第21話 薬草採集 -ホタルクサ-
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さて、エミリさん、フィオさんと一緒に薬草採取に行く事になったわけだけど、2人は、そもそも目的の薬草がどこに生えているかも知らないらしく、わたしに聞いてきたので、わたしは街から一番近い森の中に生えていると言った。もちろんわたしは森に入った事は無いから実際に見たわけじゃなく、知識だけだという事も付け加えて。
エミリさんは「それでも、何も知らない私たちよりよっぽどマシだよ」みたいな感じの事を言ってフィオさんもそれに頷いていた。
冒険者協会から外に出ると、中央広場は朝モヤに包まれていた。うん。今日も良い天気になりそう。
じっとりと肌にまとわりつく様な濃密な朝モヤは今だけの時間とは言え、あんまり気持ちのいいモノじゃない。朝モヤが出てるって事はこの後、良い天気になるって事だから楽しみではあるけど。
ここレーンの街は中央広場を中央にして東西南北に4本のメインストリートが通っている。東へは武器屋が多く並ぶ『剣通り』。西へは防具系を扱う店が多い『盾通り』。南へは宿屋が多い『宿通り』。北へは雑貨屋など、冒険者が使う各種道具が並ぶ『雑貨屋通り』。
もちろん、例えば剣通りだからと言って武器屋しかないというわけじゃなく、宿屋とか雑貨屋だって少ないながらも点在している。けど、他の街に比べても圧倒的に同種の店が固まっている。区画整備がきっちりしているのがここレーンの街の特徴で、グリアおばあちゃんと一緒に色々な町を回っていたから気が付いた事だった。
これはここレーンの街が、十数年前に発見された大規模ダンジョンによって発展していった、新興の街。まさに冒険者の街だからということを最近知った。メインストリートの名前が安直なのも新興の街で利用する冒険者達に分かりやすくする為にあえてそういう風に名付けたみたい。
ダンジョンは街の北で、今回わたしたちが行くのは南にある森。わたしたちは宿通りを通り抜けて南門に向かった。
中央広場は露店の為に少なくない商人たちが見かけられたけど、宿通りにはほとんど人が見受けられない。冒険者は遅くまで酒場とかでお酒を飲んでる人たちが多いから朝も遅い。中央広場は元よりほかのメインストリートと比べても圧倒的に静かなモノだ。
わたしとエミリさん、フィオさん。三人の足跡が響く宿通りを抜ければすぐに南門。夜に閉鎖して朝に開門する城門は既に開いていた。
門番に挨拶して門を通り抜けると、目の前には小高い丘があってしばらくはなだらかな傾斜の起伏が続く。そこから小一時間ほどゆっくりと歩いた先に目的の森があって、その森を抜けたずっと先には険しい山々が見える。
今日、森に薬草採取に行くにあたってのわたしの服装は、頭には目深にかぶれる麻の帽子。上半身はは木綿の灰色シャツに茶の麻ベスト。下はお尻や膝部分とか傷みやすい所に革あてがされている麻のズボン。足元はブーツなんて立派なものじゃないけど、ちゃんと革で出来ている靴を履いている。背中にはデイバック。今は付けていないけど革の手袋も持ってきている。
普段は綿や麻の上下に薄汚れたローブでサンダル履きだけど、森の中にそんな格好で行くほど馬鹿じゃない。これは自分でも採集に行く時の格好だ。
わたしは必要な薬草を毎回自分で採集に行くわけじゃない。自分で採集に行くのと冒険者協会に依頼して採集してきてもらうのを半々に分けている。他には商人から購入というテもあるけど、レーンの街に来てからは商人から買った事は無い。懇意にしている商人もいないし、薬草を扱う商人は大きな商会や中央広場の露店商とかを相手にしていて、川べりに追いやられているわたし達の様な末端の薬売りには頼んでも来ない。この街に来たばかりの頃に一度、中央広場にいた商人に注文したけど、わたしの見た目の年齢と格好、そして中央広場に露店を出す事も出来ない事を知るとそれまでの態度とはうって変わって断ってきた。見下し感がハンパなかった。それからは商人には頼んでいない。
そんなわけで、わたしはこれから行く森には何度か1人で行った事がある。魔物がいる異世界と言っても、街の外は魔物で溢れているわけじゃないし、そもそも魔物は街道とかにはあまり出ない。ダンジョンや深い山奥、森の奥深くに生息している。グリアおばあちゃんと一緒に各地を回った時にも、魔物には会った事は無い。
何度か行っているので、どれくらいで森に到着するかは分かっている。森の中の何処に生えているか解らないし、昼前にはホタルクサの花はしぼんじゃうからゆっくりはできないけど、そこまで急がなきゃいけないわけじゃない。この時間からなら十分に間に合う。小一時間ほどゆっくりとした足取りで進み、いつもの森に到着した。
