黒い足場と師弟の絆
⚪︎雪墨鈴々莉視点
楽しい恋バナの最中に、ふとただならぬ不穏な気配を感じ取った。
上空? みんなの楽しげな言葉がぱたりと消え去る。
「どうしたんですか?」
矢木っちはまだ状況が分かっていないようだけど、まあ、修行を始めたばかりだから仕方がないか。
うちは机の上に転がっていた筆を掴み取り、迷いなく空中に矢印を描き出す。あまり気分が乗らない時でも、こういう実務的な作業ならすぐに手が動くものだ。
「雪墨!!」
「OK!!」
ほら、そう来ると思った。十一ならこういう時、真っ先に前線へ飛び出すに決まっている。
十一『黄昏の煙管に眠る幽玄の理よ、我が呼びかけに応じ、彼の世の縛鎖を顕現せよ――出でよ、縛鎖の刃』
十一は自分のキセルに、文字を書き込んだ半紙をペタリと貼り付ける。半紙が眩い光を放つと、それは禍々しい焔に包まれた鎖鎌へと変化した。
さらに十一は見回し、部屋の一点でぴたりと目を止める。夏の必需品である、安物の薄汚れたクーラーだ。
十一『冷厳なる虚空の息吹よ、凍てつく風の牙となりて我が手に宿れ――吹き荒べ、風の刃』
クーラーに別の半紙を貼り付けると、それは鋭い風の刃へと姿を変えた。十一はそれを矢木っちへと手渡す。
「敵だ!! 行くぞ!!」
「軽っ……!? 敵ですか!?」
まだ完全に事態を飲み込めていない矢木っちが戸惑いの声をあげる。
「矢木っちは、まだ危ないんじゃない?」
うちは十一に確認しながら、もう一つの矢印を書き始める。もっとも、こういう時に止めたってどうせ聞かないんだろうけどさ。
「実戦に勝る訓練はないさ。俺が責任を取るし、いざとなれば守る!! 出来るな、矢木!!」
「はいっ!!」
ほらみろ。本当に体育会系なんだから。まだ短い付き合いとはいえ、熱い師弟愛みたいなものが出来上がっている。矢木っちも元野球部だと言っていたし、そういう気合いや根性みたいなノリが十一と合うんだろう。うちも、そういう嫌いじゃないけどさ。
それにしても――ちょっとだけ、妬けちゃうな。
ん? 妬ける? 何でだろ?
「矢木くん、行くならこれを!!」
涼さんが、その場で召喚した骨を器用に組み上げた盾を矢木っちに差し出す。
「ありがとうございます!!」
「気をつけてくださいね! 何かあったらすぐに戻ってくるんですよ!」
心配性の涼さんが、ひどく心配そうな顔で声をかける。
「できた!! 2人とも、しっかり捕まって!!」
うちは窓を勢いよく開け放つ。眼下では小夜ちゃんがたった一人で烏天狗の群れを相手に奮闘していた。上空にもかなりの数がいる。
十一と矢木っちは、うちは描いた黒い矢印の足場へと飛び乗った。
「行けっ!!」
うちは短く声を張り上げると、二人を前線へと送り出すのだった。




