ホッと一息
⚪︎鳥居小夜視点
大型トラックほどの巨体を誇る朧車が、轟音を立てながら暗い崖下へと真っ逆様に転落していく。私は上空からそれを見届けると、ふと道路の後方へと目を走らせた。幸いにも、これ以上追ってくる敵の姿はない。私は滑らないように慎重に足場を確かめながら、そっと車の屋根の上に舞い降りて、中にいるジョーさんたちに声をかけた。
「後方からの追撃は、どうやらもういないみたいですね」
「ふう……助かった。とりあえず、最初の山場はうまく切り抜けたか」
ジョーさんは助手席の窓から顔を出し、深く安堵のため息を漏らす。
車内をそっと覗き込むと、いま運転席には琴さんが座り、その隣の助手席では――なぜか、ジョーさんの膝の上に映子さんがちょこんと乗っかるような形で座っていた。
……えっ、これはいったいどういう状況なの?
「小夜ちゃんも、お疲れ様。土砂降りの中でびしょ濡れになって、本当に大変だったでしょ」
「あ、映子さんこそお疲れ様です……って、その体勢は?」
「とりあえず、ここで一息いれて少し休憩にしようぜ。車内は狭いし、映子は地味に重いしで、このままだとこっちの骨が折れちまう。小夜、悪いんだが涼の車に回って、この先に車を止められそうな場所があったら教えてやってくれ」
「ほんま、ジョーさんは相変わらずデリカシーのない人やなあ」
呆れたような顔をした琴さんが、ハンドルを握りながら軽い調子でツッコミを入れる。
私は首をかしげつつも、再び八咫烏の式神・クーちゃんにしっかりと掴まって、少し前方で走る涼さんの車へとフワリと移動した。屋根の上に綺麗に着地すると、運転席の窓をコンコンと軽くノックする。すぐに涼さんがスルスルと窓を開けて顔を覗かせた。
「小夜さん、お疲れ様です。後ろの様子は……?」
「お疲れ様です、涼さん。追撃はもういないみたいです。ジョーさんたちが、このへんでどこか車を止められる場所があったら、少し休憩にしたいって言ってますけど……」
「それがいいと思います。誰も大きな怪我がなくて何よりです。……いやあ、私もこの雨の中をずっと気を張り詰めて飛ばし続けていたから、さすがに少し集中力が切れそうでしたよ」
涼さんは片手でハンドルを握ったまま、疲労の滲む目頭をクイクイと指で押さえる。
そうして会話を交わしていると、ちょうど道の脇に青い「P」のマークが描かれた看板が飛び込んできた。その先には、車を止められそうな、少し開けた簡易的な駐車場が見えてきている。
「お、ちょうどいいタイミングで駐車場がありましたね。では、ここで一度車を止めましょうか」
涼さんは後ろを走る私たちの車に合図を送るため、ウインカーを上げながら、ゆっくりとその駐車場へとハンドルを切っていくのだった。




