第23話 ょぅし゛ょ -迷子-
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さて、題名にもある通り、ょぅし゛ょが登場します。
エミリさん、フィオさんと仲良くなって、2人がわたしの依頼を良く受けてくれる様になったからと言っても、毎回毎回、冒険者協会に依頼するわけにはいかない。だって、冒険者協会に依頼すると手数料が発生するんだもの。
一番ランクの低い傷薬や、そこから1ランク2ランク上の薬程度なら、レーンの街からわたしが歩いて行ける距離にある数ヶ所の森や小川のほとり、原っぱとかに生えているのでわたし程度の薬屋には充分。
別に効果がすごい高級品を作るわけじゃないから、正直、冒険者協会に依頼しなくても自分で採集出来る。
でも、自分で採集ばっかりしていると、冒険者協会とか薬草商人とかに目を付けられるかもしれないから、わたしは薬草の入手を、自分で採集と、冒険者協会に依頼するのとで半々にしている。薬草商人には頼まない。以前、薬草商人に頼んだら「川べりでしか露店を出せないガキが注文してんじゃねぇよ」ってカンジで見下してきたのでそれ以来注文していない。お金はきちんと払うって言っているのに見下して馬鹿にした挙句、結局売ってくれなかったし。
と、言うわけで、今日は自分で薬草採集に来ている。
今日採集に来たのはアビの蔓草とその根っこ。このアビと言うのは他の木に巻き付く様に成長して木の枝から垂れ下がるようにして実を付ける。その身もまるでアケビみたいな感じの蔓草。
蔓を切ると、とろっとした液体を出す。このとろっとした液体と傷薬を混ぜると軟膏タイプの傷薬が出来上がる。もちろん、手順はもうちょっと色々と複雑で素人がただ混ぜただけじゃ軟膏は出来ないけど。じゃなきゃ薬屋の意味が無い。
ただ、このとろっとした液体を混ぜると傷薬の効能が落ちるので、そこで必要になるのがアビの根っこ。根っこには傷薬の効果を増強させる効果があるのでこれを粉末にして一緒に混ぜ合わせると、傷薬の効果を落とす事無く軟膏タイプが出来上がるというわけ。
アビの蔓草は森の中なら、まあ、どこにでも生えている。もちろん今わたしが向かっている、レーンの街から一番近い、いつもの森にも。
今日は森の中には行かない。森の内縁部に行くのはエミリさん達と一緒の時だけ。わたしだけじゃ魔物に会った時にどうしようもないし。
冒険者を否定するわけじゃ無いけど、険峻な山の頂とか、人里離れた森の奥とか、そんな所に行く人の気が知れない。貴重な薬草とか魔物とか、ダンジョンの財宝とか、まあ、分からなくは無いけど、よく怖くないよね?
そりゃあ貴重な薬草とか、あれば嬉しいけど、普通の薬草が普通に手に入って、ごはんが食べられれば充分。わたしはそれでいい。
道端に生えていたすすきみたいな背の高い草をぷちっと引っこ抜いて、ふるふると振りながら歩き続ける。
ふんふんと鼻歌を口ずさみながら歩く。
口ずさむ鼻歌は大好きだった男性アイドルユニットの曲。ドラマにも出始めていたっけ。もう2年以上も経つから新曲いっぱい出たんだろうなぁ…
そんな事を考えながら歩いていると、いつもの森に着いた。
さてーーと、森の外縁を見渡す。
別にわたしだけが薬草を採集しているわけじゃ無く、わたしみたいに自分で採集に来る薬屋だっているし、依頼を受けた冒険者や普通の農家の人だって何かのついでに小遣い稼ぎとして知っている薬草を採っているので、自然と森の外縁部は薬草が少なくなっている。当然人があまり入らない森の奥は薬草がいっぱい生えている。
だからと言って、わたしは森の奥に入らない。魔物が怖いし。少ないといっても全然無いわけじゃないから、森の外縁部を良く探すーーほら、あった。
大きな木に巻き付く様にしてアビの蔓草が生えている。
蔓の部分は意外と硬いのでわたしの力じゃ完全に切れないので、採集用の小さな刃物で軽く傷を付ける。そのまま、折り曲げる様にして切込を広げる。
一瞬の間の後に、蔓の切り込み口からとろっと液体が滲み出して来たので、持ってきた小さな革袋に、その液体を貯めていく。革袋1/3程でとろっとした液体は出なくなったので革袋の口をその辺の草で縛ってデイバックの脇に吊るす。
上から垂れ下がっているアビの実の部分はアケビみたいに食べられるんだけど……高いなぁ。何とか採れないかな? ごはんの代わりに出来る。
