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シア薬剤店  作者: レレナ
第2章
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閑話 知らない所で話は進む

いつもありがとうございます。


1/26 前半にアネッテの衣装や髪形などの描写を入れました。

   本編への改編はありません。

ノック後、返事があるまで待機。

部屋の中からの誰何後、名乗り、しばらくしてから入室の許可を得たエーヴェルトはドアを開けながら部屋の主に尋ねた。


「アネッテ、調子はどうだ?」

エーヴェルトが声をかけたのは部屋の主である可愛らしい少女。


部屋の中には白っぽい金髪を肩で切り揃えた少女。

髪はよく梳かされており、着ている物も豪華絢爛とまではいかないが、青や、赤を所々にアクセントとして白を基調としたドレスには、彼女の好きなユリの花の刺繍が縫い込まれ、優秀な職人が仕立て上げたであろうことが一目でわかる。

良い所のお嬢様という事がよくわかる。


エーヴェルトは部屋の主、アネッテの兄である。

兄が、妹の部屋に入るのには、いささか仰々しい気もしないではないが、それを妹が望んでいるのでは仕方がない。


この妹は最近、ませてきている。


エーヴェルトはそう思いながら、いや、と考え直す。


お姉さんぶってきているーーと言ったところかな?


やれ「ノックをしろ」やれ「返事があるまで部屋に入るな」

言い出したらキリがない。

色々と細々とした事を注文してくるようになった。

この間などは、今までの癖で、ノックもせずに部屋に入ったら着替え中だったようで、顔を真っ赤にした妹に人形を投げつけられた。


10も離れた、ましてや血の繋がった妹だ。

着替えを見たところでなんとも思わない。

仮に妹が妙齢となってその時に着替えを見たとしても、なんとも思わないだろう。


必死にお姉さんぶろうとしている事が逆に可愛らしく、思わず頬が緩む。


大方、同学年の女の子が大人びてるのを見て敵対心を出して自分も…と言ったところだろう。


部屋の内装も、女の子女の子した幼い部屋模様から大人のレディとして替えた…つもりなのだろう。

ベット脇にあるチェストの上のランプが、以前は可愛らしい花を意匠化した物から、落ち着いたデザインの物に変わっているーーが、元々が女の子女の子した幼い部屋模様の中だ。ランプだけ替えてもあまり意味は無い。

そう言えば、着ていたドレスも今までのお気に入りだったドレスではなく、見ようによっては、まあ……お姉さんに見えなくもない。


まあ、大人ぶろうと無理や無茶をしようとしているわけじゃない。

無理をしているようなら無理やりにでもやめさせる。

可愛らしいものだ。


きちんとノックをして入室の許可を待ってからの入室だ。

部屋の主であるアネッテは以前の様に着替え中などではなく、ソファに腰掛けながらすまし顔でエーヴェルトを迎えている。

傍らには侍女も控えており、エーヴェルトに目礼をしてきた。


「すごいですね、お兄様。このお薬」


アネッテはエーヴェルトを見ると花の様な笑みを浮かべながら答えた。


エーヴェルトは先立って、この妹アネッテに薬を渡していた。

アネッテに効くかもしれないーーと。

アネッテは別に病弱という事は無い。

ほとんど健康そのもので、日常生活も何ら問題は無く、友達とも元気に良く遊ぶ。

むしろ元気すぎると言ってもいい。

ただ、いわゆる末端冷え性と言うモノだった。

とは言え、その冷え性も重度ではなく、冬場が特に酷く、しもやけによくなる。

夏場も、長時間水遊びをしていると唇が青紫になり、手足がかかじみやすいが、長時間水遊び等をしなければ問題は無い。

問題は無いーー問題は無いのだが、いつもしもやけや、夏場でも水遊びの後に寒そうにしている姿を見るのはエーヴェルトには辛かった。


「そんなに良かったか、その薬は?」


「はい! いつもより長めに水遊びをしましたけど、全然手足がかかじみません」


「ほう?」


それは大したものだ。

妹の説明にエーヴェルトは耳を傾ける。


世の中に薬、魔法薬は数多くあるが、妹の冷え性にここまで効能を示した薬は無かったからだ。


最近、知人女性の間で口コミで広がっている薬。

エーヴェルトがこの薬を知ったのはつい最近で、友人宅に行った際だ。

友人の母も妹アネッテと同じく冷え性に悩んでおり「良い薬が手に入ったのよ。アネッテちゃんにどうかしら?」と勧められたからだ。


今までアネッテには冬は暖かい格好をさせ、夏場はあまり長時間の水遊びを控えさせていた。

状況が酷い時には魔法薬でしもやけ等を治していた。


とは言え、魔法薬は高価だ。

冒険者は普通に使っているが、それは身体が資本、そしてわずかな怪我が命取りとなる斬った張ったの生活の彼らだからこそためらいも無く高価な魔法薬を使わざるを得ないのだろう。

