白霧の戦いと先輩のプライド
⚪︎鳥居小夜視点
あたり一面に濃霧が発生したことで、烏天狗たちは明らかに動揺の色を浮かべている。さきほど来訪した菊さんという霊を狙ってやって来たのだろうが、私たちの思わぬチームワークと反撃に、すっかり面食らっているようだった。
私は容赦なく上空を旋回し、烏天狗たちを次々と叩き落としていく。矢木くんがしっかりと囮を引き受けてくれているおかげで、私は自分の攻撃に存分に集中することができていた。けれど、どうしても胸の奥では心配の気持ちが勝ってしまう。
「矢木くんっ!! 大丈夫!? 無理はしないでね……!」
私は風を切る空中から、地上に向けて声を張り上げた。
「大丈夫だ!! 任せとけって!!」
矢木くんはこちらを見上げながら力強く答える。ただ逃げ回っているわけではない。追いついてきた烏天狗に対しては愛用の剣で鋭く斬りつけ、躱しきれない羽は骨の盾で確実に防いでいる。
前回の戦いの時にも思ったことだけど、矢木くんは一般的な物理攻撃への耐久力とは別に、霊的な呪いや攻撃に対する耐性がかなり高いようだ。時おり敵の羽が体を掠めているように見えるが、不思議と傷ひとつ負っていない。よく考えてみれば、たとえ映子さんのプレートを持っていたとは言え、あの「雷喰い」の強烈な一撃をまともに食らって生き延びているわけがないのだから。
「……ほんと、すごいセンスだよね。ただ先輩として、後輩に負けるわけにはいかないかな」
私は思わず、小さくそう呟いた。運動神経そのものは矢木くんの方が当然いいとしても、先輩としてのプライドだってある。
やがて、形勢不利と悟ったのか、烏天狗たちは一斉に背を向けて逃げ出し始めた。
「十一さん、追いますか?」
私は気を緩めず、棍をしっかりと構えたまま眼下の十一さんに声をかける。
「いや、深追いは危険だ。やめておこう」
十一さんも禍々しい鎖鎌を構えたまま、逃げる敵の背中を冷静に見据えて様子を伺っていた。
それを確認すると、私はクーちゃんに導かれるまま、静かに地面へと着陸するのだった。




