コーヒーブレイク
⚪︎司涼視点
みんながそれぞれの場所で束の間の一息をついて休憩している中、私は車に積んであった自分のバックを開けると、その中から慎重に小さな木片を取り出した。そして小声で静かに呪文を唱えると、木片はみるみるうちに激しく変形し、形を変えて――あの「輪入道」の姿をふたたび出現させる。
実はこれ、前回の戦いの際に、跡形もなく消え去る前の輪入道の破片をこっそり回収しておいたものなのだ。ネクロマンサーの一族に伝わる秘術を使えば、こうして死骸や遺物のほんの一部が手元に残っていさえすれば、再び従僕として呼び出すことができるのである。
次に私は車の荷物から使い慣れたやかんを取り出すと、ペットボトルのミネラルウォーターをたっぷりと注ぎ込み、その輪入道のすぐ近くへとセットした。
「あちち……っと。うーん、式神の魔力で火力をちょうどいい具合に調節するのは、やっぱり加減が難しいですね」
輪入道を上手くコントロールしてその身の炎の熱量を調整し、あっという間にやかんの水をグツグツとお湯へと沸かしていく。今は一応真夏とはいえ、ここは冷たい雨が激しく降り注ぐ山の中。まずは温かい飲み物でしっかりと身体を芯から温めておかないと、みんな本当に風邪をひいてしまいますからね。
「お疲れ様です! みなさん、お茶とコーヒーのどちらがいいですか? どちらもインスタントですけれど、よければどうぞ」
みんなに向けて明るく声をかけながら、私は紙コップを並べ、パックの緑茶とインスタントコーヒーの瓶をテキパキと準備していく。
「やったぁ、ありがとう涼さん! うちはあったかいコーヒーにするっ!」
鈴々莉さんが元気よく一番乗りで希望を口にし、それに続くように他のメンバーたちも口々に自分の好みを伝えていく。私は次々とお湯を注ぎ、一人ひとりに手渡していった。最後に自分用のコーヒーもカップに注ぎ、そっと一口すする。冷え切った身体に、コーヒーの心地よい温かさが染みわたるようで心の底からありがたい。
「それから、この輪入道の火はしばらくそのまま出しておくので、雨風で濡れてしまった服を乾かしたい人はここで乾かしてくださいね。これからさらに奥へ、敵の本拠地に乗り込むわけですし、その前に少しでも身体を乾かしておくに越したことはありませんから」
見渡せば、さっきまでの激しいカーチェイスと雨のせいで、みんなすっかりずぶ濡れのボロボロだ。
「いやぁ、ほんとに涼はいつも細かいうえに隅々まで気配りが行き届いてるよなあ。将来、絶対めちゃくちゃ良いお嫁さんになるやろねえ!」
琴さんが紙コップを両手で包み込みながら、ケラケラと楽しそうに笑い声を上げる。
「……いえ、私はネクロマンサーの古い家名とその血筋を守る立場ですので、誰かのところに婿入りなんてことは、そもそも考えていないんですけどね」
私は苦笑いを浮かべながら、どこか遠い目をしつつ深く長い溜息をつくのだった。