下に落ちていた木の枝があったので、これを使えば……届かない。ぴょんぴょん跳ねてみたけど届かない。
はぁ……貴重なごはん替わりだけど、届かないので諦めるしかない。木登りなんてわたしにはムリ。
あとは…アビの根っこ。
この根っこがねぇ……蔓の部分がとにかく広範囲に拡がってるんだよね。蔓の地面側を伝って行くと違う木に巻き付いて実を付けている事もしばしば。違うアビの蔓草を発見しやすいって言えばそうなんだけど…完全な根っこの部分を探すのがすごく大変なんだよね……地中1~2cmくらいしか深くないって言うのがせめてものなぐさめかな。
苦労して完全な根っこの部分を見付けて掘る。使っているのはわたしの手の平くらいの、小さくて可愛いスコップ。グリアおばあちゃんが死んで1人で薬屋を始めた頃に、処分品を扱う露店から買った物。おもちゃなのか、置物なのか知らないけど普通に売っているスコップよりも小さくて、使い道が無いみたいで銅貨1枚だった。
わたしには普通のスコップでも大きかったのでラッキーとも言えた。
この処分品を扱う露店って言うのは、お金に困った人が日用品とかを売ってお金に変えた物とかを扱う露店。貴族の日用品とかも流れてくる事があるらしいけど、見た事ない。というか、貴族の日用品ってそもそもどんなの? ムダに宝石とか散りばめられているとか、全部、金とか銀で出来ているとか、そんなの?
っと、根っこを掘り出し終わったので、土を払ってくるくる丸めてデイバックに。アビの蔓から出る液体も、1本、蔓を見つければ後は芋づる式に見付かるのですぐに革袋いっぱいに集まった。
上を見上げる。
たわわに実っ……てるわけじゃないけど、それなりの数のアビの実。
はぁ……もったいない。ごはんが。
ため息を付き、名残惜しくもアビの実を眺め帰ろうかとした時、何かが聞こえた。
がばっと顔を上げる。
森の中は、いろんな音であふれている。小鳥のさえずり。吹き抜ける風の音。木々の葉が立てる葉擦れの音。今まで何度もこの森に来ているので知らない音は無い。でも、今かすかに聞こえたのは今までに聞いた事が無い。
ーー魔物。
その可能性に心拍数が一気に跳ね上がる。
魔物には今までに一度も出会った事は無い。けど、普通の人達が魔物退治なんて聞かないし、全部冒険者とか街の兵士さん達の仕事。その辺の野良犬相手じゃないことぐらい知っている。わたしだって薬屋をしているから、顔とか腕とかに消えない傷を負っている冒険者はよく見るから、その怖さくらい想像できる。わたしなんかじゃ抵抗すら出来ない。
じっとりと冷たい汗が背中を伝う。
また聞こえた。
これは……声ーー泣き声…?
風に乗って聞こえて来るのは、動物や小鳥、虫とかじゃなく、普通の人の泣き声だった。
とりあえず魔物じゃないことにほっとして、泣き声のする方に、森の外周に沿って歩いて行く。
少し歩くと、はっきりと泣き声が聞こえた。この奥って事…ね。
どうしよう?
今まで、1人で森の奥には入った事は無い。薬草を採る時も、必ず森から出た先の草原が視界に入っている所までしか入った事は無い。
うーん…
「どうしたのー?」
とりあえず大声で呼びかけてみた。
わたしの声が聞こえたのか、泣き声がひときわ大きくなった。
とりあえず、いつもの様に草原が見えている所まで森に入ってみる。
ぎりぎり草原が見えている所まで森の奥に入るとーーいた。
子供。小さな子供がいた。
迷子かな? あと数メートルもこちら側に来れば森が終わるけど、その、あと数メートルがあの子供の位置からは見えなかったのかな?
「大丈夫ー?」
小さな子供は木の根元に丸まって泣いていた。
わたしの呼び掛けに気が付きわたしの方を見ると、びくっとなって泣き止んだ。まんまるい目でこちらを見ている。
「迷子? こっちにおいで」
わたしの呼び掛けに、小さな子供は、しばらくためらった後、ゆっくりとわたしの方にやって来た。
わたしが両腕を広げると、そのままわたしの胸の中にぽふりと入り込む。
あ、この子、女の子だ。
わたしの胸の中に入り込んで来たのは、多分5~6歳の小さな女の子。しかも……獣人だった。
次回の投稿は10/30(木)を予定しています。
アビの汁の採集に、元の世界から持ってきた水筒を使わせようかと思い、シアが持ってきたデイバックの中身を改変しようかとも思いましたが、そうすると斉藤君の水強奪シーンも改変する事になるのでやめました。
斎藤君の他人の迷惑を考えないキャラを際立たせたかったので…




