守護霊
⚪︎ジョー視点
これだから、恋愛絡みの面倒事はご免だ。
最初はそう思っていた。
しかし、どうやらただの痴話喧嘩というわけではなく、それなりに深い訳ありの事情があるらしい。
いま編集部には全員が顔を揃えて集まっている。先ほどまでの戦いがよほど激しいものだったらしく、十一と矢木は目に見えてぐったりと疲弊していた。あれ? でも烏天狗どもが逃げ出していった時は、あんなに疲れた様子じゃなかったような気がするけど……まあ、細かいことはいいか。
幽霊である菊さんを前にして、編集部員全員の視線が自然と彼女へと集中する。
「まずは……私の名前は、菊と申します。大昔に、村の生贄として命を失いました」
「生贄、ですか……? 一体、何のために?」
歴史や民俗学に詳しい小夜が、身を乗り出すようにして詳しく問い質す。
「その昔、私が生きていた村は幾度となく大災害に見舞われました。村を救うため、その災厄を鎮めるための人柱に選ばれたのです。そして死後は守護霊として、村の境界にある『守り石』に祀られておりました」
「なるほど……。生贄の文化となると、時代としては相当な昔になりますね」
小夜はキュッと顎に手を当てながら、頭の中で当時の時代考証を組み立てるように考え込む。
「ですが、死んでから霊になって初めて分かったことなのですが……あの辺りの山一帯は、もともと烏天狗たちの根城だったのです。当時から村を襲っていた災害の原因も、すべてはあの天狗どもでした。私はずっと、守護霊としてその脅威を押さえ込んでいたのです」
語るにつれて、菊さんの声のトーンがすーっと落ちていく。その表情には、言い知れぬ物憂げな陰が落とされていた。
「ですが……人間たちが道路を広げるという理由で、私を祀っていた『守り石』が破壊されてしまったのです。そのせいで、今まで抑え込んでいた天狗たちの封印が解け、自由になってしまいました……」
そこで言葉を詰まらせた彼女の目から、一筋の美しい涙がポロリと零れ落ちるのだった。




