスさんは何もなし。
他人を強化する魔法は、人間相手にしか効果が無いと、控室で教わっていたお陰だ。初めて受けたときは身体が軽くなりすぎて、動きが逆に鈍るから、フォローをするようにとの、シェリーちゃんのレクチャーが効いている。
そして、私は思いました。
やっぱり、一戦目から魔法を受けとくべきだったよね!? と。
強そうな相手を前にぶっつけでやっていいことじゃないよ、クガルーアさん! 馴らす時間は要るよ! と。
『おおっと!? 恐らく強化魔法を受けたであろう挑戦者たち、懐かしさまで感じるキョドりっぷりだ! もしかして、初体験かあっ!?』
ほら、実況にも言われてる。
『まさか、ぶっつけで、この場面で強化魔法初体験とは、思いもしなかったよ。……度胸あるね、この子たち……』
メアリーさんも若干引いているのが声音で分かった。
でも、私たちも、プロですからね。すぐに馴れてみせますよ!
「はは、こりゃ凄い!」
「なるほど!」
シーリーズさんとリヴィちゃんが早速、寄ってきたホブゴブリン二体を、まとめて二人で鮮やかに膾切りにしていた。
ちょっと適応力高すぎるね、二人とも……。
ベテランのシーリーズさんは兎も角、リヴィちゃんがこんなに強くなるとは、保護した半年前には考えられなかったよ。
まぁ、そんなことを考えつつも、私も私で、赤帽子を一匹、文字通り粉砕したところなんだけどね……。
え、待って? 私史上、敵が最もグロテスクな有様になってるんだけど!? 粉砕って何さ。自分で言っててなんだけども!?
『ふ、粉砕い!? ディティス=アンカー選手、赤帽子の頭を、文字通り粉砕しましたぁあっ!? 私も、生まれてこの方、初めて見る光景に言葉も出ません! ――彼女、本当に人間ですか?』
それは私自身、今疑ってるよ……。
『力の強い子だとは、見ていて感じていたけれど、強化でここまでとはねぇ。鬼人族と同等か、下手したらそれ以上の力になっているかもね。私も、魔物の頭を一撃で木っ端微塵にするなんて芸当、初めて見たし。強化魔法との相性も良いのかもしれないね』
な、なるほど。私が特別に強化魔法と相性が良いから、普通よりもさらに強くなってしまったと……。
メアリーさんの予想でひとまず納得しておこう。今は戦いに集中しなきゃだし。
私が一歩踏み出すと、目の前の赤帽子が見るからに怯えた様子で後ずさった。
おやおや。魔物の目にまで、今の私はどう映っているのやら。まぁ、構いやしないんだけど……ねッ!
――ピギャッ!?――
踏み込み一歩、それだけで瞬く間に距離を詰めて、盾で殴りつけたら、そんな悲鳴を上げて、パンッと、赤帽子の頭が弾け跳んだ。まるで、地面に落とした、よく熟れたトマトみたいだと思った。
キーキーと猿のような声が響く。声の主は、クガルーアさんと切り結ぶ赤帽子。他の魔物に指示を出しているのだろう。――あ。
私を指し示している。なるほど。標的を私に移すわけだ。
これは好都合。ひょっとして、シーリーズさんがフリーになります?
そして案の定、指示に従って、手すきの魔物たちが、ワッと私めがけて一斉突撃。わお! 望むところですってなもんよ!
最強パワーアップ中のディティスちゃんの活躍を御覧じよ!
