油断
⚪︎鳥居小夜視点
「私も助っ人するで!! と思ったけど、もう終わったようやな」
菊さんを安全なところへ避難させてきたのだろう、琴さんが合流してそう声をあげる。
「琴!! さっきの女の子は依頼者か?」
「たぶんな。映子さんに預けてきたわ」
「すまんが、お前らはそのまま周囲の警戒を頼む。俺は話を聞いてくるっ!」
ジョーさんは、足早にすたこらと社内へと戻っていくのだった。
「どうせ、霧のことで説教されると思って逃げたんだろ」
十一さんが舌打ちをする。たぶん、隠蔽の霧を発生させるのが遅れたのは、機械がどこにあるかを探し回っていたからだろう。そして、社内がいつものように散らかっていて、どこにしまったか分からなくなっていたに違いない。
「なんとなく、状況は読めちゃいますよね」
「その読みで当たっとると思うで。本当にあの二人は……」
琴は苦笑いを浮かべながら、やれやれといったふうにため息をついた。
「鳥居!! さっきはすまなかった!!」
突然、矢木くんが大声で謝ってくる。
「琴さんから事情は聞いたから、もう大丈夫だよ。こっちこそ、とっさに断っちゃったけど、矢木くんのことが嫌いだからあんな態度をとったわけじゃないからね」
私は慌てて手をブンブンと振って答える。それでも、矢木くんは申し訳なさそうに頭を下げようとする。
「私にややこしい話が回らないように、気を利かせてくれたんでしょ? 逆にありがとうね」
私は努めて明るい笑顔を見せる。すぐ隣で琴さんがニヨニヨと意地の悪そうな笑みを浮かべているが、今は無視だ。
「そう言ってもらえると助かるよ。俺、そういう気遣いとかは少しうとくてな。あと……」
矢木くんは何か言い淀むように言葉を切った。顔を赤く染め、なんだかとても照れくさそうだ。えっ、一体なんだろう?
「いや、やっぱりいいや」
「ううん、何か気になることがあるなら何でも言ってよ」
そう言われると、かえって気になって聞きたくなってしまうものだ。隣では琴さんがワクワクしたような目を向けている。
まさか告白とか……? いやいや、そんなわけないか。ちょっとだけ胸がドキドキしてしまう。
少しだけ考え込んだ末、矢木くんは意を決したように口を開いた。
「鳥居、その……制服の下に、もう一枚何か履いた方が……」
「え? 制服の下?」
「その、……花柄が見えてるぞ」
私は頭の中にハテナを浮かべ、どういうことかと考える。花柄?
そして数秒後、その意味に気づいてしまう。私は慌てて自分のスカートの裾をぎゅっと押さえた。カッと一気に顔に血が上り、耳たぶまで真っ赤に染まっていくのが自分でもわかる。そして、目の前の矢木くんを殺すような目で睨みつけた。
「ばかぁーーっ!!」
私の渾身の平手打ちは、見事な良い音を立てて矢木くんの頬に直撃し、彼の体が大きくのけぞる。
その騒動を少し離れた場所から見ていた十一さんは、やれやれと深い溜息をついた。
「矢木、お前は気にし過ぎだ。煩悩の塊か? 鳥居を見ろ、いつも全く気にしていないぞ。それこそがプロというやつだ」
「なんですとっ!?」
私は十一さんの信じられない言葉に、思わずぎょっとしてそちらを凝視する。
「そうやで、矢木くん。思春期やから仕方がない面もあるかもしれんが、小夜ちゃんのプロ根性を見習いや。さすがやで。下着が見えてても完全に無視や。私にはとても真似できん」
「嘘でしょ……!?」
今度は琴さんの言葉に、私は慌てて顔を向ける。どう見ても冗談を言っている顔ではない。
「そうだな……すまん、鳥居。俺の気にしすぎだった……って、鳥居!?」
「うう……っ!」
私は恥ずかしさとショックで顔を真っ赤に染め上げたまま、両手で顔を覆う。あまりの恥ずかしさに涙目になりながら、もう何も言い返すことができない。いつも一緒に前線で戦っている2人がいうなら、間違いない。制服で戦う事はあまりないとはいえ、油断してた。
そうだよね、私飛ぶもんね、見えちゃうよね
何で気づかなかったんだろうと、悶える。
「まさかと思うけど、小夜ちゃん、全く気づいてなかったん……?」
琴さんが、少しだけ気まずそうに遠慮がちに聞いてくる。
私は言葉もなく、何度も激しく縦に首を振るのだった。




