魔族の国編 ⅩⅧ
私たちは、預けていた装備を受け取り、シェリーちゃんの提案した場所へと向かった。
その際、バスの乗り方を他のみんなに教えたりもして、それにロア君が、苦虫を噛み潰すような顔をしていて笑った。
「まさか、お前にモノを教わる日が来るとはな……」
「ハハハ! 殴られたいのかな、ロア君?」
「わ、私が、や、やっておくね!」
「くっ、藪蛇……。――グッフ!」
相変わらず、余計な一言が致命傷なのよ、ロア君や。げに、悲しき性の星のもとに生まれてしまった男よ……。
と、そんないつものやりとりを交えつつ、バスで移動した。
下りた停留所は、来るとき、シェリーちゃんの姉妹たちや、お母さんのメアリーさんが下りた停留所だった。
シェリーちゃんの先導で道を行く。
道の両脇には、屋台や露天がずらりと並んでいて、店主たちが、威勢のよい声で呼び込み合戦を繰り広げている。
食べ物、飲み物、ぬいぐるみ、運気が上がると謳う宝石などなど、真っ当なものから怪しいものまで揃った区画を抜けると、この街の中でも、一際大きいであろう建造物が目に入った。
「うわぁ~。あれが? シェリーちゃん」
「そうです。我が虫人族自治区、ミシルルベニアの外貨獲得のための主要観光事業。それがこの闘技場です!」
酪農業は自分たちが食べていける分程度しか生産しておらず、輸出できる産業と呼べるほど高尚なものがなかった自治区は、当初は、自分たちの美しさを活かした娼館や、強さを活かした傭兵、冒険者としての稼ぎが主だったそうだけど、それだけじゃダメじゃね? と考えた、時の偉い人が、美しさと強さの両方を活かした、平和的な事業をしようと提案して始まったのが、この闘技場興行らしい。
まぁ、主な収益は賭け事らしいのだけど。
平和的といえばまぁ、平和的なのかもしれない……。たぶん?
コンクリートなる建材で建てられた、これまでの建物とは、文明のレベルが落ちているように見えるけれど、そういう塗装をして、土壁やレンガ造りのように見せているらしい。雰囲気作りというやつだろう。
闘技場からは、建物に入る前から、中の喧騒が外まで聞こえてくる。昼間から盛り上がってるなぁ……。よほど人気らしい。
でだ。なんで私たちがこんなところに来たのかというと、だけど……。
別に、賭け事で一発逆転しようというわけではない。
私たちは、健全に、真っ当に、興行に一役買う形で、目的を達成しようとしているのです!
中に入り、外見とは違う内装の綺麗さに目を見張っていると、すれ違う虫人族の人たちが、先頭を歩くシェリーちゃんに、一言ずつ、何かしら声をかけているのが視界に入った。
それは、挨拶であったり、おべっかであったり、褒め言葉だったり。シェリーちゃんはそれらに律儀にも、ちゃんと返事をしていた。
部族長の娘というのも大変だ。
「みんなの顔と名前を覚えてるの?」
私が尋ねると、シェリーちゃんは、はにかんで頬をかいた。
「いえ。私もさすがにそこまで記憶力は良くないです。ここのスタッフの顔と名前くらいは覚えていますが、それ以外は……。ですので、他の方はざっくり話を合わせた感じですわね」
よかった。なんだかんだ言っても、シェリーちゃんも普通の人だった。
「ちなみになんだけど、ここのスタッフって何人くらいいるの?」
「そうですねぇ……。レギュラー闘技者を合わせて……現在は、二千五百七十八人ですわね」
「……ふ、ふーん……」
訂正する。やっぱり普通じゃなかった!
シェリーちゃんが受け付けに話をすると、特に調べられることもなく、すんなりと奥の控室に通された。――って、よく見たら、受け付けの人は、シェリーちゃんの長妹のヘネシーさんだった!? あー、ここで働いてるんだね、妹さんたち。
私が気付いたことに気付いたヘネシーさんは、すれ違いざまに私に向かってピースをした。意外と茶目っ気もある人らしいけど、相も変わらぬ鉄面皮だったので、どうリアクションすればいいか分からなかった……。ごめんなさい。
控室まで私たちを案内したシェリーちゃんは、「一度、お色直しをしてきます」と言って出て行った。戦う準備をしてくるということだろう。これから戦うのに、一人だけ私服ってのもおかしいしね。
今の内にと、自治区でメンテナンスしてもらった装備を確認する。
「心無しか、盾が軽くなった気がする」
「いや、気のせいだろ」
私の独り言にロア君が突っ込むと、全員が頷いた。なんだよぅ……。
いやでも、重量は兎も角、引き金とか、ちょっと握りが軽くなった気がするんだよね。スムーズに動くっていうか。(※弾倉は取り外してから動作確認をしています)
握り変えというか、レールの滑りが良くなった割に、思ったところでぴしっと止まるし、取り回しは間違いなく軽くなったよ。
弾倉の取り換えも、引っかからなくなったし、それでモタモタしなくなった。
うん。すごく腕がいいなぁ、ここの鍛冶屋さん。やっぱり、この重量をいとも簡単に持てるってところが大きかったのかもしれないね。
一通りの装備チェックを終え、みんなでウォーミングアップをしていると、戦装束に着替えたシェリーちゃんが戻ってきた。
白を基調とした、薄桃色にグラデーション塗装がされた鎧。その先端部は朱が入っていて、アクセントが効いている。
腰から下は、ドレスのようなスカート状になっていて、色味も相まって、全体的に華やかな印象を受ける佇まいだった。
その姿に、全員が見惚れて、口々に綺麗だと溢してしまう程度には衝撃的だった。
鎧って、こんなにファッショナブルなデザインにしてもいいんだという意外性もあるけど、着てる人が更に綺麗に見えるというのが、特に驚きのポイントだった。
「機能性、性能はもちろん大事なことですが、闘技場は観客に見せる場所であり、観客を魅せる場所です。ですので、そのようなニーズに応えて、鎧の意匠も、このような華やかさを出すような発展を遂げたのです」
話しながら、シェリーちゃんがクルリとその場で回ると、花が咲いたように、スカートが広がって、一層美しく目に映えた。
おおーと、感嘆の声が上がって、自然と拍手までしてしまった。
「そしてこれが、こういう物を作れますよ、買えますよと、また別の商機にも繋がっているわけです」
「これは……売れるでしょうね」
うっとりとユニエラちゃんがつぶやく。
「ええ、とても」
にこりとシェリーちゃんが返した。
「私も、帰りに買いますわ!!」
さすがユニエラちゃん、判断が早い!
「というか、今買いましょう! シャルティ様の装備がございませんでしたし!」
「私!?」
「そう言えばそうだ! シャルちゃん、装備無いじゃん!」
「まあ! シャルティ先輩のためであれば、お金などいただけません! ささ、どうぞこちらへ、シャルティ先輩! お着替えいたしましょう! 最高の鎧を贈らせていただきますわ!」
「え、いや、私は別に、あの……えええええ!? ディーちゃん、ユニエラさん!?」
シェリーちゃんに連れて行かれるシャルちゃんを、私とユニエラちゃんは、腕組みをして、頷きながら見送った。
ゴメンよシャルちゃん。あの可愛いドレスみたいな鎧を着てるシャルちゃんが見たいんだ、私たち。
あと、やっぱりタダで貰うわけにはいかないから、お金はちゃんと後で払います。