若干、ハイになってる頭の中を感じつつも、やることはきっちりとやらねばと、迫る魔物たちを迎え討つ体勢をとり、シーリーズさんとリヴィちゃんにアイコンタクトを送る。
二人は頷いて――
「頼む!」
「任された!」
後ろを駆ける二人の気配を感じつつ、変な気を起こしたのが脇を抜けていかないように注意もする。
「しゃあオラ来いやああ!」
数と図体で勝るホブたちが先鋒で来る。
最初、三十体くらい居たと思われたコイツラも、気がつけば半数くらいに減っている。
『鮮やか! キール兄妹、素晴らしい手並みでバッタバッタとホブゴブリンの数を減らしていきます!』
『五戦目のときのトロール戦でも、メインアタッカーだったね。特に妹のアイ=キール。あの見慣れない形の大鎌を、まるで手足の延長のように使う。斬り跡とか、刃の軌跡とかを見るに、傷口を焼くような魔法陣が刻まれているんだろうね。――面白い』
と、ちょっと前に実況されていた。二人のおかげで私の負担もだいぶ軽いよっと!
先頭のホブをシールドバッシュでぶっ飛ばすと、後続のホブたちがドミノのように倒れていった。ホブゴブリンのような大きめの敵相手に、これができるとは思わなかった。ちょっと楽しい……って、ダメダメ! 気を抜いちゃいけない。何が起こるか分かったもんじゃないんだからッ!?
考えてるそばから、赤帽子が左右から槍を手に手に襲撃してきた。ほら見ろ!
盾で防ぎながら、自戒を込める。
関係ないけど、この赤帽子、帽子じゃなくて髪の毛なんだ……。間近で見て気がついたよ。
はじき返そうとすると、バックステップで距離を取られた。間違いなくこいつら、ゴブリンよりは頭がいい。別の魔物?
などとまた余計なことを考えていると、今度は背後から前方にかけて、私の脇を炎が通り過ぎた。炎は、私に迫っていた矢の群れを焼き払ってくれたのだ。危なかった……。
「もっと周りも見ろ!」
後方のアレイスターさんからの一喝だった。面目ないです。
そうこうしている間に、視界の端で、シーリーズさんとリヴィちゃんが魔法使うゴブリンに迫っているのが見えた。すごい、息ぴったり……。
ついでとばかりに、赤帽子の弓取たちを道すがらにバラしながら突き進む。これには、実況も観客も沸き上がる。
『苛烈にして華麗! この二人が通ったあとには、魔物の肉塊しか残らない! トンボのように舞い、シュレッダーのように斬る! そんな二人が、杖を持ったゴブリンに迫ります!』
『確かに見事なものだけど、アンタの喩えは、致命的に下手だね、相変わらず。ここぞというところでキマらない』
『説教は今はいいじゃないですか……』
二人に迫られたゴブリンが、魔法を発動させて、火球を放った。
ゴブリンが魔法を使ったことに観客がどよめく。
が、それ以上に――
「リヴィ!」
「はい!」
二人での、正に、阿吽の呼吸。
リヴィちゃんがワイヤーを前方に展開して、瞬く間に十重二十重と織り込み、一枚の鉄板のようにすると、火球を防いだ。
すぐにそれも絡ませずに解き、リヴィちゃんのすぐ後方で弓の準備をしていたシーリーズさんが、入れ替わるように前に出る。すでに弓には矢を番えてあり、もう照準を定めていた。
一息の間。そして――
ヒュッと音がして、ローブのゴブリンの頭に矢が突き刺さった。
この一連の攻防が、なんと、五秒もかかっていない。
私がこうして、よそ見をして一部始終を見ていられるくらいの早業だった! え、そもそもよそ見をするな? それはゴメン! でもね――
敵がね、粗方潰れちゃってるからさ……。
ちょっと戻って、シーリーズさんたちが赤帽子の弓取たちをバラバラ死体に変えている頃。それは、空からやってきた――
シャルちゃんである。
シャルちゃんは、私がドミノ倒しにしたホブゴブリンの塊の上空に停止飛行。
「集めてくれてありがとうね、ディーちゃん!」
そう言って短い呪文を詠唱。何かの魔法を発動すると、ホブゴブリンたちはギュギュッと圧縮されて、文字通りの一塊の肉塊に成り果てたのでした。
何この子……頼もしい! 好き!
