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シア薬剤店  作者: レレナ
第1章
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第10話 シアの日常 -昼-

 お客さんが来ないので、ぼんやりと皮を眺めていたらグリアお婆ちゃんの事、そして、この街に流れ着いた事を思い出していた。


 グリアお婆ちゃんが死んだ後も薬屋を続けたけど、うまくいかなかった。


 仕入れ先の事で懇意にしていた商人とは疎遠になってしまったし、いくら安く仕入れられるからと言っても冒険者が来るのは不定期。値段設定も、安くすれば良いと思って安くしたけど、その分、手元に残る金額が少なくなって材料すら買うのに苦労する様になってしまった。少しだけ値段を上げれば…それでも元々売っていた値段よりもずっと安く、近隣の薬屋よりも安いのに、値上がりしたと言う事で売れなくなった。


 自分で薬草を採ろうと街外れで薬草を採集したら採りすぎという事で冒険者協会から怒られた。少しならともかく、冒険者協会を通さずに大量に採ったのが問題だったみたい。


 分からない事だらけ。知らない事だらけだった。


 グリアお婆ちゃんにいろいろ教えてもらっていたけど、それでもまだまだ知らなかった事ばっかりだった。


 結局、商売がうまくいかない状況の中、私の部屋が荒らされ、グリアお婆ちゃんの形見だった。石のすり鉢を壊された。何か、私に対するイヤガラセか恨みだったのだと思う。怖くなった私は部屋を引き払い一人、街を出た。


 街を出ても行く当ての無い私は、農家の馬車とかを利用しつつ、とにかく町から遠ざかった。


 蓄えが底を付いていたとは言え、それは薬屋としてやっていく資金が無くなっていたという事。最低限生活するお金は、何とかあった。…と言っても微々たるものだったから、ご飯とかを切り詰め、村や町の片隅で周りから隠れられる、誰も来ないような所を見つけ出しては野宿。各地を転々としながら、数ヶ月が過ぎた。


 この異世界の地理は全然わからないので、今、自分がどこにいるのかわからない。そういえば、グリアお婆ちゃんにも、薬の事は教えてもらっていたけど、その辺の事は教えてもらっていなかった。


 結局、私はグリアお婆ちゃんとの思い出の街から数ヶ月離れた街に腰を落ち着ける事にした。


 四方を山に囲まれた、広い盆地の中にある大きな街。山々に囲まれているけど、山の合間を縫うように四方に向かって整備された道があり、交通の要所なのが見て取れた。


 ここが今、私がいる街。


 前の街の様に組合から怒られないように、街に着いたその日に商業組合にはこの街で薬を売る事、冒険者組合には冒険者に薬草の採取を依頼する事もあるけど、自分でも採取する事…もちろんあまり大量には採取しない事も伝え、許可を求めた。


 この異世界での私の語学力は、単語をメインとした数少ないモノなので、キチンと伝わったか判らないけど、それは仕方ないとあきらめた。一応は伝えたので、何も言ってないよりはましだと思うしかない。





 太陽がかなり高くなった。


 朝もやもすっかり晴れ、中央広場の喧騒も最高潮になり、かなり離れたこの川べりにまでその喧騒が届く。あとは、この喧騒が夕方まで続く。川べりは不人気で人はそんなに来ないけど…


 もっと人がいる所に売り込みに行きたいけど、みんながみんな勝手な場所で商売を始めない様に商業組合で場所が決められているから、勝手に移動して回るわけにはいかない。


 結局、少しづつお金を貯めて、もっといい場所での商売権を協会から買い取るしかない。


 はぁ…と、ため息が漏れる。先は長い。今の稼ぎでは、日々のごはんに薬草の購入でいっぱいいっぱい。


 薬を作るのは面白いからいいけど、作っても売る機会がないのがもどかしい。


 お客さんが来ない。手持無沙汰に、落ちていた小石を川に投げた。ぽちょんと小さな音を立てた。小さな波紋が一瞬だけ拡がり、それは川の流れに消えた。


 そよ風が吹き抜け、川べりの草花が、さわさわと小さく揺れる。今日もいい天気だ。


(とりあえず、いつでも笑っておきなさい)


 グリアお婆ちゃんの言葉が思い出される。うん、いつも笑顔でがんばろう。


 太陽がてっぺんまで登り切り、お昼になった。


 異世界の人たちは、お昼ごはんを食べる人と食べない人がいる。飲食店でお昼時に行けば混雑しているし、宿屋兼食堂ではお昼ごはんも提供されている。裕福な人たちは朝昼夜とご飯を食べているみたい。貴族様なんかも豪勢な食事を食べているんだと思う。貴族様の食事はおろか、貴族様自体見た事無いけど。


 商人なんかはお昼を食べない人が多いみたい。ごはんの時間をその分売込みしているみたい。ただ、まったく食べないという事ではなく、手の空いた隙にクッキーやビスケットとか、干し肉とかをつまんでいるみたい。


 わたしは忙しくは無いけど、お昼はとらない。少しでもお金を節約しなきゃいけないから。とは言っても、おなかがすくのは辛いので黒パンのひとかけらを口に放り込んで終了。


 この黒パン。安くて大きいから節約にはもってこいだけど、元の世界のパンみたいに柔らかくない。固いし、ごわごわしていて噛みにくいし飲み込みづらい。あと、固い。


 お昼を黒パンひとかけらで済ませつつ、ぼんやりと道行く人を眺める。わたしの薬の露店は片付けていないので、誰か来てもすぐに売れる。こちらを眺める人はいても買ってくれる人は少ない。


 お昼も過ぎ、夕方まではまだまだという時間。体感時間では午後3時くらい。私は店を閉めた。


 結局今日のお客さんは、無茶な値下げをしてきた3人組の冒険者と、柔和な魔法使いのお姉さん。3人組の冒険者は無茶な値下げをするだけして結局買っていかなかったので、今日は魔法使いのお姉さんが買ってくれた赤い傷薬3個、銅貨14枚だけ。


 普段は夕方までお店を出しているけど、材料の薬草のストックが無くなってきたので薬草確保の為に早めにお店を占めたのだ。


 今日はあまりお金も無いので、自分で薬草を採りに行こう。

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