特訓を見守りながら
⚪︎雪墨鈴々莉視点
真夜中、みんなが静かな寝息を立てている中で、私はふと目を覚ました。まだ半分寝ぼけた目をこすりながら頭をかく。見れば、小夜ちゃんは小さく丸くなるようにして可愛らしく寝ているし、隣の琴さんは寝相が悪いのかすっかり布団を蹴っ飛ばして、見事に大きなお腹を出して眠りこけている。
……あれ? そういえば、映子さんの姿が見当たらない。
そんなことをぼんやり考えていると、外からカンカンと乾いた剣を打ち合わせるような音が響いてきた。こんな夜中に一体何の音だろうと首をかしげ、私はそっと布団から起き上がると、音のする方へとこっそり向かってみることにした。
外に出てみると、煌めく月明かりに照らされた庭先で、十一と矢木っちが激しく剣を打ち合わせながら立ち合っていた。
そして、その様子を物陰からひっそりと覗き見している人影がある。――映子さんだ。どうやら二人の真剣な手合わせに見入っているらしい。
「……映子さん」
ウチは後ろから忍び寄り、トントンと映子さんの肩を指先でつついてみた。映子さんは「ひゃっ!?」と盛大に肩を跳ねさせ、ものすごい勢いでこちらを振り返る。
「もう、鈴々莉ちゃん……。いきなり後ろから突かないでよ、驚いたじゃない」
心臓を抑えながら、ふーっと大きく胸を撫で下ろす映子さん。
「ごめんごめん、そんなに本気でビビるとは思わなかったよ。ねえ、十一と矢木っちはあそこで特訓中なわけ?」
「そうみたい。私も物音がするのに気づいて、気になって降りてきたんだけど……」
ウチたちは並んで物陰から特訓の様子を眺める。よく見ると、映子さんはなぜか手に愛用のデジタルカメラを握りしめていた。これからいいシャッターチャンスでも狙って撮影でもするつもりなのだろうか。
「こういう真夜中の特訓風景って、なんだかすごく青春って感じでいいよねえ」
「本当ねえ……うん、すごくいいわぁ……」
ウチの意見に映子さんがしみじみと同意してくれる。――って、なんか今の映子さん、ものすごくうっとりした恍惚の表情を浮かべてるような?
「十一も普段はあんなにぶっきらぼうだけどさ、なんだかんだで面倒見いいし優しいもんね。こうして見ると、絵になるいいコンビじゃない? 矢木っちも言ってたよ、十一は男気もあるし、ああいうタイプは同性の男ウケもめちゃくちゃ抜群だってさ」
「えっ……男にモテる!?」
そこ、そんなに驚くところなのだろうか?
「まあ、女心にはちょっと疎そうだから、普通の女の子にはモテないかもしれないけどさ」
私はケラケラと笑いながら付け加える。すると映子さんは、首を横に振った。
「あら、そうでもないわよ? 十一さん、ファンの女の子たちから結構ファンレターとかもらってるんだからね」
えっ、マジで……!?
「だって、十一さんの書く小説の作風ってすごく優しくて繊細でしょ? おまけに、ファンレターの返事もわざわざ全部自分の手書きで書くくらいまめな人だし。まぁパソコンが使えないからだけど……」
マジで、マジで……!? あの十一が、ファンレターの返事を自筆で返してるっていうの?
「それに、普通に見てもカッコいいしね。体型だってモデルみたいに均整が取れてるし」
……それは確かに、その通りだ。正直に言って、顔や見た目だけなら、ウチの好みのストライクゾーンに完璧にドンピシャだったりする。
「ねえ、映子さん。そこまで十一の細かいところまで詳しく分かってさ……もしかして、映子さんもしかして十一のことを狙ってたりするわけ?」
ウチはなんだか急に胸がザワザワしてきて、不安そうな顔で映子さんを問い詰める。映子さんと十一は同期で同い年だって言うし、気になるところなのだ。
ウチのその直球な質問に、映子さんは一瞬だけ「きょとん」と目を丸くしたあと、ぶふっと声を吹き出して笑い出した。
「ないない! 何言ってるの鈴々莉ちゃん。だって、鈴々莉ちゃんがいるじゃない。私なんか、十一さんから見たら全く眼中にないでしょーよ」
映子さんは慌てたように両手をブンブンと激しく振って否定する。
「ウチがいるって……どういうことよ?」
その言葉のニュアンスに引っかかったウチが首をかしげると、映子さんは「あ……っ」としまったという顔をしてその場でピタリと固まった。
「えーと、その……ほら、色々と、ね?」
映子さんは顔を真っ赤にし、しどろもどろになりながら必死に言い訳を取り繕おうとする。
「お前たちも起きてきたのか?」
「すみませんっ! 俺たちの特訓の音で、起こしちゃいましたか……!?」
ちょうどその時、特訓を終えて汗だくになった十一と矢木っちが、ウチたちのほうへと歩み寄ってきた。
「 二人とも本当にお疲れ様。明日も早いし、体に障るからそろそろみんなで休みましょうねーっ!」
気まずい質問をごまかすように、映子さんはあわてて大きな声を出し、強引にその場の一切の会話を打ち切ってしまうのだった。




