第29話 ょぅし゛ょ -特技-
ずいぶんと間が空いてしまいました…
まだ読んでくださる方はいらっしゃるのでしょうか…心配です。
わたくし事と年末年始が重なって…
セリちゃんを引き取ってから2週間くらい経った。
すっかりわたしに懐いてくれたセリちゃんは、朝から晩までわたしの後を付いてくる。
まるで鳥のヒナみたいで可愛い。リスの獣人だけど。
「遠くに行っちゃダメよ?」
「うん。わかった。シアおねえちゃん」
わたしの言葉に、元気に頷くと、セリちゃんは裏手の川辺に掛けて行く。
セリちゃんはわたしが引き取って5日目くらいからわたしの仕事を手伝うようになった。
手伝うと言っても、一緒に露店の店番をするくらいで特に難しい事は無い。
大きな商店でもないし、品数もあまり多くないわたしの薬屋。
正直、店番なんてわたし一人いれば十分なんだけど、一生懸命手伝っているつもりのセリちゃんに、そんな事言うのは可哀想だから言わない。
まあ、ひっきり無しにお客さんが来るわけじゃないから、河辺りのいつもの所に場所を決めて、川辺からそれなりの大きさの石を拾ってきてそれに『シア薬剤店』と書かれた木の板を立て掛ければ準備はもう終わり。
商品そのものの薬は並べないでデイバックに仕舞ったまま。
これにはちゃんと理由がある。
粉薬はともかく、液体タイプ、軟膏タイプは直射日光に当ててると悪くなるのが早いのでデイバックに仕舞っているのだ。
大きな商会とか店舗型の薬屋は建物の中だから問題は無いし、中央広場に露店を出せる人達だったら、自前で、テントや店舗用の日傘を持っていたりするし、そういった備品の貸出を商売にしている人達もいるけど、わたしみたいな川べり露店のコムスメじゃ無理な話。
あと、治安が悪いって言うのもある。
近年発見されたダンジョンで興った新興の街であり、冒険者が多く、まさに『冒険者の街』って所だから盗難が非常に多い。
もちろん、衛兵が目を光らせているけど、それ以上に犯罪が多く、盗難程度じゃ衛兵や役人は動いてくれない。
「川べりの露店程度じゃ、盗られた物も大した物じゃ無いだろ? そんな事で衛兵呼ぶな!」
これが実情。
この一言で川べり露店のわたし達は相手にされない。
そのくせ税金はきっちりと取り立てられる。
弱者には優しくない世界。そして街。
大きな街だから、名目上とは言えそれなりに法整備はしっかりとしていて、それが守られてはいるけど、一皮剥けばこんなもの。
小さな町や、村に行くと、さらにその土地特有の風習や何かでさらに厳しくなる。
税金以外で村長や、上役に小金を渡さなきゃいけないーーとか。
生活が厳しい所では、いわゆる賄賂も、金銭じゃなく食料品ーーとか。
お金は全く見向きもされず、物々交換のみでしか受け付けられないーーとか。
グリアおばあちゃんと、様々な町や村を廻って分かった事だった。
あと、わたしはまだ見たことないけど、若い娘は身体を求められるーーって所もあるみたい。
結局、自分の身、そして商品は盗まれたりしないよう、自分で注意するしかないのよね……
ちっちゃい子供だから飽きるのも早くて、店先に並んで座っていたのはほんの一時間程度で、川辺に遊びに行くセリちゃんを眺めながら、そう思った。
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可も無く、不可も無く。
セリちゃんを引き取ってからの、ここ2週間は、まさにそんな感じ。
露店の薬は、エミリさん達の口コミで固定客がいくらか増えたけど、大量に売れるわけじゃないので、以前とさほど変わりはない。
まあ、薬を調合するのはわたし一人だから、それほど多く作れないっていうのもあるし、そもそも売っている薬が最低ランクか、せいぜいそこから毛が生えた程度で1包、銅貨数枚。
セリちゃんとの生活も、セリちゃんはわたしに懐いてくれているし、食生活の出費も、まあ、何とかなっている。
一番心配だった食費も、わたしは元々そんなにいっぱい食べるわけじゃなかったし、セリちゃんも食べ盛りってわけじゃなかったみたいで、今のところは大丈夫。
食費がセリちゃんの分だけ増えたけど、固定客が出来たおかげで、収入がある程度安定出来たからトントン。
可も無く、不可も無く。
うん。これが大事。
お金がいっぱい稼げれば嬉しいけど、そうなれば目立つ。目立つのは良くない。『出る杭は打たれる』って、ことわざもあるしね。
コムスメと幼女。男の人一人がちょっと本気になればすぐに捻られちゃう。
現状維持。
今より悪くならなきゃオッケー。
そんなこんなで、今日は薬草採集。
場所はいつもの森の端っこ。
採集する薬草も、いつもの最低ランクの薬を作るいつもの薬草数種。
「いっぱい採れたよ」
セリちゃんが笑顔で、自分の採って来た薬草を得意げにわたしに見せてくる。
「セリちゃんは薬草を採るのが上手ね」
「えへへー」
くりくりと頭を撫でてあげると照れながら目を細めるセリちゃん。
まだ、ちっちゃいからてきぱきと薬草を採れる訳じゃないけど、2人でやる分だけはかどるのは確か。
「薬草探しは、おかあさんと一緒にしていたから、とくいだよ!」
おかあさんという言葉に、母親を思い出して泣き出すんじゃないかとも思ったけど、セリちゃんの中では、お母さんにはもう会えないっていうのは理解しているみたいで、泣く事はなかった。死というものがまだ良く判っていないのもあると思う。
とは言え、わざわざ母親の死を思い出させて、死というものをしっかり理解させる事はないと思う。
そういうのは自然とわかってくるものだと思うし、わたしだって死というものを誰かに教わった記憶はないわけで、いつの間にか分かっていたんだし。
その後はセリちゃんと一緒に薬草採集を続けた。
「あ、アビの実」
それなりの量の薬草を採集し終わって、さあ、帰りましょう。という時に、頭上を眺めてセリちゃんが言った。
続けて見上げるわたしの頭上には、たわわに実ったいっぱいのアビの実。
手を伸ばしてみる。
届かないので、その辺にいくらでも落ちている木の枝を手に取りーーこれも届かない。
「届かないわね」
アビの実は結構高い所に生っているのが普通。
せっかく目の前にアビの実が生っているけど届かないのはしょうがない。
「残念だけど、届かないから諦めましょう」
「シアおねえちゃん。わたし、採ってこれるよ」
諦めて帰ろうとしたところにセリちゃんが待ったをかける。
「ほんとう?」
「うん。木登りは得意だよ?」
意外……でもないのかな?
