意外な能力
⚪︎矢木剛斗視点
「うおー、怖えー……っ!」
激しい雨粒が容赦なく頬を打ちつけ、唸るような強風が俺の身体を激しく揺さぶる。周囲の木々や景色が、目にも留まらぬ速さで後ろへと流れていく。俺は涼さんに作ってもらった特製の盾をしっかりと両手で構え、いつ飛んでくるとも知れない敵の攻撃に全身の神経を尖らせて備えた。
やがて、後を走る巨大な朧車から、数え切れないほどの無数の矢が一斉に放たれた。
――だが、それらの矢は俺や車体に届く直前、まるで何かに阻まれたかのように空中でピタリと勢いを止め、そのままパラパラと道路の上へと虚しく落ちていった。
……時は少しだけ遡り、あの緊迫した車内。
「雪墨! いつもみたいにあの矢印をだせんか!?」
「だから、無理だってば!」
十一さんと、鈴々莉さんが激しく言い合っている。鳥居や琴さんのように空中を軽々と舞う術を持たない十一さんは、この絶望的な状況で何も手出しができないもどかしさにイライラを募らせていた。
「だから言ってるじゃない! 矢印は一方通行だから戻って来れないんだってば!!……第一、この雨じゃ威力も半減なんだから!」
鈴々莉さんも負けじと大きな声を張り上げて言い返す。鈴々莉さん曰く、彼女の術は特殊な墨を媒体にして描くぶん、これほどの土砂降りの中ではどうしても威力や精度がガタ落ちしてしまうらしい。
「くそっ……! せめて、奴らがもっと近くに寄ってきてくれれば――!」
十一さんは悔しそうに歯噛みしながら、舌打ちを一つ鳴らした。
「だったら、俺が囮になりますよ! こうして窓から身体を思い切り外に出せば、あそこのバケモノどもは絶対にこっちへ引き寄せられるはずです!」
俺は二人のやり取りを見かねて、思わずそう立候補した。窓から身体を露出させれば、憎き獲物である俺を狙って必ず攻撃を仕掛けてくるだろうと思ったからだ。
「それはさすがに危険すぎますね。あの天狗たちが放ってくる弓矢が、完全に霊的なものだけで構成されているという保証はない。もし普通の物理的な金属や木製の弓が混ざっていた場合、矢木君の能力でも威力を軽減しきれず、文字通り『滅多刺し』になってしまいます」
涼さんはバックミラーで後方の道路状況を冷静に確認しながら、首を横に振った。
その間にも、十一さんと鈴々莉さんの口論はさらにヒートアップしていく。
「あのう……もし、飛んでくる矢を防ぐだけなら……私、なんとかなるかもしれません」
そこに、申し訳なさそうにおずおずと手を挙げたのは、後部座席に静かに座っていた菊ちゃんだった。
そのひと言に、車内でバチバチと火花を散らしていた十一さんと鈴々莉さんの争いがピタリと止まり、全員の視線が一斉に菊ちゃんへと注がれる。
「いちおう、昔は天狗たちを抑え込んでいましたし……『守り石』が壊れてしまっているとはいえ、それくらいの迎撃なら……たぶん、私にもできます」
菊ちゃんはどこか自信なげに、しかし真剣な瞳でそう言った。
「よし……! ならば話は早い。矢木、すまんが頼む! 涼、あいつらが間合いに入ってきたとしても崖側は危険だ。思い切って右側の車線に車を寄せてくれ!」
十一さんは即座に状況を判断し、的確な指示を飛ばす。
「矢木っち、今からそこに特製の『足場』を描いてあげるから、それを踏み台にしてしっかりバランスを取りなよ! 十一、あいつらと完全に並んだら、とびっきりのでっかい一撃をくれてやるでしょ!」
鈴々莉さんは手早く車内で筆を走らせ、俺の足元に頑丈な足場の絵を描き出す。
「言うまでもない! ぶちかましてやるぞ、雪墨!」
「OK!天狗どもに目にモノ見せてやるんだから!」
二人の息は見事にぴったりと合い、反撃の狼煙が上がるのだった。




