戦いは終わった、、、はずなんですけどね
⚪︎司涼視点
戦闘はついに終わりを迎えたようだ。烏天狗たちのけたたましい鳴き声もすっかり消え去り、あたりに静寂が訪れる。
「終わったようですね」
「そうみたい……」
鈴々莉さんと私はホッと胸を撫で下ろす。しかし、いつまでも悠長に浸っているわけにはいかない。そこら中に散らばった烏天狗の骸の処理をしなくてはならないのだ。
「涼さん、後始末をするんでしょ? 私の矢印に乗っていく?」
鈴々莉さんが得意げに筆を掲げながら声をかけてくるが、私は思わず苦笑いを浮かべた。
「それをこんな高いところから普通にできるのは、運動神経のいい十一さんや矢木くんくらいですよ」
私はとても二階の窓から飛び出してそんな離れ業をやる自信はない。私たちは階段を急ぎ足で降りて、みんなのいる地上へと合流することにした。
すると、そこには顔を真っ赤にして泣きじゃくっている小夜さんと、それを懸命に励ましている琴さんの姿があった。
「ちょっと、小夜ちゃん、一体どうしたの!?」
鈴々莉さんが慌てて駆け寄り、琴さんから事情を聞き取る。その説明を聞き進めるにつれて、鈴々莉さんの表情はみるみるうちに鬼のように険しく変化していった。
そして、彼女は親の仇を見るような目で十一さんを睨みつけると、急に空中に円柱の丸太のような巨大な図形を描き始めた。
――あっ、これはやばいやつだ。
私は本能的に危険を感じて、大慌てで十一さんのもとへと駆け寄った。
「十一さんっ!!」
「司、お疲れ……」
十一さんの言葉が最後まで紡がれるよりも早く、恐ろしいスピードで描かれた墨の丸太が、彼の鳩尾へと凄まじい勢いで直撃し、盛大に吹き飛ばした。
ああっ、間に合わなかった……!
「よくも小夜ちゃんを泣かせてくれたな……っ!」
「まっ、待て雪墨……! あれは誤解だ……っ!」
激しく咳き込みながら必死に弁明する十一さん。一体何があったのか分からないが、今の鈴々莉さんの怒りは凄まじすぎて聞く耳を持たない。
「鈴々莉さんっ!! もう大丈夫ですから落ち着いてください!」
今度は慌てた様子で小夜さんが止めに入る。鈴々莉さんは鼻息を荒くしていた。
「いったい、何があったんですか?」
「実はな……」
私はその場で琴さんから詳細な説明を受ける。なるほど、鈴々莉さんがその事情を聞けば、確かに十一さんに怒るのも無理はないかもしれない。もっとも、私も普段からあまり気にしてはいなかったけれど。ちょっと十一さんに同情する。
「まあまあ、鈴々莉さん、そう怒らないで落ち着いてください。小夜さんも、今後は何かしら対策をしてもらうということで、それで丸く収まるのでは?」
「そうですよ!そうですよ! 私の不注意なので!」
小夜さんと二人がかりで必死に鈴々莉さんをなだめる。
「あんなの気にする範囲じゃないだろ。それより、日影の奴の方がよっぽど問題だろうがっ!」
ふき飛ばされた十一さんが、痛みをこらえながら不服そうに反論する。それを聞いた鈴々莉さんが、再びキッと鋭い眼光で十一さんを睨みつけた。
十一さん、お願いだからこれ以上火に油を注ぐような真似はしないでほしい。
私は内心で深い溜息をつきつつ、仕方がなくそちらに加勢することにした。
「確かに映子さんはちょっと……目のやり場に困りますよね。女性陣からも、そろそろ誰かから注意してもらえませんか? シャワーを浴びたあとにバスタオル一枚でフラフラ出てくるし、夏場は暑いからって下着姿のままソファーで寝転がってるし。見ているこっちが変に気を使っちゃいますよ」
私は少し顔を赤らめながらそうこぼす。
映子さんは本当に、そういうデリカシーというか羞恥心というものが綺麗さっぱり抜け落ちている人なのだ。いつもラボで一緒に研究しているジョーさんが、あんな調子でも全く動じないのはある意味ですごいことだと思う。
「いつも注意はしとるんやけどなぁ。映子さん『私の裸を見て嬉しい人なんていないでしょ』って笑って返されるんよ。しかもそれが嫌味や謙遜じゃなくてガチやからたちが悪くてなぁ……」
琴さんが腕組みをしたまま、深刻そうに頭を抱えて悩んでいる。
「まぁ、こうして思春期の矢木くんも新しく入ってきたことだし、今度こそその辺りを理由に厳しく言ってみるわ」
琴さんが呆れたようにため息をつく。
「えっ、映子さんって……そんなにすごいんですか?」
話を聞いていた矢木くんが、きょとんとした顔で琴さんに問いかける。おいおい矢木くん、なんだか少し鼻の下が伸びていませんかね?
その矢木くんの様子を察知したのか、隣にいた小夜さんの目がスッと鋭くなった。
「だけどさ、矢木くんにも見られてるのに、十一さんだけにこうしてお仕置きが下るってのも、なんだか不公平だよね! 矢木くんにも、同じお仕置きをお願いします、鈴々莉さんっ!」
「よしきたっ!!」
鈴々莉さんは返事をするやいなや、一瞬の隙もなく丸太の図形を書き上げ、矢木くんの鳩尾へと容赦ない一撃を叩き込んだ。
「鳥居、お前……っ!」
矢木くんは自分の鳩尾を両手で強く押さえたまま、その場に苦しそうにうずくまる。
――やっぱり、矢木くんが霊的な攻撃や呪いに対して異常なまでの耐性を持っているというのは本当のようだった。
十一さんがあんな風に綺麗に吹っ飛ばされているのを見れば一目瞭然だ。まあ、こんな物騒な方法でその事実を確認したくはなかったけれど。
そんな騒ぎの中、小夜さんはふいと顔をそっぽに向けるのだった。




