宴
⚪︎ジョー視点
特設した祭壇のまわりに供物を美しく並べ、俺たち編集部の面々は一列に整列する。祭壇の前には、緋の袴に白装束をまとった正装姿の小夜が立っていた。
小夜は厳かに祝詞を唱えると、白木の棒の先に白い紙垂のついた祓い串を鮮やかに振るう。それを菊さんの頭上で左右に振ると、彼女の姿はふわりと柔らかな淡い光に包まれた。
「これは……?」
菊さんは驚いたように自らの両手を見つめ、自分の体を確かめるようにそっと撫でる。
「これで、現世のご飯がちゃーんと食べられるようになりましたよ。お腹いっぱい、たくさん召し上がってくださいね」
そう言いながら、小夜は菊さんに満面の笑みを向ける。そして、朱塗りの器に美しく盛られた白米をそっと差し出した。菊さんはおそるおそる両手で器と箸を受け取り、箸先で小さくご飯をすくうと、恐る恐る口へと運んだ。
「すごい……美味しいです……」
そりゃあそうだろう、なんたって六百年ぶりのまともな食事なのだから。菊さんはあまりの美味しさに目を丸くし、両手でそっと口を抑えるのだった。
「あの……その、ちょっとお願いがあるのですが……」
ほんの少しだけ言いづらそうに、菊さんは小夜に視線を向ける。
「はい、なんでしょうか?」
「私のことは……『菊』とだけお呼びください。私のような幽霊の分際で、そんなご丁寧な言葉づかいをされてしまうと……かえって気後れしてしまいます故……」
恐縮しきりで小さくなる菊さん。逆にこちらが気を遣わせてしまったかと、小夜は少し焦ったように頬をかく。そして、顎に人差し指をちょこんと当てて少しだけ考え込んだ。
「うーん、じゃあさすがに呼び捨てにするのは私もちょっと気まずいから……そうだ、『菊ちゃん』って呼ばせてね。年齢も、生きてた頃ならきっと私たちと近そうだし、その方がしっくりくるよ。みんなも、それでいいですよね?」
小夜は菊さんの手を取り握ると、周囲にいる私たちに同意を求めるようにパッと振り返るのだった。
広めの大きめなテーブルを中央に引き出し、私たちはみんなで賑やかに席につく。さすがに今日のところは大宴会というのは不謹慎な気がするから、ささやかな歓迎の食事会といったところだ。テーブルの上には、みんなの自慢の料理の数々が所狭しと並んでいる。
「よし、それじゃあ……菊ちゃん。ささやかだけど、うちの歓迎会を楽しんでくれ。――乾杯っ!」
俺の号令に合わせて、みんなが一斉にグラスを掲げ、軽く音を合わせて打ち鳴らす。
「くうっ……! やっぱり一仕事終えたあとの冷えたビールは、体に染みるぜ……ッ! 矢木、お前が揚げたくれた唐揚げもめちゃくちゃ美味いじゃないか」
俺は揚げたての唐揚げを口に放り込み、すかさずビールを喉へと流し込む。先祖のルーツに少しドイツの血が混じっているせいか、俺は筋金入りのビール党だ。
「ありがとうございますっ! 口に合ってよかったです!」
「もう、ジョーさんはさっきの戦闘で大して体動かしてないじゃないですか」
隣で鳥居がジト目を向けながら突っ込んでくる。なお、未成年である矢木と小夜のグラスに入っているのは当然ながらノンアルコールであるジュースだ。
「それにしても……皆さん、そんなにお酒が好きなんですか? テーブルの端に、なんかすごい一升瓶がゴロゴロ並んでますけど……」
矢木がテーブルの上を見回しながら、素朴な疑問を口にする。
「ああ、日本酒とかは日々の祈祷の時にお供え物として使ったりするから、社内には常にストックがあるんだよ」
小夜が手際よくグラスにジュースを注ぎながら説明する。
「へえ、そうなんだ……。って、じゃあビールもお供えしたりするんですか?」
「いや、このビールの山は完全に俺の個人的な趣味だ」
うちの冷蔵庫を開けてもまともな食料は入っていないが、なぜかキンキンに冷えたビールだけは常に満載されている。俺は得意げにそう答えると、グラスに残っていたビールを豪快にあおり、空っぽになったコップを満足げにテーブルへと置くのだった。
ログインが中々できなかったので今日はこれだけになります(涙)




