第16話 新人冒険者 -待チ人来ラズ-
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新人冒険者のパーティと一緒に森の中に薬草採取に行く事になった。
この新人冒険者のパーティは、一応リーダーはアレンさんみたいだけど、口下手っぽい彼の代わりにエリーさんがほとんどをまとめているみたいで、彼女がリーダーっぽく感じる。
さっきの受付のお姉さんと話していたのも、冒険者協会とも取り決めもほとんどエリーさんが決めていたからエリーさんがリーダーでもいいんじゃないかと思うけど、リーダーはアレンさんで間違いないみたい。受付のお姉さんとエリーさんの会話の中でもリーダーはアレンさんと言うのが聞き取れた…冒険者って、よくわかんない。
とりあえずその日は、どこに薬草が生えているのか、行先はどこにするのか、持って行く物はどうするか、など細々とした事を決めた。
驚いた事に、エリーさんたちは本当に薬草に関してはほとんど分からないみたいで、そもそも薬草の種類やどこに生えているのかも知らないみたいだった。詳しい種類の判断や効能はともかく、大雑把な場所だけなら実際に採ってくる冒険者の方が詳しそうなものだけど…
いつも冒険者協会に依頼すれば、冒険者が勝手に採ってきていたので、冒険者はみんなそういう事は、それなりに知っているものかと思っていたけど違うみたい。それとも、エリーさんたちが新人って事で知らないのかな?
ともかく、わたしは行く場所はレーンの街から一番近い、わたしがいつも行く森を指定して、ホタルクサは森の奥にある湖の周辺に自生していることを伝える。と、言っても森の湖の周辺に自生しているという事を聞いただけで、わたしは実際に森の奥に入った事は無いから分からないので、それも伝える。
なんだか偉そうにエリーさん達に行き先を指示しているみたいなカンジだけど、エリーさんたちは、薬草がどこに生えているかも知らないらしいのでしょうがない。
わたしの発言はそれだけ。あとは持って行く物とか装備とかは冒険者じゃないわたしには、さっぱりだ。色々と装備とかを話し合っているエリーさん達をぼーっと眺めていた。
冒険者協会にはお昼に行ったのに、コミュニケーションが中々うまく成立しないので結構な時間が経って、すっかり夕方になった。
夜に森に入るわけにはいかないので、薬草採取は明日、という事になってお開きとなった。
あ、そういえば…
席を立とうとしてふと思い出した事があった。
ホタルクサは花の蕾が、その名の通り夜にうすぼんやりと淡く、蛍みたいに発光する。完全に開花した花の部分に薬効があるわけだけど、朝早くに開花してお昼前にはしぼみ、また蕾状態になる。アサガオに似ている。蕾状態では薬効成分が無いので花が開花した状態で摘み取らなきゃいけない。採集には遅くとも昼前には自生地に到着してなきゃいけない。
その事を伝えると、夜に出発するのは危ないからって事で、出発は明日の朝早くに決まった。
早朝。
辺りはようやく明るくなり始めてきていて、太陽自体はまだ出ていない。朝もやも、そろそろ立ち込め始めようか、とそんな時間。
冒険者協会の門をわたしはくぐった。
早朝の朝もやが立ち込め始める頃に出発するーーそう昨日約束していたので、わたしは時間通りに冒険者協会に到着した。エリーさん達はーーまだ来ていない。
冒険者協会は基本的に24時間開いている。今回のわたし達みたいに早朝に出発する人達もいるし、逆に深夜や早朝に戻ってくる冒険者もいるからだ。とは言え、深夜も早朝もわいわい、がやがやと言った事は無く、日中に比べると人は少ない。わたし自身も今回の事が無きゃ早朝に冒険者協会には来なかった。
ロビー脇にある談話スペースに移動したわたしは、1人用のソファに腰掛け、ちらほらと人の出入りのあるロビーをぼんやりと眺める。
人の流れをぼんやりと眺めるのは結構好きだ。元の世界でもハンバーガーショップの2階から眼下の人の流れを見ているのは好きだったし、この異世界に来てから始めた薬屋の露天の傍ら人の流れを見ているのは、あまり繁盛していなかったからというのもあるが、暇つぶしにはもってこいだった。