リスなんだから、よくよく考えてみれば当たり前なのかもしれない。
「お願いできる?」
「うん!」
笑顔で頷くと、セリちゃんはするすると木に登って行った。
おおう。
こんなちっちゃい子が大丈夫かな? とも思ったけど、セリちゃんは危なげなく、木を登って行く。
「落とすよー」
アビの実が生っている木の枝はしっかりと太く、セリちゃん自身もちっちゃいので問題は無かった。
ぷちぷちとちぎられたアビの実がぽとぽとと地面に落ちてくる。
「セリちゃん。もうこれくらいで充分よ」
「うん。わかったー」
持ち帰れないくらい採ってもしょうがない。
持ちきれる分が落ちてきたのでセリちゃんに声をかける。
下に落ちているアビの実を拾っているけど、セリちゃんが木の上から降りてこない。
「セリちゃん?」
「シアおねえちゃん。鳥さんの巣の中に薬草っぽいのがあるよ?」
「薬草?」
どうやらアビの実を採る時に鳥の巣も見付けていたみたい。
「どんな薬草かわかる?」
「ううん。わかんない。巣と一緒になってるしー」
巣と一緒?
どういう事かな?
「巣の中に薬草があるの?」
「うん」
「どんな薬草?」
「わかんない。けど、巣じゃないから多分薬草ー」
んん?
何の事か良くわからない。
セリちゃんはまだちっちゃいからか、語弊が少なく、うまく言えないみたい。
「その巣の中に、鳥さんはいる? タマゴとか」
「いないよ。タマゴも無いし、赤ちゃんもいないよ?」
タマゴもヒナもいないなら、巣を取っても大丈夫よね?
「セリちゃん、その巣、取って来てくれる?」
「うん。わかったー」
元気よく返事をして、セリちゃんは巣を鷲掴むと、豪快にむしり取る。
子供ながらの、躊躇の無い豪快さね…
巣を木の上から落とすと、セリちゃんは今度こそ降りて来る。
わたしは落ちて来た巣をのぞき込む。
セリちゃんの言う通り、巣の中にはタマゴもヒナも無く、空っぽの巣だけ。
木の枝とか枯れ草で編み込まれたよくある、おわん型の巣。
子育てが終わって破棄された巣みたいね。
ああ、そういう事。
わたしはセリちゃんが言っていた事がわかった。
木の枝やその辺の雑草と一緒に薬草が、巣の一部として編み込まれていた。
まあ、鳥にしてみたら木の枝も、雑草も、薬草も関係無いよね?
巣が出来ればいいわけだし。
すっかり乾燥して他の雑草や木の枝と同じく茶色になってるけど、確かに他の雑草や木の枝の中では、明らかに形状の違う薬草は違和感があるから気付く。
何の薬草かわからなくても、『たぶん薬草』とわかるわね、これは。
木登りが出来ないわたしじゃ、見付けられなかったから、これはセリちゃんお手柄ね。
わたしはそう言ってセリちゃんの頭をくりくりと撫でる。
えへへと照れるセリちゃんは可愛い。
すっかりと乾燥しているので、粉々に砕けないように慎重に巣をばらしていく。
取り出せた薬草は、全部で3個。
見える部分には1個だったけど、内側に2個隠れていたみたい。
あら、めずらしい。
出てきたのはテデと言う薬草。
生のまま食べるとすごい辛い。
身体が温まるから、乾燥させて粉薬に混ぜたり、軟膏に一緒に練り込むと、しもやけや冷え性に効果があるから、水仕事の多い女性に人気。
成分とかよくわかんないけど、たぶんカプサイシンとかが入ってるんだと思う。
グリアおばあちゃんと一緒に村や町を廻っていた時は冬場によく売れた。
最近はあまり採れないのか、グリアおばあちゃんも手持ちのが無くなったらもうテデを使う薬は作っていなかった。
最近はわたしも見てない。
まあ、川べり露店のわたしには、薬草を取り扱う商人はまともな物を売ってくれないから関係無い。
あっても売ってくれないんだと思う。
今は初夏だからしもやけ用の薬はいらないわね。
作るんなら冷え性用の薬かな。
3個あれば冷え性の薬が10個から12個くらい作れる。
お値段も、そこそこイイ感じで売れると思う。
わたしはセリちゃんを褒めながら家路に着いた。
毎日連載してる方ってすごいですよね…
数話ストックしててもすぐに切れる私とはチガウ…
更新遅めの作品ですが、のんびりと更新を待っていただけると幸いです。
誤字・脱字の報告。感想等お待ちしております。
1/21 サブタイトルの『ょぅじ゛ょ』→『ょぅし゛ょ』に変更いたしました。