物凄い稼げるが、その稼ぎのほとんどは武器防具の手入れや購入、高価な魔法薬の購入などで吹き飛ぶーーと、エーヴェルトは知人の熟練冒険者から聞いた事があった。


エーヴェルトは貴族、領地持ちで、ここクラメール領の領主であり庶民とは比べるべくも無い生活を送ってはいたが、高価な魔法薬を湯水のごとく使えるほど富んでいるわけではない。

領主としては1年生とも言える立場だ。

領主として中央への顔出しや、晩餐会のホスト、他領主との顔つなぎ。

野心は無くとも、お金はいくらでもかかる。


エーヴェルトは20歳を期に、病弱であった父から爵位を継承した。

元々、父の病弱は中央にも知れており、病弱を理由に爵位の継承は全く問題なく行われた。

前領主であった父からも、20歳を期に爵位継承する旨を伝えられていたので領主としての仕事も父から学び、問題無くこなせている。

何か問題があっても、父に相談出来る。

だがあくまで、父はオブザーバーであって、領主はエーヴェルトである。

最終決定はエーベルト自身にあり、その責任もエーヴェルトが負う事になる。


クラメール領は、南北に長く伸びる山脈ーー『フレスト王国の背骨』とも呼ばれる山脈に面している為、領自体が南北に面していて細長い。

山脈を背負った領地ゆえ、主な収入源は山から切り出した木材に、それを加工した木工品。

あとは、わずかに広がる平地を利用した麦などの穀物だが、いかんせん平地そのものが広くない。

荒れた平地ではないので収穫もそこそこ期待出来るのが救いと言える。

10年ほど前に山の中にダンジョンが発見されて、ダンジョン探索の街としてレーンが発展した為、活気に満ちていて、そこからの税収で安定はしているが、ダンジョンが探索しつくされればレーンの活気も下がり、税収も落ち込む。

先細りが目に見えているので、税収が安定している今のうちに新たな産業や財源を見付けなければいけない。


「それはすごいな。魔法薬でもないのに、アネッテの冷え性に効果的とは」


「はい! 教えてくださったティルダ奥様には感謝ですね。お礼をお伝えください、お兄様」


「ああ、いいよ。ティルダ夫人には俺から言っておこう」


ティルダと言うのはエーヴェルトの友人、ダニエルの母であり、今回の薬を教えてくれたリンド領主夫人である。

クラメール領の隣という事もあって両家は仲が良く、エーヴェルトとダニエルも同い年という事もあって非常に仲がいい。

結構な頻度で会っている。


しかしーーと、エーヴェルトは思う。

アネッタは子供ゆえに気付いていないようだが、この薬はかなりの優れものではないか?


ティルダ夫人が言うには、冷え性にしか効かない薬という事らしい。

上流階級、富裕層では一つの薬で複数の効能を持つ薬が高級とされる。

特に貴族社会では薬漬けーーと侮られるのでなおさら複数の薬を飲むより、一つの薬で済ませられるよう、複数の効能を持つ薬が求められ、高価であっても魔法薬が求められる。

それゆえに効能が一つしかない、さらには魔法薬でもないので、非常に安価という事で侮られているようだ。


しかしアネッタは病弱と言うわけではない。

むしろ元気いっぱいで、ただ冷え性と言うだけで毎回高価な魔法薬を使っていてはお金がいくらあっても足りない。

アネッタは冷え性が改善されれば問題無いので、今回の薬は僥倖ともいえる。

魔法薬の様に複数の効能を持ってはいないが冷え性だけには抜群の効果を持つーーこんな薬など聞いた事が無い。


アネッタと同じ様に冷え性だけ改善できれば問題無い人も大勢いるはず。

製造方法の独占……あとはこの薬を作った者を特定し、囲う事が出来れば新たな産業、財源になる。


エーヴェルトは妹の笑顔に頬を緩めつつ、新たな財源に期待を馳せた。

2章が終了となります。


次回より3章に入るわけですが、3章突入にあたり、準備期間の為しばらく更新がストップいたします。


出来るだけ早めに3章を開始いたします。



読んでくださった方。ブックマークしてくださっている方。評価してくださっている方。

ありがとうございます。


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