烏天狗の群れ
⚪︎鳥居小夜視点
「クーちゃん、お願いっ!」
私は愛鳥である八咫烏のクーちゃんへと鋭く命じ、無数の黒い羽を弾丸のように烏天狗の群れへと撃ち出させた。瞬時に、空中であらゆる羽が激しく交差して火花を散らす。だが、敵の数は圧倒的だった。隙を突いて容赦なく迫り来る鋭利な羽を、私はピーちゃんの黄金色の障壁で辛うじて打ち消していく。それでも防ぎきれずに飛んでくるものは、地面を身軽に回転しながらギリギリのところで回避した。
激しい攻防が続くうちに、私の制服のあちこちは煤で汚れ、あまつさえ鋭い風圧で切り裂かれていく。
――相手は多勢に無勢、このままではじわじわと押し切られてしまう。手元にいつもの棍さえあれば一気に形勢を逆転できるのに、今はそれが手元にない。焦燥感から、冷や汗が背中をツーっと伝い落ちた。
「鳥居っ!」
絶望感が胸をよぎりかけたその時、ふと背後から私を呼ぶ力強い声が響いた。
弾かれたように視線を上げると、そこには矢木くんと十一さんの姿があった。鈴々莉さんが空中に描き出した、霊力を宿す黒い矢印に乗り、2階の窓から勢いよく急降下してくるところだった。
矢木くんの右手には鋭利な両刃の剣が握られ、左手には呪力を帯びた骨で出来た堅牢な盾が構えられている。
そして十一さんは、手元で禍々しい真紅の炎を纏わせた鎖鎌を、まるで自分の身体の一部であるかのように軽やかに身にまとっていた。
矢木くんは着地の勢いそのままに、一直線へと地面を駆け抜ける。
「烏ども、俺はこっちだ!! 相手をしてやるぜ!!」
その挑発に釣られた烏天狗たちの意識が、一斉に矢木くんへと向けられる。頭上から容赦なく降り注ぐ無数の羽の嵐。だが、彼は怯むどころか、むしろ突っ込んでいった。さすがは野球部のレギュラーとして日頃から鍛え上げられた抜群の運動神経をいかんなく発揮していた。驚異的な足の速さと、危機を予測する卓越したフットワークで、雨あられのような羽の群れを鮮やかに、まるでダンスでも踊るようにかわしていく。
「矢木、前方の囮は任せたぞ!」
愛弟子を完全に信頼しきったような頼もしい口調で、十一さんが声を飛ばす。
矢木くんも「任せてください!」と、冷や汗を流しながらも力強く声を張り上げて応じた。
その絶妙な連携の隙を逃さず、十一さんは一歩前に踏み出すと、頭上で炎の鎖鎌を凄まじい遠心力で回転させた。まるで意思を持つ生き物のように、漆黒の夜空を這う鎌が、鋭い軌跡を描いて3体の烏天狗の胴体を一気に絡め取る。
捕らえられた妖怪たちは烏の鳴くようなけたたましい悲鳴を上げ、次の瞬間、鎌から発せられた激しい業火に包まれて、そのまま跡形もなく燃え尽きていった。
「鳥居っ、受け取れ!!」
十一さんが一瞬の隙を突いてそう叫ぶと、私の愛用する棍をこちらへ力強く放り投げる。
私は宙を舞うその棍を目がけて跳び、迷わず空中でしっかりと受け止めた。それとほぼ同時に、私の意思を察したクーちゃんが背後から回り込み、両方の肩をガッチリと爪で掴み上げて、一気に上空の戦闘空域へと舞い上がってくれた。
「ありがとうございます……っ! 私は上から行きます!」
風を切り裂く上空で私はしっかりと棍を構え直し、眼下に群がる烏天狗たちめがけて一気に急降下しながら、次々と叩き落としていくのだった。