――てな具合いです。
『ああっと!? あっちもこっちもすごいことになっています! ホブゴブリンが、およそ十体くらいでしょうか? まとめて潰して固められて、血のソースの上に乗る、特大ミートボールのようになっています! そして、キール兄妹が今、残党のホブゴブリンも狩り尽くし、残るは赤帽子のみ! ここまで、どうですか、メアリー女史?』
『もう少し手こずると思っていたんだけどね。特に魔法を使うゴブリン。私たちはゴブリンシャーマンと呼んでるんだけど、野生ではなかなか目撃例が少ないから、意表を突けるはずだったんだけど……。仕留めたときのあの動きといい、ディティス選手の最初の指示といい……知ってるねぇ、この子たち。いやぁ経験豊富でいらっしゃる! 素直に拍手を送るよ!』
観客たちもメアリーさんに倣って、私たちに拍手を送る。戦いの最中なのに、少し面映ゆくなる。
見られてるとなんかちょっとやりづらいなと、改めて思った私でした。
さて、そんなことより、残りの赤帽子――というか赤髪。それが十匹。
しかし、どいつもこいつもおんなじ髪型で気持ち悪いんだよ、魔物のクセに!
リーダーと思しき個体は、まだクガルーアさんたちと交戦中。シウスさんとユニエラちゃんとで三人がかりでやってるのに、まだもってる。意外と強い。
私が二匹の頭をパーンって粉砕できたのは運が良かっただけなのかも?
シャルちゃんのエントリー&デストロイで、私に槍を向けてた二匹も、そっちに気をやっていた。だからシーリーズさんたちを見てられたんですねぇ〜。
じゃあ、そろそろ――
――挟み撃ちだよ!
私が駆けるのと、シャルちゃんが向かってくるのはほぼ同時だった。私は右の方へ、シャルちゃんは私と反対の方へ。
赤帽子たちは、驚いて前後を交互に見る。
空と地上、前と後ろ。どっちにどう対処するか、何を優先するか、短時間での様々な選択を迫られて、焦っているのが分かる。
そして、ひとまず、真正面から向かってくる私たちをそれぞれ相手取ろうと決断して、槍を構えたのが見えた。
私たちは、赤帽子たちの周りを大きく周る。槍を警戒しているかのように、睨み合いを演出する。そんな私たちを警戒しながら、動きに注視する赤帽子たち。そうだよ、ちゃんと見ててよ……。
そして、私たちと赤帽子、全員が一直線に並んだその瞬間、私たちは仕掛けた。
赤帽子から突き入れられる槍をすんでで躱して、相対する個体とすれ違う。
(何故?)
赤帽子の顔が、そんな困惑の色を映していた。
私たちはほくそ笑む。
「「狙いは――こっちだよ!!」」
私の盾と、シャルちゃんが魔法で出したであろう光の刃。それらが赤帽子たちのそれぞれの背後から襲いかかった!
悲鳴を上げる間もなく、片や、頭部粉砕。片や首と胴が泣き別れ。決着は一瞬だった。
隣にふわりと降り立ったシャルちゃんと、私はハイタッチをした。
「シャルちゃん! やっぱり私たち――」
「「息ぴったり!」」
「だね! ディーちゃん!」
と、ここで――
『決着ぅう! お見事! 折り返しの一戦目、六回戦目が、ここに終了です!! いやぁ、かなり見どころがあったのではないですか? メアリー女史――』
六戦目の簡単な総評をメアリーさんがしてる中、みんなの状況を見る。
まず、クガルーアさんチームには、クロウが混じっている。最終的にクロウが闇討ち的な攻撃で仕留めたのかも? かなり強そうだったもんね、リーダー。
ロア君とアイちゃん、双子チーム。闘技場内を走り回ってホブゴブリンを半数以上二人で狩っていた。二人の前には一匹の赤帽子の死体。あれからさらに二人で倒したらしい。赤帽子の死体は、縦に真っ二つ。傷口は焼き固められていた。止めは、アイちゃんだったのだと一目で分かった。
アレイスターさんは……クロウが抜けたから、最終的に一人だったみたいだけど……え!?
