恋愛の難しさ
⚪︎日影映子視点
誰にもバレていないと思っていた自分の趣味。どうしてバレてしまったのだろうか!? しかも、よりによって一番接点がなさそうな十一さんに。
私はこっそりと十一さんに尋ねてみた。
「何で十一さん、BLとか知ってるんですか?」
「そりゃ、文章を書く仕事を生業としているからな。読んだことはないが、知識としてはあるぞ」
私はポカンと口を開けてしまう。完全に盲点だった。
「それに、お前はいつも一人でぶつぶつと言っているだろうが」
私は恥ずかしさに耐えきれず、両手で頭を抱えた。すっかりバレていた――。じゃあ、十一さんについてブツブツ言っていたのも、知った上で今までスルーしてくれていたということ……!?
「まあ、頭の中で空想するのは別にいいんじゃないか? 俺だってそれを文章にして生計を立てている仕事だしな。……さっきは、巻き込んですまなかったな。雪墨に言われて、ついな」
十一さんが少しバツが悪そうに謝ってくる。自分がネタにされていたかもしれないというのに、なんと寛容すぎる対応だろうか。
「あの、この話は――」
「分かっている。これ以上詮索する気はないし、言いふらす気もない」
その言葉に、私は心底ホッと胸を撫で下ろすのだった。
「それにしても、皆さん結構恋愛の話とかするものなんですね。ちょっと意外というか……」
矢木くんが不思議そうに聞いてくる。さっきは冗談だったとはいえ、直前に鳥居ちゃんから盛大に振られたばかりだというのに、メンタルが強いものだ。
「オカルトと恋愛は、古くから切り離せないものだからな」
「昔からの怪談でも、男女の情念や愛情が絡んだものは非常に多い。物書きとしても、愛情は決して避けては通れないテーマだ」
ジョーさんの言葉に、十一さんが真面目なトーンで補足する。
「この世に未練を残して霊になるものも、やっぱり恋愛がらみが圧倒的に多いわねぇ」
私の言葉に、矢木くんはなるほどと大きく手を打った。
「ただ、そこが問題でな……」
ジョーさんは面倒くさそうに息を吐き出すと、灰皿にタバコを雑に押し付けた。
「恋愛絡みの依頼は、とにかく解決が難しいんだこれが」
「というと?」
「最後に一度だけ恋人に逢いたい、とかの純粋なものならまだいいのよ。けれど、愛憎のもつれというか、生々しいドロドロしたものも多いから」
私も思わず苦笑いを漏らす。テレビの愛憎劇やサスペンスドラマ顔負けの生々しい話を、この仕事をしていると耳にすることが少なくない。
「振られた相手に復讐したいとか、そういう厄介な執念もあってな。まさか、俺たちが現実の人間に手出しするわけにもいかないし、本当に頭の痛いところだ」
ジョーさんはれやれといった様子で天を仰いだ。
「矢木、お前もそういう色恋沙汰のトラブルには気をつけろよ。さっき小夜に堂々と告白したくせに、他の女と仲良くしたりなんかしたら、あとで彼女に後ろから刺されるかもしれんぞ」
ジョーさんが面白がるように、矢木くんに意地悪な笑みを向ける。
「何にせよ、意図してなかったとは言え、小夜ちゃんにはちゃんと誤解を解いて、謝っておいた方がいいんじゃないかな」
私は諭すように矢木くんへと言葉をかける。さっき琴ちゃんが追いかけていってくれたから、きっとあの子が事情を説明してくれているはずだ。
……ねえ、琴ちゃん、大丈夫よね?
きちんと小夜ちゃんをフォローしてくれているといいけれど。信じているわよ。
「はい、鳥居にはちゃんと謝ります……!」
矢木くんが素直に反省してうなずいてくれたのを見て、私はひとまず胸をなで下ろすのだった。




