また鎌爺に頼むか
⚪︎宮板琴
小夜ちゃんな、そういう余計なことを口にすればするほど、余計に変に意識してしまうんやで。ほれ、見てみい。矢木くんのやつ、さっきから思いっきり顔を赤らめとるやないか。
――いや、そんな呑気に若い二人の青春を見守ってる場合やないわ。私もうかうかしてられへん、行かんと。
「私も行ってくるで! 頼むで、鎌爺!」
私はすばやく呪文を唱え、愛用の数珠でかまいたちの式神・鎌爺を自分の身に直接おろす。すると、私のジーパンの裾や腰回りの空気が一気に渦を巻き、鋭い風の刃が纏わりついた。
『またかいな、わしをこき使って……』
「頼むわ、緊急事態やねんって! 前は一升瓶と特上の焼肉を奢ったやろ?」
『しゃあないなぁ……。今回も、同じ美味いもんで手打ちや』
どうにか鎌爺の文句を軽妙なやり取りで説得する。もっとも、式神を身体におろしたまま飲み食いするといっても、実際に味わうのは私自身やから、準備の手間はさほどかからない。ただ、食べた分のカロリーもしっかり私に蓄積されてしまうのが玉に瑕やけどな。
「じゃあ、私も行ってくるわ! 涼、あとの運転は任せたで!」
「こっちは任せてください! 琴さんも、無理はしないで気をつけてくださいね」
涼に力強く声をかけ、私は颯爽と助手席の窓から飛び出そうとした――が、あろうことか腰回りの絶妙な肉付きが窓枠に盛大に引っかかり、見事に身体がつかえてしまった。
「うおっ、まじか、引っかかった……! おい鈴々莉、ちょっとおしてや!」
「もう、琴さんは小夜ちゃんみたいにちっちゃくないんだから、身体のサイズをちゃんと自覚してよーっ!」
鈴々莉が後部座席からよいしょと上半身を乗り出し、助手席の窓枠に引っかかって足をバタバタさせている私の尻を力任せにぐいぐいと押し上げる。
「いや、小夜ちゃんみたいにスマートにカッコ良く飛び出そうとしたんやけどな……。さすがに少し無理があったか」
私はバツが悪そうに照れ笑いを浮かべる。
なんたって、私は女性の中では背が高いほうやからな。女性陣で一番高いのはもちろんやけど、男性陣の中でも一番背の低い涼とほとんど似たり寄たりやもんなあ。下手に高いヒールでも履いたら、あっさり涼の身長を抜かしてしまいそうや。
「鈴々莉、ありがとさん!」
勢いよく「スポッ」と窓から抜け出した私は、そのまま気流を足場にして宙を蹴る。そのままのスピードを保ったまま、私たちの車を猛追してくる朧車の方へと一気に距離を詰めた。
背後から迫ってくるのは、不気味な生首が貼りついた朧車と、そこに群がる犬の天狗ども――正式な妖怪の呼び名もあった気がするけど、ややこしいし思い出せないからとりあえず「犬天狗」でええか。
風を足の裏に纏わせて加速し、私は右足による渾身の飛び蹴りの要領で、朧車の不気味な眉間のあたりを思い切り叩き込んだ。
――が、その肌はゴムのように奇妙な弾力を持っており、蹴撃の威力が見事に吸収されてしまう。私は慌てて左足で鋭く横薙ぎに蹴り飛ばし、その反動を利用して車体から離脱すると、そのまま映子さんが運転する車の屋根に軽やかに着地した。
「小夜ちゃん! あの車に張り付いてる妖怪、打撃系の攻撃がちょっと効きづらいわ!」
「わかりました、任せてください!」
宙を舞いながら飛び回る小夜ちゃんに大きな声で注意を促す。小夜ちゃんも基本は棍使いの打撃近接戦闘やから、相性が悪いと厄介やからな。
「そっちは俺が銃で蜂の巣にしてやる! 琴は飛んでくる矢の対処に回ってくれ!」
ジョーさんが窓から身体を乗り出して叫び声を上げる。私は手に纏わせた鎌爺の風の刃を鋭く払い、次々と飛来する犬天狗たちの矢を片っ端からバチバチと叩き落としていくのだった。




