骨の弓と傀儡の舞
⚪︎司涼視点
(喧嘩しているようで、こういうところは息がぴたりと合うんですよねぇ。同族嫌悪ってわけでもなさそうですし、愛情表現が現役高校生の小夜さんや八木くんよりも若いんでしょうか?)
鈴々莉さんは阿吽の呼吸で二人を送り出した。私はそのやりとりに、思わず苦笑を漏らす。
十一さんと矢木くんを見送ると、私はすぐさま自らの霊力を練り上げ、骨の召喚へと取り掛かった。冥界から呼び寄せた様々な妖怪の部位の骨を空中で器用に組み上げ、巨大な弓を作り上げる。もちろん、放つための矢もすべて骨で出来ている。
私は窓辺へと歩み寄り、きりと弦を引き絞りながら上空の烏天狗へと狙いを定めた。眼鏡のレンズ越しに獲物を凝視し、確実にその眉間へと照準を合わせる。そして、指を離す。
風を切り裂いて放たれた骨の矢は、一閃の光のごとく烏天狗の眉間を正確に撃ち抜いた。
「おっと……!」
狙撃された烏天狗が、力を失って虚空から脱力したように落下していく。私はそれに素早く手のひらを向けた。まるで操り人形の糸を引くような感覚で霊力を通す。烏天狗の屍は、空中でピタリと静止した。
先の戦いで操った骸骨など、元々冥界に属する妖怪を従えるのは比較的容易い。しかし、これほど力のある屍を操るにはそれ相応の負荷がかかる。ただの骸骨や輪入道に比べても、この個体は一段と強大な霊力を有しているようだった。
私はその骸を思い通りに操り、上空を無軌道に飛び回らせる。狙いは陽動と撹乱だ。敵同士で勝手に同士討ちでも始めてくれれば御の字というものだ。もちろん、操った烏天狗に羽を飛ばさせたり、鋭い爪で周囲を切り裂かせたりする攻撃の手も緩めない。
「激しく動き回っているのは私が操ったものです! どうぞ遠慮せず、盾でも何でも好きに使ってください!」
私は激戦の続く上空で飛び回る小夜さんに声を張り上げた。
「ありがとうございます……! 涼さん!」
小夜さんは私の操る烏天狗の残骸の影に身を隠しながら攻撃を放ち、時には巧みに盾として利用して敵の猛攻を防いでいる。骸には無数の鋭い羽が突き刺さっているが、操り手であるこちらには一切のダメージはない。
ふと隣に目をやると、鈴々莉さんが筆を振るい、墨で描いた矢印を宙に走らせていた。矢印は敵の放った羽を次々と貫き、烏天狗たちを容赦なく撃ち落としていく。
「ねぇ、涼さん。矢木っち、あんな前線で本当に大丈夫かな?」
鈴々莉さんが、少しだけ心配そうな横顔を向けて聞いてくる。私は彼女を安心させるように、落ち着いた穏やかな声で答えた。
「十一さんが大丈夫と言うなら、きっと大丈夫だと思いますよ」
「えー? でも、十一の言うことだよ? 本当に信用できるー?」
鈴々莉さんはわざとらしく十一さんを疑うような口ぶりをみせる。もっとも、本気でそう思ってる訳ではなく、照れ隠しなのだろうけれど。ふと、私は彼女が普段の呼び方に気づいているのか気になった。
ジョーさん。涼さん。矢木っち。
男性陣の中で、なぜか十一さんだけが呼び捨てにされていることに。
「十一さん曰く、矢木くんの運動神経は相当なものだそうですよ。もし彼が十一さんと同じ期間だけ修業を積んでいたとしたら、実力は矢木くんの方が上になるだろうって」
「マジで……!? そんなにすごいの!?」
私の言葉に、鈴々莉さんは思わず絶句した。あの人をあまり褒めたりしない十一さんが、そこまで高く評価するのも珍しいことだ。
「もっとも、『絶対に本人には言うな』ってきつく口止めされてましたけどね」
「あいつらしいわー」
私たちは攻撃の手を緩めることなく、小さくクスクスと笑い合うのだった。




