恋人を殺してください
⚪︎ジョー視点
「心中お察しします。ですが、ご依頼は天狗の退治ではなく、その……『恋人を殺す』ということなんでしょうか?」
おおまかな事情は分かったものの、先ほどの物騒な願いとどうも綺麗に繋がらない。第一、恋人といっても大昔の生贄だった彼女と同年代の人であれば、とうの昔に亡くなっているはずだ。
「その……私には、生前から弥一という恋人がおりました」
菊さんは頬を少し赤らめながら、恥ずかしそうにそう告げる。
「私が人柱として贄になることが決まり、命を落とした後、弥一さんは強い想いから山伏の修行を修め、死してなお私に寄り添い続けてくれたのです」
どこか凛とした響きがありながらも、その声には誇らしげな色が滲んでいた。
「弥一さんが肉体の寿命を迎えて亡くなった後も、彼は霊となって私と共に、ずっとあの場所を守り続けてくれました。ですが……」
そこで菊さんは言葉を詰まらせる。こみ上げる嗚咽に遮られ、これ以上言葉が続かないようだ。
「無理をしなくても大丈夫ですよ。ゆっくりでいいですからね」
映子は優しく菊さんの背中をそっと撫でて、懸命に慰める。
「あの……守り石が破壊されてしまった後も、弥一さんは必死に私を守ろうと戦ってくれましたが、それにも限界がきてしまいました……。天狗どもに囚われてしまった彼は、無残にも悪霊にされ、いまや連中の悪事に加担させられているのです……!」
菊さんの大きな瞳から、とめどなく大粒の涙が溢れ出す。
「弥一さんは、生前から今までずっと、私のためにその人生のすべてを捧げてくれました。だからこそ……これ以上彼を苦しめたくありません。どうか、あの人を苦しみから、永遠に解放してあげてください……っ!」
菊さんは床にきちん正座し、額をつけそうなほどの勢いで頭を垂れる。
「どうか、弥一さんを……救ってくだ……さい。お願いします……っ」
その必死な願いは涙で激しく掠れ、後半の言葉はほとんど聞き取れないほどだった。そして、彼女はそのまま小さく震えながら、耐えきれず泣き崩れてしまうのだった。