アレイスターさんの周りには、赤帽子の死体が、なんと、三つあった。まさか……これを、一人で!?
――いや。よく見ると、三匹のうち、二匹には矢が刺さっていた。シーリーズさんとリヴィちゃんが援護してくれていたみたい。それでも一匹は、丸焦げの炭になっていたから、自分で倒したようだ。
そして、シェリーちゃんはというと……うわっ!?
シェリーちゃんの周りにも、三匹分の赤帽子の死体が転がっていた。
しかもこっちは正真正銘、刃物傷だけ。シェリーちゃんが両の手に逆手で持つ、短剣によるものだろう。
やっぱり強いんだなぁ、シェリーちゃん。
それになんていうか、佇まいが綺麗すぎる。そういう彫刻みたいだ。
「綺麗だね……」
隣で一緒にシェリーちゃんを見ていたシャルちゃんが呟いた。
「うん。芸術品を見てるみたい」
「そうだね。……改めて考えると、あの人がディーちゃんに惚れてるの、どういうことなの?」
「それは私にもワケ分かんないよ……」
「まぁ、ディーちゃんを選ぶあたり、センスの塊だけど」
「あはは……」
シャルちゃんの私に対する評価、相変わらず高すぎる……。まぁ、私のシャルちゃんへの評価も、頭一つ二つ抜けてるんだけどね!
なんて惚気たことを考えていると、ふっと、突然体が重くなった。
あ、強化魔法の効果切れか。えっと、次にかけられるようになるまで十分だっけ?
どこで強化魔法を使って、無しの状態でどれくらい凌げるかっていう、判断力や体力、ペース配分。あとはなんと言っても、冒険者個々人の地力が試されるわけだね、このチャレンジは。
と、折り返し地点を過ぎて初めて、私たちはこのチャレンジの趣旨を理解したのであった……。
それにしても、もとに戻っただけのはずなのに、いやに体が重く感じる。
前後のギャップが強すぎる……。
「皆さん、インターバルはありません。急ぎ、疲れを取ります! お集まりくださいな!」
その呼びかけに応じて、重くなったと錯覚している体を運ぶ。
到着すると、既に詠唱を終えられていた魔法がかけられた。
これで、また疲れは取れた。
取れたには取れたけれど……根本的な体の重みというものの感じ方が変わらない。
どうしよう。これに早く慣れないと、まずい気がする……。
本来の感覚をベースに、強化されてる状態を異常と認識できないと、強化されている感覚が正常値という誤認に引っ張られる……。
強化を受けたときは、単純にすごいと思ってたけど、これは考えものだよ……。
みんなを見回すと、みんなも、ちょっとまずいなという、苦い表情をしている。
そして、そんな認識の錯誤が起こっている中、次の敵の投入のために扉が開かれた。
こんな状態で七戦目とか……大丈夫なのかな……。
そして、人間組の大きな不安が拭えないまま、次の戦いが始まるのです……。
明けましておめでとうございます!
本年もよろしくお願いいたします!
今年も、完結に向けて地道に書いていくことを誓います。
今回についてですが、集団戦闘はあまり得意ではない(戦闘シーン自体得意と言えるかも微妙)ので、毎度、ちゃんと書けてるか不安になりますね。
でも好きなんですよ、戦闘シーン書くの。頭の中の映像を文章化できたと思えたときは気持ち良いんです。
ただし、ご覧のように、文章が長くなりがちですね。
さてさて、年明け記念ですよ皆さん。
ブクマとか評価とか感想とか頂けますと泣いて喜びますよ、私!
もちろん、いただくリアクションも毎回嬉しいですけども!