がちゃがちゃと鎧を鳴らしながらロビーに入ってくる人、やたらと声の大きな人、大量の荷物を鑑定用の受付に差し出している人、話がまとまったのか数人のパーティでロビーから出ていく人ーーこの時間の冒険者協会は、昼間とはまた違った雰囲気がある。昼間の様なエネルギッシュな喧騒とは違い、ロビー内の人数が少ない分、雑多な喧騒に埋もれず1人1人の行動や言葉が際立っている。それは『やっと依頼が完了した』『無事に戻って来れた』『早く帰って寝たい』と言った安心感のモノだったり『依頼が失敗した』『怪我をした』と言った落胆だったり『依頼人がまだ来ない』『これから行く場所は…』と言った気が早ってそわそわしている感じなど様々だ。
わたしがいる談話スペースにも数組の人がいる。パーティを組んでいるらしい冒険者の集団はこれから向かう依頼の確認かな? わたしの様に一人で待っている人もいる。冒険者と言った服装では無いのでわたしみたいな依頼人だと思う。
談話スペースではコーヒーや紅茶を飲んでいる人も少なくない。冒険者協会内は基本的に飲食禁止だけど、談話スペース内に限ってお酒以外の飲み物はイイみたい。依頼とかの交渉が長引いた時の事を考えているみたい。それ専用のお店も備え付けられている。ただ、食べ物は完全に禁止でケーキやサンドウィッチと言った軽食もない。軽食の無い飲物オンリーのカフェと言ったカンジ。
わたしはここの雰囲気が好きだ。荒くれ者の多い冒険者も冒険者協会内では大人しいし、お酒を提供して荒れている事も無い。来る人達が厳つく、ゴツイ人達が多いだけで、雰囲気そのものは多少喧騒の多いカフェに近い。もしかしたら一般の依頼人にも敷居を低くする為に、そういう雰囲気を作っているのかもしれない。こういう雰囲気は、確かに、冒険者に若干の恐怖を持っている人達からすると、わたしを含めてありがたい。
他の人達は飲み物を買っていたけど、わたしは買わずにいた。
わたしだって飲み物でも飲んでゆっくりとしたいところだけど、そんなお金はない。どうしても飲まなきゃいけないわけじゃないし、こういった小さな事からこつこつと節約しないとお金なんてすぐに無くなっちゃう。
・・・・・・・・・・・・おっと。
かくんと、頭が落ちた。
朝も早いし、うとうとしていたみたい。ぶんぶんと頭を振って眠気を飛ばす。
しかしーーわたしが冒険者協会に来てからそれなりの時間が経ったと思う。エリーさん達はまだ来ない。朝もやもすっかり立ち込めているし、時間は早朝から朝に成り代わっている。
談話コーナーに設置されている窓からは中央広場の様子が良く見える。中央広場では商人が露天の準備をすっかり終え、お客さんを待つだけになっていた。空いたこの時間を利用して軽めの朝食を取る商人もちらほら。
冒険者協会内が、陽の光だけで十分になったのでロビー、そして談話コーナーの照明が落とされた。ロビー内に入ってくる冒険者の数も増え始めている。わたしがここに来た時には、ほとんど人のいなかった依頼の掲示板のコーナーにも冒険者の姿が増え始めている。
と、半分うとうとしていたわたしの前に人影が出来た。
「シア? ……*****?」
昨日エリーさん達と一緒に依頼の対応をしてくれた受付のお姉さんだ。どうやら出勤して来たところに、談話コーナーに一人で居るわたしに気が付いて話しかけてきたってところかな? 一般にも解放されているとは言ってもわたしみたいな小さな依頼人は珍しいから覚えていたんだと思う。
「こない。冒険者」
「ん…?」
わたしの言葉に一瞬怪訝そうな顔をする受付のお姉さん。
「こない**…昨日*冒険者パーティ**?」
わたしはこくりと頷く。
受付のお姉さんは受付内に行き、すぐさま戻ってくる。手には一枚の書類を持っていた。
「うーん…依頼*キャンセル*、***無い****」
どうやら依頼内容の変更があったか確認してくれたみたい。何も言っていないのにわざわざ確認してくれるなんて、ありがたい事だ。そういえば冒険者協会の人達は、総じてわたしに良くしてくれている。わたしにだけ便宜を図っているわけじゃないけど、こう言った、普通なら申請しなきゃ確認してくれないような事を申請しなくてもしてくれるのは地味に嬉しい。
「ん…大丈夫。待つ。もう少し」
「…そう? 無理******?」
そう言って受付のお姉さんは戻って言ったーーかと思ったらまた戻って来た。手には一つのカップ。
わたしの前にことりと置かれたカップからは、ゆらゆらと湯気が立ち込めていた。
「サービス*」
そう言ってわたしの頭をさわさわと撫でた後、受付のお姉さんは今度こそ戻って行った。
次回の投稿は10/2(木)を予定しています。