「シア。*****薬草は*******生えている**?」
森の外縁部に付き、エミリさんはわたしに声をかけてきた。薬草が具体的にどこに生えているかを聞いてくたのだろう。
「沼。湖。水。綺麗。太陽…当たる?」
きちんと伝わるか分からないけど、知っている言葉で伝えるとエミリさんとフィオさんは2、3、話し合い、わたしの手を取って歩き出した。どうやら場所に心当たりがあるみたい。
エミリさんとフィオさんは何度もこの森に来ているみたいで、その足取りに迷いは無く進む。
足元は下草とかが踏み固められていて、比較的歩きやすい。ただ、それでも、道というほど立派なモノじゃなく、せいぜいが獣道よりはマシ、といったところ。実際、木の根っことかがいたる所に盛り上がっていたり、下草が変なふうに踏み固められていて良く躓くわたしにエミリさんは笑っていた。ずっとエミリさんがわたしの手を握ったまま歩いているので実際には転ばなかったけど。
フィオさんは先頭に立ち、進んでいる。時折わたしたちを振り返りつつ、そんなわたしたちを見ながら微笑んでいた。
森に入って、獣道よりはマシな道を歩くこと2時間くらい。鬱蒼と茂る草木が開け、わたしたちの目の前には沼があった。周辺は結構開けていて、沼の周辺はかなり広範囲で湿地帯になっている。水草や苔がいっぱいの足元で、歩く度に半分ほど足が沈む。足跡がしっかりと残り、その
足跡には染み出した水が溜まっている。
空がよく見えるので心理的に怖いイメージはない。日中は良くお日様が当たるだろうし、夜は月の光に良く照らされると思う。ホタルクサが生える条件にはぴったりだ。
わたしは周辺を見渡す。
ホタルクサはあっさりと見付かった。
かなりの規模で群生していて、紫色の小さな花弁が風に揺られてゆらゆらと揺れていた。
「ホタルクサ。これ」
わたしはエミリさんに伝えると、その場にかがみホタルクサを摘み始めた。
その様子を見たエミリさんとフィオさんは同じくかがみ、ホタルクサを摘み始めた。
ホタルクサは花の部分に薬効があるので、花の部分だけあればいい。私は花の部分だけを摘んでいたけど、エミリさんとフィオさんは根元近くからブチブチとちぎっていた。葉っぱが付いている物や根っこごと引き抜いている物もあった。
大雑把に必要のない部分まで引きちぎる、その様子にわたしは苦笑した。
まあ、薬草の知識がないからわたしの同行を頼んだくらいだから、薬効があるのが花の部分だけなんて知らないのも当然かも知れない。何より、葉っぱや根っこまで持っていったら嵩張る。
「花。必要。葉っぱ。根っこ。いらない」
わたしはエミリさんとフィオさんに声をかけ、わたしの摘んだ状態を見せた。
通じたようで、既に摘んであったものから葉っぱや根っこを取っていく。
1時間ほどでデイバックいっぱいになったので終わりを伝え、採集は終了。帰路に着いた。
来た時と同じく、2時間ほどで特に問題もなく森を抜けた。相変わらず木の根っこや下草に足を取られて何度も躓いてエミリさんは笑っていたけど。
そこから1時間ほど歩き無事に街に付くとそのまま、冒険者協会に行き、依頼達成の報告をする。
エミリさん達は協会職員から、わたしが払った報酬銅貨10枚を受け取り、わたしは今日採集したホタルクサの花をそのまま持って帰る。
依頼ではホタルクサの花10個で銅貨10枚の約束だけど、わたしの手元にはデイバックいっぱいのホタルクサ。『契約違反だ』とか言って冒険者協会に目を付けられるのは嫌なので、きちんとデイバックを開けて依頼よりも多くあることを示したら、特に問題は無いみたいだった。
報酬を受け取るエミリさん達が特に文句も言っていないし、わたしも同行しているので本来、エミリさん達はむしろわたしに同行費を払わなくちゃいけなかったみたい。同行費を約束以上のホタルクサで相殺、そういう事みたい。ちなみに今回はエミリさん達からわたしに同行を頼んだので護衛費が発生しなかったみたいで、逆なら護衛費が発生するシステムみたい。
ゆっくりと、何度も何度もわたしにも分かりやすい言葉を選んで、エミリさんと協会職員に説明されて、ようやくわたしは理解出来た。
エミリさん達からすればわたしにゴネられて冒険者としての経歴に傷が付くのも嫌だし、冒険者協会としても、良く分かっていない子供を騙したとかになると風聞が悪いという事だと思う。その辺はしっかりしているみたい。
あらためて、この異世界の冒険者協会は市役所や区役所みたいだと思う。漫画やライトノベル、Web小説のような、『いかにも』な冒険者協会じゃないのは助かる。
エミリさん達とお別れして、わたしは冒険者協会を後にした。
次回の投稿は10/22(木)を予定しています。




