月明かりの下で
⚪︎八十八十一視点
賑やかだった宴もようやく終わり、みんなで協力して手際よく片付けを済ませたあと、それぞれが床につくことになった。もっとも、男どもの居場所は、会社のフロアにある大きめのソファーで雑魚寝するだけだが。女性陣には、ちゃんとプライベートが守られる仮眠室を使ってもらっている。
「ふう……今日は少し飲み過ぎたかもしれないな」
いまだに心地よいほてりが残る顔を冷ますため、俺は夜風にあたりに外へと足を踏み出す。会社の外に出ると、今日は雲ひとつない快晴で、澄んだ夜空には煌めく月や星が眩しく輝いていた。腕を組みながらふと天頂を見上げると、吸い込まれそうなほど深い紺碧の闇が広がっている。
静まり返った夜の帳の中で、どこからか乾いた風を切る音が聞こえてきた。不審に思って音がする方へと歩いていくと、そこでは矢木が真剣な表情で黙々と木刀を振るっていた。顔中から汗が滝のように流れているが、本人はそんなことを気にする様子もなく、ただ一心不乱に自分の世界に入り込んでいる。
「おい、夜遅くにあまり無茶をしすぎると、明日に響くぞ」
静かな夜道に響いた俺の低い声に驚いたように、矢木はピタリと動きを止め、こちらを振り返った。
「あ、十一さん……すみません。でも、これが日課なもんで。野球部だった頃は毎日のようにバットを振ってましたし、体を動かさないとなんか一日が締まらなくて落ち着かないんです」
矢木は少し気恥ずかしそうに、額の汗を袖で拭いながらはにかんで笑う。
そのひたむきな姿を見て、俺は昔の自分を少しだけ重ねていた。気持ちは痛いほどよく分かる。俺だって駆け出しの頃は、自分の無力さを埋めるように一心不乱に訓練を重ねたものだ。こういう泥臭い努力を当たり前のように続けられる姿勢は、決して嫌いではない。
「……いい心がけだ」
俺は足元に転がっていた手頃な石ころをひょいと拾い上げる。そして、上着の懐からいつものメモ帳と鉛筆を取り出した。いつでも思いついたアイデアや物語のネタを書き留められるよう、俺は常にこれを持ち歩いているのだ。手早くメモに言霊を書き付けると、それを拾った石へとペタリと貼り付ける。次の瞬間、淡い霊光とともに紙がみるみる変形し、ずっしりと重そうな「石の剣」が姿を現した。俺はその剣を片手で軽々と持ち上げ、矢木に向けて不敵に構えてみせる。
「せっかくだ。少し付き合ってやろう。遠慮せずに、本気でかかってこい」
「えっ、いいんですか……? こんな時間にわざわざ付き合ってもらって……」
「構わん。ちょうどいい、酔い覚ましになる」
俺がそう言ってニヤリと笑うと、矢木も表情を鋭く引き締め、呼吸を整えてからぐっと木刀を構え直した。
「行きます……っ!」
矢木の踏み込む足音が夜の空気を切り裂き、月明かりの下で激しい木刀と石剣の打ち合いが静かに、しかし熱を帯びて始まっていくのだった。




