服を乾かす
⚪︎矢木剛斗視点
「本当は頭からシャンプーしてすっきり洗いたいけど、この状況じゃさすがにしゃーないか……」
鈴々莉さんが濡れた長い髪をタオルでゴシゴシと拭きながら、輪入道の炎をドライヤーがわりにして髪を乾かしていく。彼女の鮮やかな金髪が、炎の赤々とした光に照らされてキラキラと綺麗に輝いていた。
その隣で十一さんは、着ていた上着を脱いで上半身の諸肌を露わにすると、まるで雑巾のように力任せに絞り上げている。剥き出しになった上半身は引き締まった筋肉質で実に逞しいが、それと同時に、いくつもの生々しい古い傷跡が無数に刻まれているのが見て取れた。
「ちょっと十一、急に男の裸なんて見せないでよ。なんかむさ苦しいからやめてよー」
「嫌なら最初から見なければいいだろうが。第一、お前が俺の裸なんて見たところで、何の面白みもありはしないだろ」
十一さんは絞った上着を地面に綺麗に広げて乾かすと、輪入道の炎から火をくすねて、愛用のキセルをゆったりとふかしはじめる。鈴々莉さんは「もーっ」と不満そうにほっぺたを膨らませた。
「しかし……さっきの朧車だって相当なしぶとい強敵だったが、これから天狗たちの本拠地に近づくにつれて、もっとエグいのが出てくるだろうな。気を引き締めないと足元をすくわれそうだ」
キセルの煙をくゆらせながら、十一さんは真剣な表情で仲間に注意を促す。
「とりあえず俺は、先輩たちの足手まといにならないように全力で頑張りますよ!」
俺も十一さんにならって、自分のびしょ濡れの上着を脱ぎ、同じようにギューッと絞り出す。十一さんほどではないけれど、俺も日頃のトレーニングのおかげで自分の肉体と筋肉にはそこそこ自信がある。
「もー、矢木っちまで一緒になって脱いじゃってさぁ……」
鈴々莉さんが呆れたように、やれやれといった声を漏らした。
「矢木くんも、そんなに気負いすぎることないわよ。戦闘力やフィジカルの数値だけで言うなら、ぶっちゃけ私なんかよりもずっと上なんだからさ」
映子さんが俺を励ますように声をかける。そして、雨風にさらされて、すっかり重くなった上着を乾かそうと、十一さんを真似てスルスルと脱ぎ始めた。
――えっ!? 脱いだ!?
「ちょっ、映子さん、それはあかん! 男どもは今すぐ全員あっち向けーっ!」
琴さんがパッと慌てて駆け寄り、映子さんの上半身を自分の体で必死に隠しにかかる。俺たち男性陣は、あまりの急展開に全員反射的に「回れ右」をして慌てて視線をそらした。
「大丈夫よ琴ちゃん、私の裸を見たってみんな別に楽しくも面白くもないでしょ? 風邪ひいちゃうから、さっさと乾かさないと」
「そういう問題やないって!! ここにはまだ思春期真っ只中のピュアな矢木くんとかもおるんやで!!」
「そうですよ映子さん! いくらなんでも無防備すぎます、早く服を着てくださいっ!」
鳥居もすかさず怒ったように加勢して説得し、映子さんは渋々、濡れた服を慌てて着直すのだった。
そんな映子さんのひと悶着がようやく落ち着いた直後、なぜか十一さんがその場で神妙な顔をしてピシッと正座していた。
「ねえ十一? 何か最後に言い残す事とかある?」
鈴々莉さんが筆を構え、空中にビュンと太い「丸太」の絵を描き出していく。
「……ない。これに関しては、俺が全面的に悪かった。目の前に『日影』がいることをすっかり忘れて脱いでしまうとは!!不覚!!」
観念したように、十一さんは自ら腹部を突き出すようにしてバッと無防備に晒す。
「潔くてよろしいっ!」
鈴々莉さんが一閃、描いたばかりの重そうな丸太を十一さんの腹部にそのまま直撃させ、彼はその場で盛大に悶絶してひっくり返るのだった。
――ただ一人、映子さんだけは、目の前で何が行われているのか全く事情が飲み込めず、きょとんと目を丸くしてその光景を眺めているばかりだった。




