恋バナの結末・矢木、散る
⚪︎矢木剛斗視点
十一さんがどこか憮然とした表情を浮かべ、その隣では映子さんが小さく手を合わせて恐縮している。
「で、矢木っちはどうなのよ?」
ギクリ。十一さんをやり込めることに成功して勢いづいた鈴々莉さんが、一転してニヤニヤとした笑みを浮かべながら俺に矛先を向けてきた。せっかくジョーさんが話をまとめてくれたと思ったのに、どうしてこう都合よく飛び火してくるのか。
俺自身、高校生活のほとんどを野球の練習に注ぎ込みすぎて、恋愛なんて洒落たことについて真面目に考えたこともなかった。
思わず逃げ場を求めてチラッと脇に目をやると、次は自分に順番が回ってくるのではないかと察したのか、鳥居もうんざりしたような顔だ。気持ちは分かる。ここは一つ、俺が人肌脱いでこの空気を一掃しなければならないだろう。俺は鳥居の方を向く。
「鳥居!!」
呼びかける。鳥居はキョトンとした表情で俺を見つめる。
「俺の好きなタイプは鳥居なんだ!! クラスが同じになった時からずっと気になってた。……だから、俺と付き合ってくれ!!」
俺は覚悟を決め、まっすぐ鳥居の目を見据えて宣言した。だが、普段慣れない告白なんて大役のせいか、表情は緊張でガチガチにこわばり、声も盛大に震えてしまう。
さっきのジョーさんの堂々とした真似をしたつもりだったが、似ても似つかない。まあ、これだけ派手にやれば場の空気も綺麗に収まり鳥居に質問は行かないはず――。
だが、俺の予想は盛大に外れた。
鳥居の顔が、まるで瞬間湯沸かし器のように一気に真っ赤に染め上がったかと思うと、両手を激しく振っておろおろとあわてふためき始めた。
「ご、ごめんなさいっ……!!」
上擦った声で深々と一礼されるやいなや、鳥居は文字通り逃げ出すように部屋の外へと走り去ってしまった。
……って、速攻で盛大に振られた!?
俺は片手を差し出したまま、その衝撃的な結末にその場で石像のように固まった。
「矢木っち、ごめん……! うちが変に煽ったりするから……!」
鈴々莉さんに、泣きそうなくらい申し訳なさそうな顔で謝られてしまう。いやいや、こんなガチトーンで受け取られるなんてこっちも想定外だっての!?
「人生の中には、時としてこういう事もある。強く生きろ、矢木」
「大丈夫ですよ。矢木くんは性格もいいし、きっと素敵な出会いが他に見つかりますから」
十一さんと涼さんが、ドンマイとばかりにポンと俺の肩を叩き、何事もなかったかのようにそれぞれの席へと戻っていく。
ねぇ、ちょっと待ってくれ。今までの流れを最初からちゃんと見てたよね!? そんな哀れむような目で見ないでくれよ!
「矢木。……ああいうのはな、冗談が通じる相手にやるもんだ。それに、もっとこう……誰がどう見ても冗談だって分かるようにやれよな」
ジョーさんは流石に事情を分かっているのか、必死に笑いを噛み殺しながら声をかけてくれる。
「ちょっとリアル過ぎたわよねぇ。どう見ても、一世一代のガチ告白にしか見えなかったもの、あれは」
困ったような、面白がるような絶妙な顔で映子さんにフォロー(?)され、俺はぐったりと力なく項垂れるのだった。




