夜は明けて
⚪︎ジョー視点
夜が明けてすぐの早朝、俺たちはいよいよ現地へ向けての最終準備を始める。今日は幸いにも土曜日で学校は休みだから、小夜や矢木も気兼ねなく連れて行くことができる。
「あれっ? そういえば、撮影用の大きな機材とかは持っていかないんですか?」
大きな荷物を積み込む気満々で意気込んでいた矢木が、拍子抜けしたような顔で首をかしげる。
「映子の小型カメラくらいは持っていくつもりだけどな。なにせ相手が相手だ、現地で悠長に取材や撮影をしている余裕なんてないだろうし、高価な機材をうっかり壊しても割に合わないからな」
俺は朝飯代わりにプルタブを引いた冷えた缶コーヒーを喉に流し込みながら答える。
「天狗って奴らは、並の妖怪と違って極めて高い知能に優れているからね。もちろん知能だけじゃなく、純粋な戦闘力もずば抜けて高いことが多いの。昔からの伝承でも、数々の英雄を苦しめる超危険な強敵として描かれるのが定番なんだよ」
隣で小夜が補足するように説明すると、矢木は「なるほど……」と納得したように深く頷いた。
やがて、涼さんと映子がそれぞれに車を玄関前に回してくる。
「荷物用の車は前回と同様、ジョーと映子が乗っていくのがいいだろうな。何が起きるか予測がつかん。非常時の霊具や機材の運用は、その二人に任せるぞ」
十一が全体の配置を見渡し、手際よく指示を飛ばす。
「そうね、今回は私が運転していくわ。ジョーさんはこれから何が起こるか分からないんだから、今のうちにしっかり体力を温存しててね」
運転席の窓から映子が顔を出し、頼もしい笑みを向けてくる。
「ああ、頼むわ」
十一の判断と映子の言葉に、俺は短く頷く。
「じゃあ、こっちのもう一台の車は私めが運転しますね。前回は琴さんに運転をお任せしてしまいましたから……琴さんも、本番に向けて今のうちにしっかり体力を温存しておいてくださいね」
「おっ、おおきになあ、涼」
「菊ちゃんも、うちらと同じ車で行こうよっ!」
「はい、よろしくお願いします……」
鈴々莉に声をかけられ、菊ちゃんは大人しくその後を追って別の車へと乗り込んでいく。こうして、今回の潜入作戦に向けた車の編成が無事に決定した。
「なんか……前回の時よりも、一段とピリッとした緊張感のある雰囲気ですね」
物々しい空気を肌で感じ取ったのか、矢木が少し緊張した面持ちでボソッと呟く。
「だから、相手はそれだけヤバい奴らだってことだよ」
俺は言い残すと、飲み干したばかりの空き缶を片手に、ガシャリと車のドアを開けて乗り込んだ。
――よし、出発だ。俺たちはそれぞれの車にエンジンをかけ、天狗の支配する山岳領域へと走り出すのだった。




